救急医 ざわさんのブログ

東京の病院で三次救急をやっています.自分の日常診療の知識のまとめをしたり、論文や本を読んで感想文書いています。日常診療の延長でブログを始めました.ブログの内容の実臨床への応用に関しては責任を負いかねますので,各自の判断でお願いします.内容や記載に誤りや御意見がございましたらコメント頂ければと思います.Twitterもやっています(https://twitter.com/ryo31527)

甲状腺機能低下や粘液水腫性昏睡の話

お久しぶりです。今回は、甲状腺機能低下症についてまとめてみました。
既往に甲状腺機能低下を持っている患者さんは一般病棟などでもよく見かけますよね。
 
甲状腺機能低下の疫学
入院患者の1%程度で見られると言われています。
続発性は原発性の1/1000程度の頻度ということなので、原発性(つまり甲状腺そのものに問題がある)の方が多いわけです。
甲状腺機能低下症の中で、一番多いのは慢性甲状腺炎(=橋本病)です。
 
甲状腺機能低下症の症状
甲状腺機能の低下により多彩な症状を呈します。
treatable dimentiaとして慢性硬膜下血腫や甲状腺機能低下が鑑別に挙がることは有名ですよね。
嗄声、皮膚乾燥、寒がり、筋力低下、便秘、うつ、月経不整、思考力低下など一見不定愁訴のような症状を呈するほか、胸腹水貯留、心嚢水貯留、貧血、低Naなども来します。
 
甲状腺機能の採血結果の解釈
 
FT4が低下していれば、甲状腺機能低下があることは間違いがありません。
ただし、それが原発性か続発性かの解釈は必要です。NTIという病態(後述)が絡むと解釈が難しくなるので、採血前にあらかじめ患者の全身状態や基礎疾患を把握しておきたいですね。
 
FT4↓、TSH↓ … 続発性甲状腺機能低下
FT4↓、TSH>10mU/L … 原発甲状腺機能低下
FT4↓、TSH 4.5-10mU/L … NTI(※)
FT4 正常範囲内、TSH↑ … 潜在性甲状腺機能低下
 
原発甲状腺機能低下が疑われる場合は抗TPO抗体(抗甲状腺ペルオキシダーゼ抗体)や抗Tg抗体(抗サイログロブリン抗体)を提出します。ちなみにこの抗体は診断には使えますが、重症度とは関係ありません。
 
以下に原発甲状腺機能低下症の診断基準を示します。
 
 
 
甲状腺機能低下症の治療
基本はチラージンの補充ですが、高齢者や虚血性心疾患の既往のある患者さんの場合は減量して開始する点は注意しましょう。
 
①続発性甲状腺機能低下の場合
治療前に副腎不全の合併がないか(あればステロイド補充してから治療開始)を評価してから、レボチロキシン(チラージンSなど)のT4製剤を1.2-1.7ug/kgから開始します。
 
原発甲状腺機能低下の場合
レボチロキシン(チラージンSなどのT4製剤) 1.6ug/kgから開始します。
ただし、50-60歳以上では50μg/日、高齢者で心血管リスクがある場合は12.5-25μg/日のように減量しましょう。
採血のフォローはTSHで行い4-8週間後にフォローを行います。TSHの目標値は若年なら1.0-1.9mU/L、高齢者で2-4mU/Lとするようです。
 
③潜在性甲状腺機能低下症の治療
こちらに関しては治療することでどんなベネフィットが得られるのか、まだ曖昧なようです。一般的にTSH>10mU/Lの場合は治療を考慮します。
TSH4.5-10mU/Lの場合でも、心血管リスクが高い、甲状腺機能低下の症状がある、抗TPO抗体・抗Tg抗体陽性、妊娠を予定している、甲状腺線種ありなど特殊な場合は治療を考慮することになるので、そういった場合は可能なら専門医にコンサルトしたほうが良いでしょう。
 
■NTI≒lowT3症候群とは
端的に言うと、重症患者でT3(T4)が低下し、rT3が増えた状態を指します。
これは通常、肝臓や腎臓でT4→T3への変換が行われますが 、重症患者や低栄養患者では5'-iodinaseが減ってT4がT3に変化されにくくなるために起こります。
ちなみに、ステロイドオピオイドドパミンなどはTSH分泌を阻害するのでTSHが異常に低値な場合は使用していないかチェックが必要です。
 
NTIと続発性甲状腺機能低下の鑑別は困難と言われています。基本的には原疾患の治療を行って、数週間から数か月後に結果をフォローすることになります。
ただし、甲状腺機能低下や粘液水腫性昏睡が疑われる場合には、甲状腺機能低下症の治療を優先しなくてはなりません。ちなみにネフローゼ症候群の患者はタンパクが低下することで続発性に甲状腺機能低下を起こすことがあります。
 
■粘液水腫性昏睡
 
粘液水腫性昏睡の診断基準(http://www.japanthyroid.jp/doctor/img/shindan.pdfより引用)を示します。
 

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内科緊急疾患ですので、ACTH,Corのチェックをしたうえで、ソルコーテフ50-100㎎の6-8時間毎投与、レボチロキシン100-500μg or 4ug/kg投与を行った後、50-100μg/日で維持投与を行います。
 
【参考文献】
1. 日本甲状腺学会.甲状腺疾患診断ガイドライン2013.
2. 高岸勝繁,他.ホスピタリストのための内科診療フローチャート.有限会社シーニュ;2016:408-411.
3. 横手幸太郎,他.内分泌疾患診療ハンドブック.中外医学社;2016:83-87.
4.Douglas S Ross,MD.Treatment of primary hypothyroidism in adults.In: UpToDate, Post TW (Ed), UpToDate, Waltham, MA. (Accessed on Aug 11, 2017.)