救急医 ざわさんのブログ

東京の病院で三次救急をやっています.自分の日常診療の知識のまとめをしたり、論文や本を読んで感想文書いています。日常診療の延長でブログを始めました.ブログの内容の実臨床への応用に関しては責任を負いかねますので,各自の判断でお願いします.内容や記載に誤りや御意見がございましたらコメント頂ければと思います.Twitterもやっています(https://twitter.com/ryo31527)

ケタミン(ケタラール®)の話

今回はケタミンについてのまとめです。

現在小児病院に出向中で,小児ERの勉強をしています。ケタミンを使用することが最近続いていて,質問を受ける機会もあったのでレジデントの先生向けにまとめることにしました。

 

救急領域の処置の際には活躍の場面の多い薬剤ですが,ちょっとクセあのる薬剤ですのであまり馴染みがない方も多いかもしれません。

 

ケタミンは,「呼吸・循環抑制を起こしづらく,鎮痛作用もあり,処置時の鎮静に非常に適した薬剤である」ただし,「添付文書では脳圧亢進患者や,外来患者では禁忌である」という薬剤です。

 

今回は,

1.ケタミンの特徴

2.ケタミンのメリット・デメリット

3.ケタミンの使用方法

の3点に絞って述べたいと思います。

 

1.ケタミンの特徴

ケタミンは大脳皮質機能を抑制↓する一方で辺縁系機能を賦活化↑させることから,解離性麻薬と言われます。ミダゾラムプロポフォールのような睡眠薬と違い,薬効作用が発現している時も,目が開いていたり,体動や発語があったりします。

一度ケタミンを使用すれば「こういう状況なのか」と腑に落ちると思いますが,はじめて見るときはぎょっとするかもしれません。

Procedural Sedation with Ketamine - YouTube

↑この動画の3分30秒頃から見ていただくとイメージ掴めると思います(男児の口唇を縫合する際に使用しています)

 

また,ケタミンを投与された本人は「白昼夢」や「悪夢」を見ると言われており,事前にその説明は行い,特に異性の処置の場合は1人でしないように(看護師や同僚などに同席してもらって)した方が良いと思います。

※ちなみに,「夢を見ることがありますが,良い夢を見ることが多いですよ」と声をかけると悪夢の頻度が減る可能性があるそうです。[1]

 

2.ケタミンのメリット・デメリット

以下に,簡単にメリットとデメリットを列挙しました。

<メリット>

・呼吸や循環抑制を来たしにくい

・鎮静だけでなく鎮痛作用もある

・古い薬で臨床研究も広くされている

・静注も筋注もできる

 →ショックの場合や,痛みを伴う処置(整復や小児の縫合など)に向いている薬剤と言えます。

 

<デメリット>

・体動が残る場合がある

・見た目が寝ている感じにならない

・嘔吐や流涎がある(大体2-5%程度 上気道のトラブルに注意)

喉頭痙攣(0.5%未満)を起こし得る(感冒の際などは発生率↑)

・悪夢を見る可能性がある

・「脳圧亢進」の可能性がある

・高血圧/頻脈を起こす可能性がある(重度の虚血性心疾患がある場合や,心機能が悪い患者さんの場合は注意が必要)

→可能性は少ないですが,気道緊急に発展する可能性もあるのでモニターや気道確保の道具・人など準備をしておく必要があります。(他の薬剤も一緒ですけれど)

感冒症状がある場合や,頭部外傷がある場合は注意が必要です。

 

<禁忌>

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添付文書上の禁忌を確認しましょう。

あくまでも添付文書上の禁忌で,実際の臨床の場面では禁忌に該当するようなケースでも使用することはあると思います。万が一トラブルがあると,訴追される可能性もあるので事前に患者さんに説明して,同意を得ておくことは重要です。

 

メリットとデメリットはコインの裏表の関係です。

例えば,ケタミンを投与すると血圧上昇/頻脈を引き起こします。血圧低下を招かないと言う意味ではメリットですが,心筋酸素需要を増すという点では重症心筋虚血の指摘されている患者ではデメリットになり得るわけです。

 

ちなみに添付文書では「脳圧亢進患者には禁忌」と書かれていますが,2014年にカナダからのメタアナリシスがあり,外傷でも非外傷性の疾患でも,ICPは上昇しない(場合によっては下がる)と言われています。[2,3]

 

3.ケタミンの具体的な使用方法

まず,鎮静をかける準備をします。具体的には,

□AMPLE確認 + 同意書取得

□モニター(EtCO2モニター含め)装着

□末梢静脈路確保(生理食塩水やラクテック®,ソルアセトF®など糖やKの含有のないものが良いでしょう)

□気道確保の準備(※)

□処置そのものに必要な準備

 

上記を終えてから,ケタミンの投与を行います。

日本国内ではケタラール静注用200㎎®(200㎎/20㎖の製剤)がありますので,そちらを用います。容量は下記の通りです。[1,4]

 

1-2㎎/㎏を1分かけて静注します。

追加投与は2分ごと,0.5㎎/㎏ずつです

1分程度でピークになりますが,作用時間はおよそ10分程度です。

 

ちなみに,硫酸アトロピンやベンゾジアゼピンの予防投与は不要と言う向きが多いようです。処置後は5分おきに意識状態の評価を行い,元の意識状態に戻れば帰宅可能です。帰宅後2時間は家族に慎重に観察してもらい,食事は控えるように伝えましょう[4]

 

※気道確保の準備,とサラっと書きましたが,やることは多いです。

まずマスク換気困難を「MOANS」で,挿管困難を「LEMONS」で評価し,最後に「SOAP MD」で漏れがないように準備をします。

 

■換気困難の指標「MOANS」⇒Mask seal,Obesity,Age(≧55),No teeth,Stiff lungs

(Mask sealはマスクの接着を邪魔する髭や顔面外傷がないかを確認。Stiff lungsはCOPDや喘息、妊娠後期でないかを確認します)

■挿管困難の指標「LEMONS」⇒Look Externally,Evaluate the 3-3-2 rules,Mallampati,Obstruction,Neck mobility,Space Skills

(Look Externallyは極端な肥満や小顎などないかを確認します)

MOANSやLEMONSで問題があれば,気道確保の熟練者(麻酔科や救急科など,病院ごとに決まりがあると思われますが)に相談をした方が良いでしょう。

■挿管前の準備「SOAP MD」

⇒Suction,Oxygenation,Air stuff,Pharmacy/Position,Monitor,Denture

意外とDenture(入れ歯やぐらぐらの歯がないかの確認は忘れがちなので注意)

 

この辺りは,ケタミン以外の鎮静薬を使用する場合でも共通事項ですので,鎮静薬を使用する場合は確認を忘れないようにしましょう。

 

以上,簡単ではありましたがケタミンについてまとめました。

実は,プロポフォール単剤よりもプロポフォールケタミンを併用したほうが,呼吸抑制が減る(俗にケトフォールと呼ばれます)[5]とか,持続静注で鎮痛薬として使用するとか,色々掘ると話はありますが,今回は基本編ということでここまで。

 

もっと詳しく,処置時の鎮静について学びたい方は,以下の本がおすすめです。

https://images-fe.ssl-images-amazon.com/images/I/51vXI8-Al-L._SL75_.jpg

とても分かりやすい本ですので是非読んでみてください(COI全くありません)

それでは。

 

 

 【参考文献】

1. 乗井達守 編. 処置時の鎮静・鎮痛ガイド. 東京都. 医学書院. 2016.

2. Zeiler FA et al. The ketamine effect on ICP in traumatic brain injury. Neurocrit Care. 2014;21:163-173.

3. Zeiler FA et al. The ketamine effect on intracranial pressure in nontraumatic neurological illness. J Crit Care. 2014;29:1096-106. 

4. Steven M. Green, MD et al. Clinical Practice Guideline for Emergency Department Ketamine Dissociative Sedation: 2011 Update.Annals of Emergency Medicine. 2011;57:449-461.

5. Yan JW et al. Ketamine-propofol versus propofol alone for procedural sedation in the emergency department: a systematic review and meta-analysis. Acad Emergency Med. 2015;22:1003-1013.