救急医 ざわさんのブログ

東京の病院で三次救急をやっています.自分の日常診療の知識のまとめをしたり、論文や本を読んで感想文書いています。日常診療の延長でブログを始めました.ブログの内容の実臨床への応用に関しては責任を負いかねますので,各自の判断でお願いします.内容や記載に誤りや御意見がございましたらコメント頂ければと思います.Twitterもやっています(https://twitter.com/ryo31527)

低体温症の話

ご無沙汰しております。最近は(と言っても1年前ですが)臨床研究を始めました。

 

そちらが忙しかったこと、臨床研究を始める中で、従来の「論文の図表を貼る」「リンクを張る」などのやり方が、研究者としては良くないのだなというのを(今更でお恥ずかしいですが)痛感し、しばらく筆が止まっていました。

今後はその辺りも配慮してブログを書いていこうと思います。

 

今回は季節柄、低体温症の話です。

救急外来に患者さんが来た、「あれ?すごく冷たい」→「膀胱温を測ると30度!」なんてことは結構あるのではないでしょうか?

 

この場合のポイントは、「ひとまず暖めること(注意するポイント何点かアリ)」と「低体温に陥った原因を考える(場合によってはそちらの初期対応も必要)こと」を同時にすることです。

 

「道で倒れていたのだから、冷えてしまったんでしょ?」ではなくて、「何故、この人は道で倒れてしまったか」ということを考えなくてはいけません。

 

前置きが長くなりましたが、今日の内容は、

  1. 低体温症の重症度と初期対応

  2. 治療をする際の注意点

の2つです。

 

1. 低体温症の重症度と初期対応

低体温症の重症度と初期対応は以下のようにまとめられます[1]。

ここで言う体温は深部体温(core temperature、つまり膀胱温や直腸温、食道温など)であることに注意してください。

 

■32-35℃  → Mild hypothermia

PERが基本。

シバリングがあったり、栄養状態が悪そう、老人、脳血管障害の既往がある場合はAERも追加。1時間あたりの復温が0.5℃未満であればmoderate hypothermiaに準じた対応。

■28-32℃  → Moderate hypothermia

PER+AER ± 14-16Gの末梢静脈路から加温輸液。1時間当たりの復温が2℃未満であればsevere hypothermiaに準じた対応。

■28℃以下 → Severe hypothermia

循環動態が安定していたらPER+AER+AIR

循環動態が不安定であればECMOを用いた蘇生(=ECLS)

【治療法の具体的な内容】

・PER: passive external rewarming(受動的な体外復温)

→エアコンを28℃に設定、濡れた衣服の除去、毛布や布団をかける(家でも出来る)

・AER: active external rewarming(能動的な体外復温)

→電気毛布やベアハガー®の使用(※その場合、体幹を温めて、四肢は出しておくとafter drop(*1)を防げるかもしれないので推奨)

AIR: active internal rewarming(能動的な体内復温)

→40-42℃に加温した等張液を投与する、加温加湿した酸素を投与するを基本とする。場合によっては、血管内加温デバイス、温生食による胸腔・腹腔内洗浄(*2)、ECMO(理論上はVVECMOでもVAECMOでも良い、循環が不安定であればVAECMO)など。

特にUpToDate®では深堀りされていませんが、血液透析も有効なようです[2]。

(文献[2]ではQbを100-150㎖/min、Qdを500㎖/minで 数時間使用しているケースが多いようです)

 

*1 低体温症の症例は、全身の体表面を温めると末梢血管は拡張する。その時に末梢に停滞していた低温の血液が大循環に戻ることで深部体温が逆に下がる現象をafter dropと言う。末梢血管が拡張することで、相対的に循環血液量が減少し血圧が下がるとrewarming shockを起こすため、末梢を急に温めるのは良くないかもしれない。

*2 HFNCで加温すると、復温までの時間が有意に短くなったという報告もあったりするようです[3](※文献[3]はletterですが、HFNCを50-60l/minで、加温は37℃、FiO2は21%、5時間の間に加温生食は3L程度入る形で使用し、復温までの時間はHFNCで120 [120–165] 、HFNC無しで345 [218–405] 分であったとのこと。ただし、これはUp ToDateでは推奨はなく、Pubmedで探した限り規模の大きな観察研究やRCTはなかったので話半分の方が良さそうです

症例報告では胸腔洗浄や腹腔洗浄をやった例はあるようです[4]が、自分は経験がありません…。

 

2. 治療をする際の注意点

 

■低体温の原因を考える(重要‼)

→原因は多岐に渡るが、敗血症、副腎不全、甲状腺機能低下が主な原因。

同じ復温方法で比較したときに、低体温に感染症を合併している場合は加温がゆっくりだった(感染症アリだと0.67°C/hour、感染症ナシだと1.67°C/hour)という報告もあります[5]。

復温が上手く行かない場合は副腎不全に対してデキサメタゾン4㎎もしくはハイドロコルチゾン100㎎に加えて、甲状腺機能低下を疑う場合にはレボチロキシン250μgを追加しても良いと思われます(コーチゾールおよび甲状腺機能の採血はあらかじめとっておく)。

その他の鑑別は多岐に渡りますが、AIUEOTIPS+熱傷、急性膵炎、神経性食思不振症、栄養失調、神経変性疾患などに収まるでしょう。(上記3つは初期治療に組み込む必要があるので特に重要)

 

■低体温患者は心臓の過敏性がある

→丁重に扱わないと心室不整脈を起こすかもしれない(かといって、必要な介入を避けてはいけない)ので注意が必要です。

 

■胸骨圧迫はどうするか

→DNAR、致死的損傷が既にある場合、凍結して有効な胸骨圧迫ができない場合はしなくても良い。少しでも生命兆候がある場合や、無脈静電気活動の場合であっても心電図波形が出ている場合も胸骨圧迫はしなくて良い(明確な科学的根拠はない)とされています。

ただし、心静止になった場合は胸骨圧迫が必要で、自己心拍の再開を確認するには触診よりも、ドップラーエコーや経食道心臓超音波が有効かもしれません。

ちなみに、瞳孔散大や四肢の硬直も死亡の根拠にはならないので注意。

 

心室細動や心静止

→基本的には30℃程度に復温しないと治療抵抗性であることが多いと言われています。そういう場合はECLSに移行するのが確実ですが、そうでない場合は除細動は1度行ってみて、無効であれば1-2℃復温してもう1度除細動を行い、30℃を越えてきたら通常のACLSで対応します。

 

■いつまで、だれを蘇生するか

→非常に難しいです。低体温の症例は数時間の蘇生が必要な場合もあるというのはよく知られています。生化学的なマーカーとしては、K>12meq/l、アンモニア>420μg/dl、フィブリノゲン<50㎎/dl、乳酸上昇などがあると厳しいかもしれません。

 

■rewarming shock

→寒冷利尿の影響もあり、循環血漿量減少をともなっていることが多いです。復温されて末梢血管が拡張すると、rewarming shockを起こすので、大量の加温輸液を予め行っておく必要があります。昇圧薬の使用は特に制限なし、中心静脈路を確保する場合は大腿の方が不整脈を起こしにくいかもしれません。


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長くなりましたが、以上です。 「低体温症(熱中症、アルコール中毒)の診断をする場合は、そのウラにある疾患(特にAIUEOTIPSに該当するようなもの)を見逃すな!」 をキーメッセージとしてお伝えしたいと思います。それではまた。 <参考文献> 1. Ken Zafren, MD. **Accidental hypothermia in adults.** In: UpToDate, Post TW (Ed), UpToDate, Waltham, MA. (Accessed on January 03, 2022.) 2. Murakami T, Yoshida T, Kurokochi A, Takamatsu K, Teranishi Y, Shigeta K, et al. Accidental Hypothermia Treated by Hemodialysis in the Acute Phase: Three Case Reports and a Review of the Literature. Intern Med. 2019 Sep 15;58(18):2743–8. 3. Gilardi E, Petrucci M, Sabia L, Wolde Sellasie K, Grieco DL, Pennisi MA. High-flow nasal cannula for body rewarming in hypothermia. Crit Care. 2020 Mar 30;24(1):122. 4. Tan JL, Saks M, DelCollo JM, Paryavi M, Visvanathan S, Geller C. Accidental hypothermia cardiac arrest treated successfully with invasive body cavity lavage. QJM. 2018 Aug 1;111(8):563-564. 5. Delaney KA, Vassallo SU, Larkin GL, Goldfrank LR. Rewarming rates in urban patients with hypothermia: prediction of underlying infection. Acad Emerg Med. 2006 Sep;13(9):913-21.