【1人抄読会】急性冠症候群患者においてTroponinT測定できるときはCK-MBは測定不要?
今回から趣向を変えて、気になった論文にも考察を加えていこうと思います。
本日読んだ文献は2017年8月にJAMAのSpecial communicationに掲載されたEliminating Creatine Kinase–Myocardial Band Testing in Suspected ACS | Acute Coronary Syndromes | JAMA Internal Medicine | The JAMA Networkdです。(無料アカウントを作成すると全文読めます。)
文献全体の要旨を一言でいうと、
「トロポニンTが測定できるシチュエーションであれば、CK-MBは測定しないほうが良い(コストもかかるし、診断を惑わせるだけ)」
ということです。
自分の勤務している病院では、なんとなくですが、
・CKがピークアウトするまでは逸脱酵素はフォロー
・ERでTroponinTとCK-MBは同時測定
といったことを行っています。
ちなみに、NSTEMIにおける心筋バイオマーカーの日本での推奨は下記の通りで、日本語の解釈としては同時に測定も許されそうです。生化学的マーカーの再検査は推奨されていますが頻度については記載なし。
STEMIに関しては、少なくともこのガイドラインが作成された時点では、TroponinTによる梗塞サイズの推定は積極的には推奨はされていないんですね。
72時間値の測定でも良さそうですけど、ただピーク値って何回も取らないと上手く測定できないような…。
ちなみにTroponinTは120点、CK-MBは90点で、いずれも月1回の算定が基本のようです。
以上を踏まえると、確かにTroponiTとCK-MBを同時に測定する意義はなさそうです。
ただし、自分は救急科の医師なので、コンサルトする循環器の先生方に「お金も無駄になるから、トロポニン取るならCK-MB要らないよ」と言われない限りは、オーダーはし続けるような気もします…。
日本版ガイドラインが改訂されるの待ちでしょうか。
うーん、難しい。
【参考文献】
1. Alvin, M. D., Jaffe, A. S., Ziegelstein, R. C., Trost, J. C., BJ, W., & MJ, T.
Eliminating Creatine Kinase–Myocardial Band Testing in Suspected Acute Coronary
Syndrome. JAMA Internal Medicine, 4(1), 38.
甲状腺機能低下や粘液水腫性昏睡の話
肝損傷に関して
今日は、肝損傷に関するまとめです。
以前脾損傷のまとめを作成しましたが、今回は鈍的腹部外傷の中で最も頻度の高い肝損傷についてです。
ポイントとしては、いつも通り肝損傷の分類、治療、合併症の順に整理していきたいと思います。
■肝損傷の分類
日本外傷学会の臓器損傷分類2008とAAST(The American Association for the Surgery of Trauma)の分類があります。脾損傷の時と同じですね。
(日本外傷学会分類2008より引用)
(Injury Scoring Scales - The American Association for the Surgery of Trauma
↑AASTのinjury scalingはこちらから確認できます。)
AASTの分類に関しては、AASTⅠ~ⅢのNOM非完遂率は3~7.5%、Ⅳで14%、Ⅴで23%とgradeⅣを境にNOMの非完遂率が下がりますので、裂傷の深さが肝葉の25%超えてくると重症度が上がる印象ですね。
■治療
損傷形態とvitalが必ずしも一致しないことは臨床でも頻繁に経験します。
治療方針の決定に関しても、JETECやIVR学会の推奨でも同様ですが、
『循環動態が不安定ならダメージコントロール手術、安定していればTAEもしくは保存』が原則となっています。
損傷形態がそれなりに高度でも、NOMの完遂率が高いのでTAEに行きがちではありますが、実際には循環動態がどれくらい安定しているかが重要です。
勿論,ほかの外傷の合併も重要です。
(※北里大学の樫見先生方の文献から図表をお借りしています(https://www.jstage.jst.go.jp/article/jaem/32/7/32_1163/_pdf))
■合併症
①胆管損傷
急性期は出血以外には胆管損傷に伴う胆汁漏の有無が治療上大きなポイントになります。胆汁漏があれば、腹膜炎・胆汁腫に進展する可能性もあります。ただし、あくまでも急性期のマネジメントの主役は出血の制御です。
止血が得られてから胆管損傷の治療に着手します。
胆管損傷の評価に関しては、 DICCTや胆管シンチを考慮します。(胆汁腫についてはエコーでも評価できると思われます)
②短絡路形成
動静脈瘻・動脈門脈瘻、Hemobilia(胆管と動脈の瘻孔)、Bilhemia(胆管と静脈の瘻孔形成)
③肝壊死・肝膿瘍
それぞれの治療に関しては詳細は割愛しますが、出血以外にも合併症の種類が脾損傷に比べると多いですね。
■安静度
遅発性出血はおよそ3%程度で、多くは72時間以内に出現します。
安静期間に関しても一定の見解はなさそうです。
今回は脾損傷と比較しながら、肝損傷についてまとめてみました。
それでは。
【参考文献】
1.日本外傷学会.外傷専門診療ガイドライン.2014年7月2日.p.80-.ヘルス出版.
他.
心房細動についての話
今回は、よくある質問シリーズとして「病棟で心房細動の患者さんを見つけたらどうすれば良いのか」という話です。
今回のポイントは、
「心房細動は3つに分類される、初期対応にDCもしくは薬剤が必要になることもある、CHADSスコアを評価したうえで、抗凝固・アブレーションの治療が必要になることもある」
というところでしょうか。
以下を読み進める前に「心房細動は血栓が心臓の中にできる不整脈だ」ということをよく覚えておいてください。
■基礎知識 心房細動の診断と分類
まずはそもそも心房細動を正しく診断することが必要です。
後に述べますが、心房細動であれば抗凝固薬の内服など、患者さんの一生に関わるような決定を後々する必要が出てきます。モニターのみの判断ではなく、心電図を評価し、きちんと「心房細動」であることを診断しましょう。
心電図で、「P波が消失、RR間隔が不正、f波が見える」ことが確認されれば心房細動です。モニターのみで見ていると、意外とPACが多発しているだけだったりすることもありますので心電図で評価しないと診断を間違えてしまいます。
(https://j-depo.com/news/atrial-fibrillation.htmlより引用)
続けて、心房細動の分類に関してです。
以下は心房細動治療(薬物)ガイドライン2013改訂版(http://www.j-circ.or.jp/guideline/pdf/JCS2013_inoue_h.pdf)からの引用ですが、心房細動は3つに分類されます。
入院して、初めて診断がついたばかりの心房細動は基本的には発作性心房細動ということになりますね。患者さんに以前から動悸や胸部不快がなかったか問診をしたり、左房の拡大がないかを確認することで、心房細動が以前からたびたびあったものか臨床的に推測することができます。
■初期対応 除細動とrate control
こちらも、上記のガイドラインからの引用です。
基本的には「心房細動により(頻脈になっていることにより)ショックになっているか」というのが初期対応の要です。
不安定な心房細動であれば電気的除細動が考慮されます。48時間以上心房細動が続いている場合には、抗凝固も検討しなくてはいけません。
もしも、循環動態が安定しており、頻脈であったり、動悸症状が強ければ、心機能や副伝導路の有無を評価したうえでrate controlが必要になります。
rate controlに関しては、どの程度の心拍数が良いか、症状との兼ね合いもありますが概ね100回/分前後が目標になることが多いです。
■抗凝固
冒頭に述べましたが、心房細動を見たら塞栓を防ぐことを考えなくてはいけません。
抗凝固の必要性に関しては、下記の通りCHADsスコアを利用して検討します。
上記のポイントは、弁膜症(特に僧帽弁狭窄症)が原因の心房細動の場合や人工弁の場合はワルファリンによる抗凝固が必要な点です。
CHADs1点以下の場合は下記のCHADs-VASCスコアも利用して、抗凝固の導入を考えます。
勿論、抗凝固の導入をする際には、出血のリスクも勘案しなくてはなりません。
その場合はHAS-BLEDスコアを使用します。
施設によっては、アブレーションによる心房細動治療を行っている施設があります。
下記のように適応の基準もありますが、実際には年齢や、患者希望なども含めて適応は判断されるので、アブレーションに積極的な施設の場合はコンサルトしても良いでしょう。
長くなりましたが、要点をまとめると
・心房細動は心電図で診断をすること、持続が7日間と除細動に対する反応で3つに分類されること
・除細動を行う場合は、血栓の有無に注意、特に持続が48時間を超える場合は塞栓症のリスクが高い
・rate controlの目安は100回/分程度
・CHADsを評価して抗凝固を行う
となります。
心房細動患者さんは非常に多く出会います。
自分が研修医のころは出会う度に困っていました。循環器の先生と的確に連携を取りながら対応したいものですね。
それではまた。
【参考文献】
1.日本循環器学会.心房細動治療(薬物)ガイドライン(2013年改訂版).
高K血症の初期対応とGI療法の実際
簡単なメモ書きです。
一般的に高K血症の初期対応として、カルチコール®の静注やGI療法など行われることが多いと思われますが、GI療法など割と慣習的にインスリン混注量を決めていたので、少し勉強してみました。
■高K血症の初期対応
以下は循環器系のガイドラインですが、高K血症に対する処方がよくまとまっていたので引用します。
(循環器医のための心肺蘇生・心血管救急に関するガイドライン ダイジェスト版より引用。http://www.j-circ.or.jp/guideline/pdf/JCS2010_kasanuki_d.pdf)
ポイントは、細胞膜電位の安定化により致死的な不整脈を防ぐという意味でまず、カルチコール®1A(Ca3.9meq/10㎖)を緩徐に静注することです。
ちなみに、高K血症の心電図は、
①T波の増高
②P波の消失+narrow QRS(sinoventricular conduction)
③QRS時間の延長、房室ブロック
④サインカーブ様のQRS
⑤心室細動・心静止
のように変化していくので、narrow QRSでも、P波が消失している場合は要注意です。
T波の増高に関しては明確な定義はないようですが、QRS波高の1/2を超えると増高と捉える場合が多いようです。
■GI療法の実際
個人的には、院内製剤の採用の関係もあり、
40%ブドウ糖 40㎖にHur4単位混ぜたものをワンショット静注(ブドウ糖4gあたり1単位)することが多かったのですが、Up To Dateでは以下のような記載になっていました。
(Treatment and prevention of hyperkalemia in adultsIn: UpToDate, Post TW (Ed), UpToDate, Waltham, MA. (Accessed on Sep 29, 2016.))
和訳してみると、
①50%ブドウ糖+50㎖に10-20Uの即効型インスリン をワンショット静注
②10%ブドウ糖500㎖に10Uの即効型インスリン を1時間で持続静注
③ただし、低血糖が75%に起こるので投与後1時間は血糖チェック
④低血糖を避ける意味では、10%ブドウ糖500㎖に10Uの即効型インスリン を8-10時間で投与。1時間おきに血糖測定。
⑤効果発現まで10-20分、持続時間は30-60分、Kはおよそ0.5-1.2meq/l低下
とのことです。前述の循環器のガイドラインとほぼ同じ内容ですね。ただ、低血糖の合併が結構多い印象でした。
たまに自分のルーティンワークの見直しもしていきたいと思います。
それでは。
軽症頭部外傷の話
お久しぶりです。本日、救急外来でサッカーの試合中に味方と激突して一過性意識消失を起こした患者さんが受診されました。頭のCTを取るのか、競技への復帰はどうするのか等議論になりましたので、軽症の頭部外傷に関して今回はまとめてみました。
基本的には、
①CTを撮影するのか?
②帰宅させるのか?競技への復帰はどうするのか?
がポイントになるかと思います。
■そもそも軽症の頭部外傷で頭部CTを撮影するのはどんな時か
軽症頭部外傷は概ねGCS13~15点の頭部外傷とされることが多いです。
名なclinical prediction ruleとしては the Canadian CT head rule とthe New Orleans criteriaがというものがありますが,Up To Dateにはこれらを統合して下記のようなフロチャートが記載されています。
やはり、高齢であるとか抗凝固内服をしている場合には積極的に頭部CTを撮影しても許容されるようです。院内の転倒などでも気を付けたいですね。
■頭部CTがnegativeな場合には脳震盪を考える
脳震盪の定義は、「頭部CTで頭蓋内に異常所見を認めないが、一過性の脳機能障害(意識障害、健忘など)を認める状態」のことで、可逆性であることがポイントになります。脳震盪がある場合、短期間のうちに二度目の受傷をすると重篤化する病態(second impact syndrome)があるため、安易な競技への復帰は避けなくてはなりません。
脳震盪の診断にはSCAT5という診断ツール(http://bjsm.bmj.com/content/bjsports/early/2017/04/26/bjsports-2017-097506SCAT5.full.pdf)がありますが、かなり煩雑な印象です…。
脳震盪の病態生理、診断、適切な休養期間などは日進月歩の分野で、現時点で最新のものと思われる脳震盪に関するconsensus statementがBMJから出ているよう(Consensus statement on concussion in sport—the 5th international conference on concussion in sport held in Berlin, October 2016 | British Journal of Sports Medicine)ですが、下記が要点かと思います。(今後詳しく内容を確認して記事にしたいと思います)
・80-90%は7-10日で症状は消失する
・脳震盪の診断はSCAT3を用いて行う(日本語訳されたものをネット上で発見しました。http://www.fujiwaraqol.com/concussion/scat3_ja.pdf)
・頭痛、一過性の意識消失、反応速度の低下、傾眠、性格変化など様々な症状を呈する
・受傷者を一人にしない。24-48時間の休息は有用(それ以上は不明)
基本的には、軽症頭部外傷の患者がERを受診し、脳震盪を疑う場合は、その日の競技復帰は控えて、後日チーム内で復帰の時期を確認というのが現実的かと思います。
軽症頭部外傷でも、注意するべき点があり、気を付けたいものですね。
それでは。
■参考文献
1.Randolph Evans.Concussion and mild traumatic brain injury.In: UpToDate, Post TW (Ed), UpToDate, Waltham, MA. (Accessed on Apr 29, 2015.)
2.McCrory P, Meeuwisse W, Dvorak J, et al. Consensus statement on concussion in sport-the 5th international conference on concussion in sport held in Berlin, October 2016.
BNPの話
最近、話題になったBNPの話です。
呼吸不全の患者さんでBNP値が高いから心不全だ、低いから心不全ではない、と実際の臨床ではやり取りがされることも多いと思います。本当のところ、どのような運用が良いのか気になったのでちょろっと調べてみました。
■BNPとは
brain natriuretic peptideの略で、心室から分泌される利尿・血管作用のあるタンパクです。
特徴としては、
・心室への負荷のより分泌されるので、左室拡張末期圧をよく反映する
・心不全の存在診断・重症度診断・予後評価いずれにも有用
・慢性心不全の治療効果の指標として有用(再入院↓、死亡率→、200-250pg/㎖が退院のメルクマールになる)
・逆に、収縮性心膜炎、MS、高度肥満などではBNPは過小評価される
・お値段は140点 心不全の診断・病態の把握のために月1回まで算定
■感度・特異度
Dynamedでは下記のような記載になっています。
■実際どのように用いるか
日循の慢性心不全ガイドライン(2010)では、下記のような心不全の診断フローチャートが作成されています。
これを文面通り受け取ると、BNP>100pg/mlなら心エコー、BNP>200pg/mlなら(他の検査結果と合わせて)心不全として治療を行うということになります。
日本心不全学会のホームページでは以下のような推奨になっています。
このように見てみると、急性心不全の診断、慢性心不全の治療指標などに有用そうですね。ただ、BNP値に対して、心臓超音波の敷居が低いようにも感じます。
確かに低侵襲な検査ではありますが、全体の費用や時間のコストを考えると、「臨床的に必要な場合のみ測定する」という原理に基づいてのオーダーが大事そうですね。
それではまた。
【参考文献】
1.日本循環器学会.慢性心不全治療ガイドライン(2010年改訂版).p.11-
2.日本心不全学会ホームページ