脾損傷に関して
今日は、脾損傷に関するまとめです。
脾損傷は、腹部の鈍的外傷の中では肝臓に次いで受傷することの多い臓器です。
ポイントとしては、目の前の脾損傷に対して、NOM(non operative management)が完遂できるのか、TAEを行う場合にどのように塞栓するのが良いのか、合併症をどのように管理するのかといったところが挙がるかと思います。
■脾損傷の分類
日本外傷学会の臓器損傷分類2008とAAST(The American Association for the Surgery of Trauma)の分類があります。
外傷学会の分類では、損傷が実質の深さ2分の1以上の深さになるとⅢ型損傷となることがポイントになりそうです。
AASTの分類では、後述しますがgradeⅢ以上の損傷になると治療方針などに影響します。
■治療
2012年のEASTの鈍的脾損傷ガイドライン(https://www.east.org/education/practice-management-guidelines/blunt-splenic-injury%2c-selective-nonoperative-management-of)
では、
・循環不安定や腹膜炎が疑われる ⇒ 即時開腹
・AAST GradeⅢ以上の高度損傷
・造影CTによるcontrust blush
・中等度以上の腹腔内血腫
・出血持続が予測される場合 ⇒血管造影を考慮
となっていますが、実際には「循環動態を安定させて」開腹ではなく、NOM(non operative management)に切り替えることもありえるかとは思います。
ちなみに、NOMにおいては、TAEを施行した場合の治療の非完遂率はAAST gradeⅢで19%、Ⅳで33%、Ⅴで75%と報告されています。
近位塞栓と遠位塞栓でどちらが良いかは結論が出ていません。ただし、近位塞栓ではARDSの合併が増える可能性も示唆されています(PMID:19077625)。
ちなみに、近位塞栓は、脾動脈の還流圧を低下させることで止血を狙うもので、完全に閉塞させる手技とは限らないようです。(まぁ、この辺は塞栓物質に何を用いるかによってだいぶ違うように思われますが。)
※TAEについては、インターネット上でPDFが入手可能となっておりますが、昭和大学の佐々木先生達が腹部救急医学会雑誌に寄稿してくださっています。(https://www.jstage.jst.go.jp/article/jaem/32/7/32_1163/_pdf)
■合併症
・OPSI(overwhelming postsplectomy infection)
脾臓摘出後の重症感染症のことで、頻度は2%以下と低いが発症すると、死亡率は50%以上となります。残存する脾体積が30-40%以下の場合はワクチン接種を考慮します。肺炎球菌・髄膜炎菌・インフルエンザ菌に対してワクチン接種を検討しましょう。受傷してから数週間で行われることが多く、外傷例の場合、いつまで続けるかということに一定の見解はなさそうです。
・遅発性破裂
1-2%の頻度で起こります。多くは5日以内に起こるようですが、80%が受傷後14日以内、95%が21日以内です。機序としては一度固まった血腫の融解や、仮性動脈瘤などが考えられています。ちなみに仮性動脈瘤に関しても、保存的に加療できたという報告もあるが(PMID:18073609)原則的にはTAEを行うほうが安全と思われます。
■安静度
NOMを行うにあたっての安静度も不明ですが、一般的には損傷が高度な場合は6-8日の間に画像評価を行って安静を解除することが多いようです。
ちなみにEASTのガイドラインだと、以下のような感じです。
外傷という分野でエビデンスの集積が難しそうですが、損傷形態によって治療方針が変わり、その後の管理も変わりそうですね。
それでは。
【参考文献】
1.日本外傷学会.外傷専門診療ガイドライン.2014年7月2日.p.90-.ヘルス出版.
他.