救急医 ざわさんのブログ

東京の病院で三次救急をやっています.自分の日常診療の知識のまとめをしたり、論文や本を読んで感想文書いています。日常診療の延長でブログを始めました.ブログの内容の実臨床への応用に関しては責任を負いかねますので,各自の判断でお願いします.内容や記載に誤りや御意見がございましたらコメント頂ければと思います.Twitterもやっています(https://twitter.com/ryo31527)

頭蓋骨骨折と外傷性髄液漏について

あけましておめでとうございます。

今回は、外傷性頭蓋骨骨折の患者さんに髄液漏や気脳症があった場合に、考えることをまとめてみたいと思います。
なかなか定まった見解がなく、脳外科の先生に相談しながら決めることが多いですが実際どうなんだろうと思って調べてみました。

 

内容としては、

①頭蓋骨骨折の分類と外傷性髄液漏の疫学

②外傷性髄液漏における予防的抗菌薬投与の必要性

③外傷性髄液漏の治療・安静度

について述べたいと思います。日本と海外でだいぶ方針が違いそうです。

 

①頭蓋骨骨折の分類と外傷性髄液漏の疫学

まずは、外傷で頭蓋骨骨折があった場合の分類です。以下は、外傷専門診療ガイドライン(1)の表を改変したものです。

 

  軽症 中等症 重症
線状骨折(円蓋部) 骨折線が血管溝と交差しない
静脈洞部を超えない
骨折線が血管溝と交差する
静脈洞部を超える
のいずれかを満たす
 
陥没骨折(円蓋部) 1cm以下の陥没
非開放性
1cm以下の陥没
陥没部が外界と交通しているが髄液漏はない
1cm以上の陥没
開放性(髄液漏+)
静脈洞圧迫による静脈還流障害
のいずれかを満たす
頭蓋底骨折   頭蓋底骨折
※髄液漏の有無は問わない
頭蓋底骨折
大量の鼻出血・耳出血
※穿通外傷はすべて手術適応だが、挫滅の広い銃創は適応にならないこともある

 

ここでのポイントは、

・円蓋部の骨折と頭蓋底の骨折を分けて分類していること

・静脈洞を圧迫する可能性があるか、髄液の漏出が疑われるかで重症度が変わること(ただし、頭蓋底骨折の場合は髄液漏の有無は問わない)

の2点かと思います。

 

つまり、頭部外傷患者さんで骨折があった場合、髄液漏があるかどうかを確認する(耳や鼻から出血は持続していないか、ダブルリングサインは陽性ではないか、画像上、錐体骨骨折を含む側頭骨骨折や篩骨洞・前頭洞を含む前頭蓋底骨折、硬膜下の気脳症はないか…)ことが重要と言えます。

ちなみに、鼻出血や耳出血に関しては綿球をつめるよりはガーゼを当てて吸収させるほうが、逆行性感染を防ぐ意味で良いという文献もありました(3)。

 

ちなみに、今回は詳細は割愛しますが、頭蓋骨骨折単独での手術適応は、重症もしくは開放性の陥没骨折で、整復、硬膜閉鎖、汚染部分のデブリを24-48時間以内に行うことが目標となりそうです(2)

 

 

外傷性髄液漏はの疫学については下記の通りです。

・頭蓋底骨折の12-30%に合併する(2)

・外傷後数日以内に発症し鼻漏は1-3週間、耳漏は5-10日以内に自然停止することが多い(1)

・95%は外傷後3カ月以内に発生する(5)

・自然停止率は80-95%で多くが24-48時間で停止する(2)

・再発性・遅発性の場合は自然治癒は少ない

・髄液漏の7-30%に髄膜炎が発生する(家族にもあらかじめ説明したほうが良い

(1,2)

 

髄液漏の何が問題かというと、本来外界に漏れ出るはずのない髄液が、外界へ出てきてしまっている(=中枢神経感染症のリスク↑↑)ことが問題です。

なので外傷性髄液漏を診る場合には、髄膜炎の発生に注意しながらまずは保存的加療となりそうですね。

 

②外傷性髄液漏における予防的抗菌薬投与の必要性

文献にもよりますが「一定の見解はない」というのが一定の見解のようです。

そのうえで、

・「抗菌薬の予防投与の有効性について定まった見解はなく欧米では使用しない施設が多い」「抗菌薬の予防的投与については議論がある。(中略)さらに耐性菌の原因となり、慎重に行う必要がある」(1,2)のように、具体的な使用に言及しないもの

 

・文献1,2などの議論を踏まえた上で、「当施設では髄液漏の停止が確認されるまでの短期間に限って抗菌薬(髄液移行性を考慮して、セフォタキシムやセフトリアキソン)の投与を行っている」と、予防投与にも積極的であるもの(3)

 

と分かれています。Up to dateでは、頭蓋底骨折の髄液漏(cerebral spinal fluid leak)については脳外科医や感染症医にconsultationしたほうが良いとの記載でした。

 

勿論、この議論は「予防」の話であって、髄膜炎を発症した場合は当然抗菌薬による治療を行います。

そういう意味では、予防的抗菌薬投与を行うかどうかよりも、毎日患者さんを診察し、髄膜炎を発症したらすぐに治療介入できるようにしておくことのほうが重要でしょう。

 

③外傷性髄液漏の治療・安静度

 まずは保存的加療として、

・15-30度の頭部挙上、咳や怒責、鼻かみをさける

・持続的腰椎ドレナージ

を行いますが、1-3週間保存的加療をしても改善がない場合、間欠性、再発性、遅発性の症例、気脳症が進行性に増悪する症例、頭蓋底の変形が著しい症例などは手術が検討されます。(2)

 

色々、調べているとJETECのガイドラインもしくは重症頭部外傷治療・・管理のガイドラインが国内の文献としてはよく参照されているようです。

 

いずれにせよ、頭蓋骨骨折では髄液漏があるかどうか、ある場合は髄膜炎にならないかどうかに注意したほうがよさそうですね。

 

それでは。

 

 

【参考文献】

1.外傷専門診療ガイドライン.日本外傷学会専門診療ガイドライン編集委員会編.一般社団法人日本外傷学会,2014年,p.37-41.
 
2.重症頭部外傷治療・管理のガイドライン第3版.重症頭部外傷治療・管理のガイドライン作成委員会編.医学書院,2016年,p.109.
 
3.救急白熱セミナー頭部外傷実践マニュアル.並木淳著.中外医学社,2014年,p.78.
 
4.William G Heegaard, MD,MPH. Skull fractures in adult. Maria, ed. UpToDate. Waltham, MA: UpToDate Inc. http://www.uptodate.com (Accessed on February 04, 2018.)
 
5.脳神経外科周術期管理のすべて 第4版.松谷正雄ら編.メディカルビュー社,2014年,p.355.

【勉強会メモ】第2回JSEPTIC-CTG 「Journal clubをやってみよう!RCT編」に参加してきました

こんにちは。今回から、参加した勉強会の内容について自分の復習がてらまとめていきたいと思います。

 

2017年12月9日、JSEPTIC-CTG主催の勉強会に行ってきました。

内容としてはタイトルの通りで、「RCTの批判的吟味」を、あらかじめ出されたお題(今回は2017年JAMA誌に掲載された、低血圧を伴う敗血症患者の蘇生プロトコールに対する研究)について読んだ状態で、当日講義とグループワークを繰り返すというものでした。

 

集中治療医の先生が中心でしたが、総合内科系の先生もいらっしゃいました。

老若男女、若手ベテラン入り混じってのグループワークで楽しかったです。

 

JSEPTIC-CTGそのものが、集中治療域における臨床研究を推進しようとするグループと言うこともあって、実際の講義や配布資料ではかなり細かくRCTの読み方について述べられていました。(自分自身、最近感じることですが、臨床研究をするということは先行研究を分析する作業が必要ですので、当然論文読解も緻密に行わなければいけません)

今回は、
1.全体を通してのポイント

2.RCTの読み方のポイント(講義から抜粋)

3.講義を踏まえての感想

の順に記載したいと思います。

 

1.全体を通してのポイント

・臨床研究は交絡とバイアスとの闘い

・Methodsを細かく読むことでどれくらい交絡とバイアスが取り除けているか吟味する

・Journal Clubは「論文を批判的に吟味して日々の臨床に適用する」ことを目的としている。

・RCTの場合はCONSORT2010に基づいて作成される

・RCTは対象者が限定されすぎている場合、患者にとっての有用性が低い場合、研究デザインに不備がある場合(とくに脱落が多い場合)は結果が弱まる

 

2.RCTの読み方のポイント(講義から抜粋)

①Introductionを読む

なぜこの研究をやったか?を読み取る。

→今まで分かっていること、分かっていないことの2点を踏まえた上で(この2つの差をKnowledge gapと呼ぶ)、この研究の目的と仮説を述べている部分を読み取る。

・この研究は誰にとっての研究かを読み取る。

→患者?医療者?行政?経営者?政府?(=Relevant?)

 

②Methodsを読む(ここがキモ!)

・論文のPICOを確認する

P→RCTは母集団からサンプルを抽出して解析するので、実際に研究した人々がもともとの仮説の母集団を反映しているのかが大事(例えば、そもそもアフリカの低血圧を伴う敗血症患者を対象としたつもりが、ザンビアの単施設の数百人というのが良いPatientかというのは注意が必要)。

I/C→適切な比較になっているか、客観的な比較か、介入は現実的か、それ以外の治療介入はどうなっているか(appendixなど参照しないと分からない)

O→Outcomeにもたくさん種類がある。今回の場合はPrimary outcomeが死亡率というhard outcome(客観的なoutcome、対義語はsoft outcome)かつsingle outcomeなので評価しやすい。

※論文の結果を仮説に応用できるかどうかを「外的妥当性」、論文がバイアスや交絡を十分にとりのぞけているかを「内的妥当性」と言う。

 

・デザインを確認する

→RCTは交絡の調整はできる(つまり内的妥当性は高い)が、PICOが厳密に決まるので外的妥当性が低い場合があるので注意する。

 

→ランダム化、コンシールメント(割付の過程が伏せられているかどうか)、マスキングがされているかどうかを確認する。マスキングは患者、介入者、データ観察者、アウトカム解析者、データ解析者の誰にされているかまで確認する。

 

・統計解析を確認する

→色々あるけど最大のポイントは「サンプルサイズの計算が妥当かどうか」。

αエラーとβエラーをどの程度に想定し(それぞれ5%、10-20%程度が妥当)、あらかじめイベント発生率をどのように見積もっているのか、そして実際の非介入群での結果はどのようになっているのかを確認する。(例えば今回はサンプルサイズを決める段階で、先行研究を参考にし、60%の死亡率を予想していたが、実際には非介入群では30%だった。解析した結果有意差がなければ、「本当に有意差がないのか」それとも「サンプルサイズの決定が間違っていたのか」分からない)

 

※αエラーは「実際には差がないものを差があると言ってしまうこと」、βエラーは「実際には差があるものを差がないと言ってしまうこと」

 

→解析はITT解析が最も理想的ではあるが、おおくはmITT解析となっていることが多い(mITTの定義は曖昧なので、実際どんな解析になっているかは注意)

※ITT解析はIntention to treat解析のことで、ランダマイズされたデータすべてを解析対象にすること。すべてを解析対象として、しかも割り付けられた群として解析することで、RCTの最大の強みである内的妥当性を担保しようという意味がある。

 

③Resultsを読む

・結果の信用性を確認する

→RCTの場合、脱落が多いものには注意が必要。プロトコールの離脱率やアドヒアランスを確認する(脱落の目安としては20%未満が理想)

 

・どんな患者に適用できるのかを確認する

・効果だけではなく治療のAdverse Eventについても確認する

 

・結果のRR、RRR、RD、ARR、NNTを計算する

http://www.igaku-shoin.co.jp/nwsppr/n1997dir/n2248dir/n2248_11.htmなど参照。

 

④Discussionを読む

・①~③ができていれば流し読みでも良い。

→基本的には筆者の意見のまとめ、妥当性に対する主張、結果と既存研究との比較、だれにとって有用であると筆者が考えているか(implication)、研究のlimitationについて述べられている。

 

3.講義を踏まえての感想

参加された皆さん、講師陣ともにレベルが高くて勉強になりました。自施設以外の先生と触れ合うと毎度「世の中広いな」と痛感します。

RCTの読み方もブラッシュアップされたと思いますし、EBMやJournal clubというものと、日常の診療に関してより具体的に考えるきっかけになりました。

 

どういうことかと言うと、「論文を批判的に吟味すること」「知識のブラッシュアップをすること」「日常臨床の意思決定に文献を用いること」の3つのバランスは常に考えなきゃいけないなということです。

 

「論文を批判的に吟味すること」は臨床研究を行ったり、日々のプラクティスを大きく変える際には必要になりますが、時間がかかります。可能な限り行うべきだと思いますが、時間がいくらあっても足りないので、ある程度対象となる文研の取捨選択はひつようになるでしょう。(そういう意味でも、批判的吟味の能力そのものは高く持っていたほうが良さそうです)

 

「知識のブラッシュアップをする」場合には、いわゆるReviewや、成書、ガイドラインなどの二次文献を活用したほうが効率が良さそうです。自分の研鑽のためにこういった文献にあたる習慣をどのように身に着けていくかは自分自身にとっても課題です。

 

「日常臨床の意思決定に文献を用いること」については、Up to dateのような効率の良い二次資料を用いることが必要になりますが、おそらくこれだけだと、知識の自転車操業と言うかその日ぐらしになってしまうので、前述した「論文の批判的吟味」や「知識のブラッシュアップ」も欠かせません。

 

医師に(そして仕事だけに)限りませんが、「今現在自分が何のために時間を使っていて、それが効率の良いことなのか」と言うのは常々意識しないといけませんね。

 

長くなりましたが、以上です。

それでは。

 

 

 

 

 

 

アドレナリンとβblocker、抗精神病薬など(グルカゴン、アドレナリン作用の反転)

こんにちは。
先日β blocker内服中の患者さんがアナフィラキシーショックになり血圧が上がらず苦戦した例があったので簡単にまとめます。
 
実はこれ、救急あるあるなのですが、『β blocker内服中はアドレナリン作用が減弱する』『α blocker内服中はアドレナリンを使用すると血圧が下がる』と言ったことは知っておく必要があります。
 
今回は
 
1.そもそものアドレナリンの作用機序
2.アドレナリンの禁忌
3.併用禁忌(注意)薬を内服してる患者がアナフィラキシーショックになったら
 
という章立てでお話ししたいと思います。
 
1.そもそものアドレナリンの作用機序
 
アドレナリンは昇圧薬もしくは気管支拡張薬として心停止、アナフィラキシーショック気管支喘息に用いられます。
 
これはアドレナリンの持つα作用、β1作用、β2作用が下記のようにな効果を持つためです。
 
α1作用…血管収縮、散瞳 → 昇圧!
β1作用…強心作用 → 昇圧!
β2作用…血管・気管支平滑筋弛緩
 
後々ポイントになりますが、β2作用には血管弛緩作用があるので血圧は下がる方向に働きます。
ただし、アドレナリンの場合は、α1作用がβ2作用を大きく上回るので結果的には昇圧されるわけですね。
 
2.アドレナリンの禁忌
 
アドレナリンの禁忌及び投与注意は下記のとおりです。(1.より引用・一部追記)
 
●禁忌
・ハロタン などの吸入麻酔薬→ カテコラミン感受性が高まるので心室細動など惹起
・ブチラフェノン系抗精神病薬、フェノチアジン系抗精神病薬アドレナリンの昇圧作用の反転
・カテコラミン使用中
 
●原則禁忌
・アドレナリンに対する過敏症
・頻脈を伴う不整脈
脳出血の既往
甲状腺機能亢進症
・コカイン中毒
 
●投与注意
・血流障害の疾患がある症例
・妊婦
・β blocker投与中
 
ここで言う「アドレナリンの昇圧作用の反転」と言うのは、抗精神病薬で実際に確かめられていることではありません。ただし、添付文書には記載があり、注意が必要なわけです。
 
α blocker作用のある薬剤を内服している最中に、アドレナリンを投与するとβ作用が前面に出ることになります。この場合「気管支拡張作用は保たれるが、血圧はむしろ下がる」ことが想定されます(前述したように、β2作用が前面に出るため)ので、注意が必要です。
 
3.併用禁忌(注意)薬を内服してる患者がアナフィラキシーショックになったら
 
アナフィラキシーショックにも程度がありますが、今回は喉頭浮腫+血圧低下の両方が起きていると考えます。この場合は、β2作用と昇圧作用(β1+α作用)の両方が必要なわけです。
 
①β blocker内服中の患者さんがアナフィラキシーショックになったら
この場合は、アドレナリン投与をしてもβ作用が出づらいです。喉頭浮腫も改善しづらいし、昇圧もいまいちといった状況が考えられます。この場合は、「アドレナリン投与に加えてグルカゴンの投与(1-2㎎ 筋注 20分毎)」を検討します。
 
なぜグルカゴンが有効かと言うと、β受容体を介さずにcAMPの生成を促して、気管支拡張や強心作用を発揮するからです。(ちょっとβ blocker内服中の心源性ショックの時にミルリノンを使用する理屈に似ています)
 
抗精神病薬内服中の患者さんがアナフィラキシーショックになったら
この場合は、アドレナリンの昇圧作用の反転、が問題になりますね。ただし、アナフィラキシーは致死的病態で、ガイドライン上も「アドレナリン投与がアナフィラキシーショックの治療の主軸である」(2.より引用)ことが記載されていますので、アドレナリンは使用します。
その際に、「血圧が下がるかもしれない」と認識しておくこと、カルテに診療の妥当性を記載しておくことが重要であると考えられます。
 
もしも血圧が下がった場合には、バソプレシンなどで昇圧するしかないのでしょうか(実際に経験がなく分かりませんが)
 
 
【参考文献】
1.粒来崇博.”アナフィラキシー”.内科救急診療指針2016.一般社団法人日本内科学会認定医制度審議会救急委員会編.一般社団法人日本内科学会,2016年,p.259.
 
2.Anaphylaxis対策特別委員会.アナフィラキシーガイドライン.2014年,p.19-20.
 

大動脈弁狭窄症の話

お久しぶりです。現在、外病院に出向中です。たまたまその病院で径カテーテル大動脈弁留置術(Transcatheter aortic valve implantation; 以下TAVI)を見学しました。

集中治療管理において大動脈弁狭窄症(Aortic  stenosis; 以下AS)があると苦戦しますが、その症例ではsevere ASが30分程度でmild ASになっていました。技術の進歩ってすごいですね。

 

今日は、良く出会う大動脈弁狭窄症に関するまとめです。

 

1.大動脈弁狭窄症の概論

2.大動脈弁狭窄症の重症度

3.大動脈弁狭窄症の治療

 

の順にお話ししたいと思います。

 

1.大動脈弁狭窄症の概論

大動脈弁狭窄症は弁膜症全体の25%を占めており、60−70歳に多いです。
原因としては、
 
・二尖弁(人口の0.5−1.4%に見られる、男性に多い。上行大動脈瘤を合併することがあり、40mm以上では手術が必要になる)
・リウマチ性
・加齢性硬化性変化
 
が主です。65歳以上では約30%に大動脈弁の石灰化があり、2%に明らかな狭窄があると言われます。大動脈弁の狭窄があると、左室は慢性的な圧負荷にさらされるため、求心性肥大を来します。
 
労作時にout putが足りなくなったり、心房細動や房室解離で適切な時相で心房収縮がなくなると労作時呼吸苦・失神・胸痛などの症状が出ます。
 どのタイミングで治療介入するかは重症度と症状で大部分が決まるので病歴もとっても大事です。また症状がでたsevere ASは予後が不良で、その平均余命は狭心症5年、失神3年、心不全2年と言われています。
 

(以上、ハリソン内科学第4版、p.1686から一部引用)

 

2.大動脈弁狭窄症の重症度

大動脈弁狭窄症の重症度は経胸壁心臓超音波で評価します。

まずは、左室肥大および大動脈径の拡大がないかをチェックします。そのうえで、ASの原因が先天性か、リウマチ性か動脈硬化性を判断します。

重症度評価に関しては以下のように複数の指標で評価を行います。

 

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(日本循環器学会.弁膜疾患の非薬物治療に関するガイドライン(2012年改訂版).p19から引用)

※心尖部左室長軸像で、CWを用いて大動脈弁圧格差測定を行うと、最高血流速度と収縮期平均圧格差を測定することができます。AVA(弁口面積)はトレース法とLVOT径、LVOT-VTIを用いて計算する方法があります。

 

3.大動脈弁狭窄症の治療方針

基本的には、無症状のASはその程度に関わらず予後は健常群と変わらないため、軽度であれば内科的に1-2年毎に経過観察となります。ただし、severe ASの場合は2年以内の心事故率が高いため3-6カ月おきに外来で心臓超音波を含めて経過観察する必要があります。

症状(狭心症、失神、心不全)が出れば手術適応となります。

この症状がよく問診しないと聞き漏らすことがあるので注意が必要です。

 

TAVIの適応については、http://tavi-web.com/professionals/indication/index.html#を参照してください。ポイントとしては、透析患者や感染性心内膜炎の患者は適応がないことと、あくまでもAVRのリスクが高い患者が対象になっている点であると考えます。

(BAVに関してはかなり状態が悪い場合でも適応あるんだな…というのが正直な感想です)

 

とても簡単ですが、日常よく見る大動脈弁狭窄症に関してまとめました。

心臓超音波や聴診で「ASがありそう」と思ったら、循環器内科に相談もしくは自分でmean PGくらいは測定しても良いかもしれません(そのうえで重症度が高ければ循環器内科にフォローをお願いする…と)

いずれにせよ、偶発的に見つかったASなのか、症状があって見つかってのASなのかでだいぶ違いますので外来をやる場合には要注意ですね。

 

それでは。

 

けいれんした小児の初療について

先日、小児のけいれん重責症例で、初療に難渋した症例があったのでまとめてみました。結果的には、他院へ転送になった症例なので、それが「熱性けいれんの重責状態」であったのか「脳炎などによるけいれん重責」だったのか、分かりません。

 

小児の場合は、熱性けいれんの頻度が高いのですが、熱性けいれんであっても重責していたり、髄膜炎など他の疾患が原因で隠れていたりすることもあるので、注意が必要です。

 

小児のけいれん重責の初期対応とdispositionに関してガイドラインを中心にまとめてみました。まずは、熱性けいれんの定義と分類を確認し、具体的にけいれん重責状態の患者に対してどうアプローチをしていくか見ていきます。

 

 

【熱性けいれんの定義と分類】

・熱性けいれんの定義

主に生後6-60カ月までの乳幼児期に起きる。

通常は38度以上の発熱を伴う発作性疾患で、髄膜炎などの中枢感染症代謝異常などほかの明らかな発作の原因がみられないもの(てんかんの既往のあるものは除外)

 

※ただし、発作が5分以上持続した場合は、けいれん重責として治療に踏み切ることが必要。(どんな原因があれ、けいれんが重責している場合はそれを停止させる必要がある)

 

※熱性けいれんのうち、「発作が15分以上持続」「24時間以内に複数回反復する発作」「部分発作がある」ものは複雑型熱性けいれんと呼ぶ。

 

※両親いずれかの熱性けいれんの家族歴がある場合、1歳未満の発症、発作時体温が39度以下、発熱から発作までの間隔が1時間以内の場合は再発率が高い。

 

※血液検査をルーチンに行う必要はないが、全身状態が不良で重症感染症を疑う場合、けいれん後の意識障害が遷延する場合、脱水を疑う所見がある場合は血液検査を行う

 

※髄液検査をルーチンに行う必要はないが、髄膜刺激症状、30分以上に意識障害、大泉門膨隆などがあれば髄液検査を積極的に行う

 

※頭部CT/MRI検査をルーチンで行う必要はないが、発達の遅れがある場合や、発作後のマヒがある場合、部分発作の場合、頭部CTやMRIを考慮する。尚、腰椎穿刺前の頭部CTは疑う疾患が細菌性髄膜炎であれば必ずしも必須ではないが、日本のCTの普及率や未知の占拠性病変を考慮すると施行できるなら施行する

(以上、熱性けいれん診療ガイドライン2015より抜粋)

 

⇒上記を踏まえると、例えば救命センターに運ばれてくるような「けいれんが全然止まらない」というようなお子さんはそもそも、けいれん重責と捉えて治療する必要があります。

また、ガイドラインから単純性熱性けいれんのilness scriptを表現するなら「比較的元気な、6か月~5歳までの発熱した乳幼児に起こる、5分にも満たない、繰り返すことのない全般性のけいれん発作」と捉えることができそうです。

 

【けいれん重責状態の定義と初期対応】

 ・けいれん重責の定義

前述しましたが、5分以上けいれんが続く場合はけいれん重責として対応します。

 

・けいれん重責の初期対応

①搬送時に、けいれん発作が続いている場合はABCDE(+血糖)を確認しながら、

ジアゼパム 0.3-0.5mg/㎏を緩徐に静脈内投与

or

ミダゾラム 0.15mg/㎏を1mg/分の投与速度で静脈内投与(総投与量は0.6㎎/㎏)

を行いますが、けいれんを止めることはもちろん大事なんですが、それ以上に気道が開通していること、換気が十分になされていることを確認しなくてはいけません。

当然、鎮静でも呼吸抑制が起きる可能性はあるので、バックバルブマスクや気道確保の準備はしておきましょう。

ルートが確保できない場合の次善の策としては、ミダゾラム0.2-0.5㎎/㎏の頬粘膜投与や筋肉注射も記載はあります。

 

②上記対応を行ってもけいれんが消失しない場合

 

フェノバルビタール 15-20㎎/㎏ 100㎎/分以下で10分以上かけて投与

半減期は48-72時間)

ホスフェニトイン 22.5㎎/㎏

フェニトイン 15-20㎎/㎏

 

の投与を検討します。

 

③ICU入院を必要とする目安

急性脳炎や脳症などにより全身状態が不良の場合

人工呼吸器管理が必要な場合

第2選択薬でけいれんが止まらない場合、止まるまでに1時間以上を要した場合

はICU入院を検討します。ここまで状態が悪ければ、近隣の小児病院への転院搬送なども考慮する必要が出てくるでしょう。

※複数の抗けいれん薬を用いてもけいれんが止まらない場合は、難治性けいれん重責状態(refractory status epilepticus : RSE)、全身麻酔(RSEに対してミダゾラムバルビツレートによる昏睡療法)を用いても24時間けいれんがコントロールできないけいれん重責を超難治性けいれん重責(super refractory status epilepticus :SRSE)と呼びます。

(以上、小児けいれん重責治療ガイドライン2017より抜粋)

 

普段成人の対応を中心にしていると、中々「子供のけいれんが止まらない!」という状況には遭遇しないとは思います。

ただ、最悪を想定するという意味では、必要な薬剤の投与量(ミダゾラムフェノバルビタールなど)、挿管チューブの太さ、バックバルブマスクのサイズについては確認してから初療に望むようにすべきでしょう。 

 

それでは。

 

【参考文献】

熱性けいれん診療ガイドライン2015

熱性けいれん診療ガイドライン2015

 
小児けいれん重積治療ガイドライン2017

小児けいれん重積治療ガイドライン2017

 

 

血糖管理の話 インスリン持続静注

お久しぶりです。本日は集中治療室における血糖管理についてです。

重症患者において、なぜ血糖コントロールを必死にやらなければならないのか、文献的背景を踏まえて解説したうえで、実際にどのように血糖コントロールを行うのかまとめてみたいと思います。

 

■血糖コントロールエビデンスについて変遷

そもそも、高血糖が感染防御能の低下や創傷治癒を遅らせる可能性があることは1990年代から指摘されていました。

2001年のNew England Journal of medicine(以下NEJM)で発表されたLeuven Ⅰ trialでは、外科系ICU患者1548名において血糖を80~110㎎/dlに管理するIntensive Insulin Therapy(以下IIT)を行うと、血糖を180~200㎎/dlに管理する群に比較してICU死亡率を下げることが示されました。1)

しかし、その後はIITを行うことで死亡率を改善するエビデンスは示されることはなく、2009年のNEJMに発表されたNICE  SUGAR trialで、IITはむしろICU患者では低血糖を増やし、90日死亡率を増加させることが示されています。2)

続く複数のメタアナリシスの結果3,4,5)もあり、血糖コントロールの重要性は認識されつつもIITは行われなくなりました。日本版敗血症診療ガイドラインなどにも記載がありますが、現在の血糖コントロールの目標は144~180㎎/dlとされています。

 

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■血糖コントロールの実際

急性期は血糖の変動が激しい(全身状態が目まぐるしく変化する)ので、インスリンの定時打ちは思わぬ低血糖を招くこともあり慎重に行う必要があります。

まずは、「輸液のブドウ糖5g~10gあたりに即効型インスリンを1単位混注」を行い血糖コントロールができるかを試みます。それでも、高血糖が持続するようであればインスリンの持続静注を行います。

ただし、インスリンの持続静注を行う場合は、頻回に血糖を図る必要がりますのでICU相当の病室に入室するのが良いでしょう。

 

ヒューマリン®50単位+生理食塩水でトータル50㎖(1単位/㎖の希釈液を作成。)を作成し、下記のような指示を出します。

◆血糖は2時間おきに測定

◆2㎖/hrから投与開始

◆血糖値(mg/㎗)とインスリン投与量

69以下…インスリン中止、40%ブドウ糖を40ml 静注しDrcall

70-109…インスリン中止しDr call

110-139…0.5単位/時間減らす

140-199…そのまま

200-249…0.2単位/時間増やす

250-299…0.4単位/時間増やす

300-349…0.6単位/時間増やす

350-399…0.8単位/時間増やす

400以上…1.0単位/時間増やしDrcall

◆血糖値が109mg/dl以下及び350mg/dl以上の時は上記処置後1時間で血糖値を再検し、再度注入量を調節する。

 

あくまでも、投与例の一例です。血糖の下がり方には個人差が大きいので、インスリンの持続静注には経験が必要です。

 

また、インスリン持続静注を開始するとインスリンの作用によりカリウムが低下する場合があります。4-6時間おきにカリウム値はチェックし、低カリウム血症にならないように注意しましょう。

 

<参考文献>

1)Intensive insulin therapy in the medical ICU.NEJM.2001;345:1359-1367.

2)Intensive versus Conventional Glucose Control in Critically ill Patients.NEJM.2009; 360:1283-1297.

3) Benefits and risks of tight glucose control in critically ill adults.JAMA.2008;300:933-944 .    

4) Intensive insulin therapy and mortality among critically ill patients:including NICE-SUGAR study data.CMAJ.2009;180:821-827.

5) Toward understanding tight glycemic control in the ICU : a systematic review and meta-analysis.Chest.2010;137:544-551.

6) 日本版敗血症診療ガイドライン2016(http://www.jaam.jp/html/info/2016/pdf/J-SSCG2016_ver2.pdf

 

 <推薦図書>

集中治療999の謎

集中治療999の謎

 

 集中治療に関する疑問をエビデンスに基づいて解説。記事も筆者の先生方の語り調で楽しく読めます。

 

 血糖コントロール全般に関して分かりやすくまとまっています。

代謝性アルカローシスの話

本日は病棟ではよく見るけれど、なかなか理解の進まない「代謝性アルカローシス」の話です。


代謝性アルカローシスの理解をするうえで、

1、腎臓における重炭酸イオン調節の(簡単な)生理学
2、代表的な代謝性アルカローシスの原因とその病態生理
3、実際にどのように診断と治療に取り組めばよいのか?(尿中クロールを利用する)

の順番に考えてみると理解がしやすいと思います。

ある程度、勉強されている方だと、尿中Clで分類するというのはご存知かと思いますが、病態生理としてオーバーラップする部分も多く、尿中Clだけだとなかなか判断ができない場合もあるので、尿中Clはあくまでも治療方針の決定の際に参考にして頂ければと思います。

 

【腎臓におけるHCO3-調節の生理学】
重炭酸の再吸収は90%が近位尿細管で残りの10%が集合管で行われています。

集合管は普段、HCO3-を再吸収する際はHとHCO3-を交換してHCO3-を再吸収していますが、。血中の重炭酸イオンが多い状態になるとペンドリンと言う塩素重炭酸交換タンパクがCl-と交換して尿中にHCO3-を排出するようになります。

 

⇒Cl-とHCO3-(どっちも陰イオン)を交換してHCO3-を排泄しているのがポイントです。尿中にCl-があってなおかつペンドリンがきちんと働くことでHCO3-が排泄されるというのがポイントです。

 

【代表的な代謝性アルカローシスの原因とその病態生理】
当たり前だけど、重炭酸イオンをただ負荷するだけでは、一過性にアルカローシスにはなりますが、その状態が維持されることはありません。持続する場合、それなりの理由があるわけですね。

 

①塩素欠乏
これが最も多い、というか代謝性アルカローシスに対して強烈に作用する原因です。
塩素が足りなくなれば、当然遠位尿細管にたどり着くClは少なくなる。そうすると…

 

・尿細管へのCl-とH+の排泄が増える。H+の排泄が増えることでHCO3-の再吸収が増える
・Clが欠乏するとペンドリンの活性が落ちるので、HCO3-は排泄されなくなる

といったことが起きて、いつまで経っても代謝性アルカローシスが改善しなくなります。

 

②K欠乏(Mg欠乏)
K+とH+は互いを補い合うような挙動を示すのは皆さんご存知かと思います。
なので、K+が減る ⇒ その分細胞内からKがシフト、その代わり細胞内にH+が取り込まれる⇒H+が相対的に減るため代謝性アルカローシスになります。
Mgは、日本の場合、イオン化Mgが測定できないので採血でMgが正常値でも欠乏している場合があります。

 

③ミネラルコルチコイド過剰
代表的なミネラルコルチコイドはアルドステロンですね。

アルドステロンが、遠位ネフロンでのHCO3-再吸収を促進することで起こります。


※アルドステロンは、Naの再吸収とKの排泄を行い、血圧上昇および低K血症を引き起こす。ちなみに、脱水になることで腎血流が減るとRAAが賦活化されるので、結果的にアルドステロン分泌が亢進するため代謝性アルカローシスとなります。

 

④胃酸の喪失
胃酸はHとCl、少々のKが含まれているので、これが失われると、塩素欠乏・低K血症・H+の喪失を起こすため代謝性アルカローシスとなります。①と②の合わせ技ですね。

 

⑤利尿薬
ループ利尿薬は尿中にNa,K,Clを排泄するので代謝性アルカローシスの原因になります。

利尿薬投与による代謝性アルカローシスの難しいところは、「Cl-欠乏を伴っているかもしれない(そうではないかもしれない。そして尿中Clだけでは判断できない)」ので、利尿薬投与が代謝性アルカローシスの原因となっている場合、K+だけでなく、Cl-補充が必要になる場合があります。

 

⑥大量輸血や重炭酸ナトリウムの投与

もちろん一過性の代謝性アルカローシスの原因になりますが、腎臓からの排泄が保たれていれば徐々に改善します。

 

【実際にどのように診断と治療に取り組めばよいのか?】

患者の置かれている状況からある程度、原因を推測したうえで尿中Clを測定します。

全ての検査においてそうですが、検査前確率をある程度見積もってから尿中Clを提出しなければ、正しい診断が難しくなります。


尿中Clが20未満に低下していれば、Cl反応性の代謝性アルカローシス(つまり塩素欠乏がある)なので、生理食塩水の投与や、塩化カリウムマグネシウムの補充を行います。尿中Clが20を超えていれば、Cl抵抗性の代謝性アルカローシスなので、

アルドステロン症、Barter症候群、(利尿薬)、Cushing(ステロイド使用)、MgやKの欠乏を鑑別に挙げ、アセタゾラミドの投与も考慮します。

 

本日は以上です。

 

【参考文献】

1.稲田英一訳.メディカルサイエンスインターナショナル.ICU Book 第4版.p.503-

 

ちなみに、参考図書などに関する質問も結構受けるのでお勧めのものを紹介しておきます。

 

 

電解質輸液塾

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↑研修医の先生やJNPさん向けです。ビジュアル的に見やすくて、なおかつ程よくマニアックな部分は省いてありますので苦手意識がある人向け、もしくは最低限以上のことは勉強したくない人向けです。

 

より理解を深める!体液電解質異常と輸液

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↑少し古い本ですが、かなり詳しく書いてあります。研修医の頃から繰り返し読んでますがなかなかすべてを理解できません。上級者向けだと思います。いつになっても新しい発見がある本です。