気管支喘息患者の人工呼吸器管理について
最近、気管支喘息患者の担当になったので治療や呼吸器管理のポイントをまとめてみました。
気管支喘息患者に人工呼吸器管理が必要となった場合は、
■気管支喘息の急性期治療
■人工呼吸器管理をする際の注意すべきポイント
の2つに注意すれば理解が進むかと思われます。
■気管支喘息の急性期治療
ここでは、人工呼吸器管理になるほどの重症患者さん(大発作以上や中発作で来院するもどんどん悪くなるような方)を想定しての治療になります。
・SABA吸入
(例)サルタノールインヘラー 2paff/回 4回/日(少量を繰り替えし投与)
・ステロイド静注
(例)メチルプレドニゾロン(ソルメドロール®)80㎎ q6hr
(例)ベタメタゾン(リンデロン®)8㎎ q6hr
・気管支拡張薬
(例)アミノフィリン(ネオフィリン®) 6㎎/㎏を等張補液に溶いて1-2時間で投与
・SAMA吸入
(例)オキシトロピウム(テルシガン®) 2paff/回 3回/日
(例)イプラトロピウム(アトロベント®) 2paff/回 4回/日
・アドレナリン持続投与
特にエビデンスもなく、効果があるのか不明ですが慣習的に行う場合もあります(発作時のアドレナリン0.3㎎皮下注とは違う意味合いです)
(例)アドレナリン1㎎+生理食塩水49㎖を2㎖/hrで開始(BW50㎏で0.01γ)
■人工呼吸器管理をする際の注意すべきポイント
・ともかく「呼気をしっかりとる」=「autoPEEPがないように管理する」=「吸気時間を短くとるような工夫をする」
ガイドラインでは、「吸気相:呼気相=1:3以上として、気道内圧は最大50㎝H2O未満とする」と記載がありますが、現実的には、autoPEEPがかからないような設定をする&肺のプラトー圧を評価するというのが良いような気がしています。
こちらに関してはいつか解説したいところですが、基本的には
VCV・矩形波・強制換気であれば、
呼気ポーズ ⇒ auto PEEPの測定
吸気ポーズ ⇒ プラトー圧(肺胞内圧)、肺コンプライアンス(50-100/cmH2O)、気道抵抗(6-12cmH2O/l/秒)の測定
が可能です。
・人工呼吸器を状態の評価に生かす
前述した気管支喘息の治療を行っていると、徐々に現病は良くなる(はず)です。
その評価を行う上で、
気道抵抗の推移、(VCVなら)経時的な最高気道内圧の変化、I/E比に対してのauto PEEPの程度などはvitalと同じように記録し評価したほうが良いでしょう。
勿論呼吸音の推移なども大事です。
■その他
・筋弛緩を使用する場合の注意
あまりにも人工呼吸器との同調が悪い場合は筋弛緩(例えば、エスラックス® 7γの持続投与など)を使用することもあるかもしれません。
その際には無気肺・肺炎・喀痰による気道閉塞には注意が必要です。あとは、鎮静不足で実は本人が金縛りになっているなんてこともあってはいけません。これはほかの場合でも一緒ですね。
・SABAの多吸入では乳酸アシドーシスや低Kに注意
・「重症化させない」初期対応も意識する
SABA吸入に加えてSAMAも吸入する、アミノフィリンの投与に関してもSABAと合わせて使用すると入院率を下げるとする報告もあるようです。
ちなみにアドレナリンの皮下注射は、「HR130未満に保つようにして20-30分おきに繰り返し投与」と記載がありますが、以前これを契機にSTEMIになった患者さんがいました。心のどこかに留めておくのも良いかもしれません。
それでは。
【参考文献】
1.喘息ガイドライン専門部会.喘息予防・管理ガイドライン2015.2015年5月25日.p.150-.協和企画.
2.田中竜馬.Dr.竜馬の病態で考える人工呼吸管理.2014年10月10日.p.195-.羊土社
救急集中治療領域で使用する 鎮静薬の比較
今回は、研修医の先生から質問の多い、鎮静薬についてのまとめです。
集中治療領域で主に用いられる「鎮静」薬をそれぞれ比較しながら使用するとよいと思います。
プロポフォール、ミダゾラム、デクスメデトミジンの3つがしばしば用いられます。
■プロポフォール(ディプリバン®)
特徴は「素早く効いて、素早く切れる。だけど血圧と呼吸はストンと落ちる」
循環動態が安定している患者さんの処置や鎮静には使用しやすいですが、ショックや重症な外傷、高齢者には呼吸抑制、循環抑制の点から使用しづらいです。
用法用量は、状況によって様々ですが、概ね
0.2-2㎎/㎏で導入、0.3-3㎎/㎏/hrで維持
で用いられます。(導入の際にボーラスではなく、0.3㎎/㎏/hrから初めて5分ごとに0.3㎎/㎏/hr増量していく方法もDynamedでは紹介されています)
注意点としては、1㎖=1.1kalであること、脂肪製剤なので12時間毎にルートを交換すること、感染に注意すること、プロポフォール注入症候群、があります。(製薬会社のHPでは、中心静脈からの投与も可能と記載はありますが、基本的には避けたほうがよさそうです。)
プロポフォール注入症候群は4㎎/㎏/hrの用量で、48時間使用するとリスクが増えます。原因不明の代謝性アシドーシス・横紋筋融解を来す疾患で、予後が悪いと言われていますので用法用量には注意が必要です。
■ミダゾラム(®)
特徴は「プロポフォールに比較して、血圧は下がりにくいが、効果が遷延する」
循環動態が不安定な患者さんの鎮静に用いることがしばしばですが、長期間使用すればするほど、効果が遷延します。
日本版・集中治療室における成人重症患者に対する痛み・不 穏・せん妄管理のための臨床ガイドラインにおいては、上記のような記載があり(ミダゾラムに限ったことではありませんが)鎮静を定期的に中断するなどの工夫も必要になります。
用法用量は0.03㎎/㎏でローディング、0.02-0.18㎎/㎏/hrで維持
で用いられます。
注意点としては、投与してから効果が出るまでに2-5分という時間がかかることです。実際に処置前に2分待つのは現場だとかなり意識しないと難しいです。
また拮抗薬のフルマゼニル(アネキセート®)を用いる場合、フルマゼニルの効果が30-60分と短いため、一度覚醒した後に再鎮静されること、長期間ベンゾジアゼピン内服しているケース(薬物中毒など)では痙攣発作を起こすことがあります。
■デクスメデトミジン(プレセデックス®)
この薬剤に関しては敢えて注意点を先に記載します。
「フラッシュしない!徐脈に注意!」です。先の2剤と違い、フラッシュしてはいけない薬剤であるということは知っておいたほうが良いでしょう。臨床的には、徐脈が強く出る患者さんもいますので、使用する前はあらかじめ脈拍数は確認する必要があります。
特徴としては「ある程度の鎮痛作用も伴う、自発呼吸を温存できる」の2点があります。
用法用量は0.2-0.7μg/㎏/hr(ガンマではないことに注意が必要です。)です。
製薬会社のHPに換算表があるので体重を確認して使用しましょう。
添付文書ではローディングの記載がありますが、実際には臨床の諸先輩方はローディングは避けて使用していることが多いようです(循環抑制が出やすいため)
↓↓↓
http://www.maruishi-pharm.co.jp/med2/files/anesth/support/92/sup.pdf?1483664997
(丸石製薬株式会社「プレセデックス適正使用ガイド」)
【参考文献】
1.大野博司.ICU/CCUの薬の考え方,使い方.2016年1月5日.p.56-.中外医学社
2.布宮伸.日本版・集中治療室における成人重症患者に対する痛み・不 穏・せん妄管理のための臨床ガイドライン.日集中医誌 2014;21:539-579.
輸液や栄養に関する基本
今回は,日常臨床で行う輸液/栄養療法に関してシンプルにまとめてみました.
語り始めるときりがない分野(栄養開始のタイミングとか,どういうセッティングでどこまでカロリー目標を達成するかと,嚥下の問題とか)でありますので今回は基本的な部分のみまとめています.
<基礎知識>
3大栄養素と言うと,糖質・脂質・タンパク質があります.(これに,ビタミンとミネラルを加えて5大栄養素とも言います)
一般論として, 総カロリーの50−60%が糖質,15−20%がタンパク質 20−30%が脂質でまかなわれるのが理想です.(脂質は1g=9kcal,糖質とタンパク質は1g=4kcal)
実際には,タンパク質は外傷や熱傷では多めに必要かもしれませんが,エビデンスには乏しいです.
<栄養状態の評価>
BMIやTSF(上腕の肩先から肘先までの中間点の皮下脂肪の厚さ)などの身体所見から評価します.
血液データでは,アルブミン・トランスフェリン・プレアルブミン・総リンパ球数などで評価します.
<プランニング>
大原則は,経腸栄養>静脈栄養であること!(安易な禁飲食は避けること.)
一般的には,1週間程度であれば末梢静脈栄養でも良いとされていますが,救急集中治療領域に置いては胃管を入れて,少量でも経腸栄養を開始するのがトレンドです.
腸管が使用できない期間が2週間を越える様な場合は中心静脈栄養を考慮します.
(感染の合併を考えるとCVよりはPICCの方がその場合は望ましいです)
栄養や輸液はまず,カロリー・水分量・Na量・K量から考えると考えやすいです.輸液のみで禁飲食とする場合にはビタミンも忘れずに!
カロリー:25kg/kcal
水分:30−40ml/kg
Na:1−2meq/kg/day
K:1meq/kg/day
が目安になります.
実際には,製品化されている輸液製剤を使用することが多いと思いますので,その特徴を端的に整理します.
①維持液(ソルデム3A ®)…3−4本/日で水分,Na,Kはまかなえる.
②糖加維持液(フィジオ35®)…10%ブドウ糖液なので,カロリーが稼げる.
(10%以上の濃度を投与する場合は中心静脈が必要)
③低濃度糖加アミノ酸輸液…大体7.5%ブドウ糖(140kcal)+3%アミノ酸(60kcal),アミノ酸が投与できるのが長期投与では重要.
VitB1が含まれていないもの アミノフリード®,ツインパル®
VitB1が含まれているもの ビーフリード®,アミグランド®
④脂肪乳剤…添加物も考えると,10%脂肪乳剤は1kcal/ml, 20%製剤は2kcal/mlとなる.投与速度が速いと脂肪塞栓の原因にもなるので,投与速度は0.1g/kg/hr(最大投与量は0.3g−1g/kg/日) →イントラリポス®20%100mlとすると,体重50kgなら25ml/hr以下が望ましい.
末梢から単独投与が推奨されており,感染の原因にもなるので24時間でルートは交換する.
⑤中心静脈栄養液…高カロリー輸液, 糖質・電解質・アミノ酸・ビタミン・微量元素の合剤.NPC/N比(※1)は150程度になっている.
例として,エルネオパ®で考えると,
1号液は1000mlあたりブドウ糖120g Na50 K22 アミノ酸20gで560kcal
2号液は1000mlあたりブドウ糖175g Na50 K27 アミノ酸30gで820kcal
腎不全などの特殊な病態では「基本液」「アミノ酸液」「ビタミン剤」「ミネラル」を組み合わせてオーダーメイドをする必要があります.
(※)NPC/N比
そもそも栄養素のうち,アミノ酸はタンパク質合成に使用したいものなので,基本的な考え方として,「投与されるアミノ酸以外に,しっかりエネルギーを投与したい」という考えがあります.
そこで,
NPC=糖質×4(g)+脂質×9(g)
N=タンパク質(g)÷6.25(窒素係数) として,NPC/N比を計算します.
通常では150−200が理想とされますが,窒素負荷を抑えたい腎不全患者では300−500(透析導入患者は別),重症患者や外傷・熱傷では100-150が理想とされます.
基本的な数字を最初に覚えてしまうと,病棟でルーチンで行われている輸液療法の根拠が分かってすっきりすると思います.(多くのベテランドクターは,「維持液4本で」のように,自分の慣れた処方を無意識に出しています.)
それではまた.
創傷処置と縫合糸の種類
さて,記念すべき第1回目は研修医の先生と話題になった創処置に関する一般論です.
<内容>
1,創傷の分類
2,縫合する際に気をつけたいこと
3,縫合する際の手順
なかなか一般化するのが難しい分野ですが,何科にいっても創の縫合は行う可能性があります.それでは,見て行きましょう.
1,創傷の分類
一般的には「創」は開放性損傷を,「傷」は非開放性損傷を意味します.
その創傷がどのような機序で作られたかによって呼び名が変わりますので,カルテを記載する際には正確な記載が必要です.
(参照:創傷 日本救急医学会・医学用語解説集)
2,縫合する際に気をつけたいこと
創傷処置においては,「縫合するか,しないか」の判断は重要です.
基本的には臨床判断になるので,洗浄するのか,縫合するのか,縫合しないのか(テープやステープラーの処置にするのか,創傷被覆剤を用いるのか)を判断します.
難しいところなので,研修医の先生は,創傷処置がある場合には,積極的に上級医の臨床判断について積極的に質問しましょう.
一般論として,
①清潔野以外で出来た創傷は不潔と考えて,よく洗浄する(基本的には水道水でOK)
②創を一期的に処置できるのは顔面であれば24時間以内,その他の部位であれば6−8時間を目安とする
③救急外来などで縫合する場合は翌日専門医へ紹介
④汚染が高度な場合は破傷風トキソイドの筋注も考慮
⑤開放骨折を伴う場合は緊急手術の必要がある
⑥創部に異物がないか,レントゲンなどを用いて検索する
⑦縫合する前と後の状況を写真に撮ってカルテに残しておく.どんな糸で何針縫ったかも記載しておく
⑧抗凝固および抗血小板薬の内服の有無の確認
は行う様にしましょう.
3,縫合する際の手順
具体的な手順としては,
①必要であれば麻酔をして,流水でよく洗浄する.
交通外傷で範囲の大きな創傷の場合はシャワーでバケツ一杯分洗うこともあります
(形成外科の先生には「うちの救急の先生ってすごい洗うよね笑」なんて言われたりしますが…この辺りエビデンスがどうなっているかちょっと分かりません.ちなみに,縫合の際に滅菌手袋を使用する必要がないという先生もいらっしゃいますが,僕自身は清潔手袋を使用しています。)
※局所麻酔をする際は,アレルギーの既往のないことを確認した上でE(エピネフリン)入りキシロカインを使用すると出血が少なくなり処置が楽です.ただし,指や陰茎,耳介などにはE入りは原則使用しません.誤って血管内に投与することのないように逆血がないことを確認するようにしましょう.
投与から効果が出るまで5−8分程度かかると言われています.極量は3−5mg/kgですので使用しすぎに注意.ちなみに見た目は痛そうですが,表皮からではなく創部から注入した方が痛みは少ないです.
②消毒し,滅菌ドレープをかける
③糸を選択して,縫合する
糸の種類「吸収糸」or「非吸収糸」:体表の縫合では非吸収糸を選択
糸の種類「モノフィラメント」「編糸」:一般的にモノフィラメントの方が感染しにくい分,表面がつるつるしていて縫合しにくいです.体表の縫合ではモノフィラメントを選択しましょう.
太さ:顔面であれば5−0以下,その他の部位であれば3−0を選択することが多いです
※医療関係者向けですが縫合糸に関して詳しく勉強したい人は下記も参照してください.
それではまた.
ブログを始めました
地方国立大学を卒業後,東京の市中病院で2年間初期研修.
そのまま救命センターの後期研修医として残って2年目になります.
自分と自分の後輩研修医達のレベルアップを目指して,今後は記事を書いていきたいと思います.