救急医 ざわさんのブログ

東京の病院で三次救急をやっています.自分の日常診療の知識のまとめをしたり、論文や本を読んで感想文書いています。日常診療の延長でブログを始めました.ブログの内容の実臨床への応用に関しては責任を負いかねますので,各自の判断でお願いします.内容や記載に誤りや御意見がございましたらコメント頂ければと思います.Twitterもやっています(https://twitter.com/ryo31527)

会陰裂傷の話

今回は会陰裂傷についてのまとめです。3度以上の裂傷の場合,外科として相談を受ける(主に肛門の縫合,ひどい場合は人工肛門造設…)ので基本事項を確認しました。
 
今回は,
 
1.会陰裂傷の分類
2.会陰裂傷の治療方針
3.会陰裂傷の予後
 
についてまとめました。
 

1.会陰裂傷の分類

文献によって微妙な分類に違いはあるようですが,ほとんどの場合は,1~4度に分類されるようです。Up to dateでは下記の通り1度~4度に分類されていて,3度が細かく分けられています。[1]

 
1度 … 皮膚,皮下組織のみの損傷(会陰部の筋肉は損傷なし)
2度 … Perineal body(会陰体)の損傷(会陰横筋を含むが肛門括約筋には達しない)
3度 … exrenal anal sphincter(外肛門括約筋=EAS)もしくはinternal anal sphincter(内肛門括約筋=IAS)の損傷(直腸粘膜はintact)
(※EAS損傷が50%未満は3a,50%以上であれば3b,EASとIAS両方の損傷があれば3c)
4度 … EAS/IASを経てanal mucosa(直腸粘膜)まで達する損傷
 
文字で見るとイメージしにくいですが,膣周囲→直腸へと裂創が進展していくと重症度が増します。どれくらい直腸が損傷されているかが重要で,3度以上になると外科,産婦人科で協働する必要があります。
 
2.会陰裂傷の治療方針
会陰裂傷を疑った場合にまずすることは,「出血と損傷の確認」です。視診のみならず触診を行い,評価します。出産直後の段階では直腸損傷の多くは見逃されがちで,十分注意が必要です。(これは,現場で体験すると実感しますが,実際に産直後は悪露や出血,便などで非常に視野が悪いので無理もないかなと思います。直腸診なども積極的に行いたいところです)

基本的には裂傷は縫合する必要がありますが,1度・2度の裂傷の場合は抗生剤は不要。
3度以上であれば第2世代セフェム抗菌薬を単回投与(βラクタムアレルギーある場合は,クリンダマイシン)することで合併症が減る可能性があります。
状況にもよりますが3度以上であれば,手術室での処置が必要になる場合もあります。
 
3度以上の修復は工夫が必要で膣壁をガーゼなどで圧迫,出血を制御し開創器を用いて,創部をよく観察して縫合します。
理想としては直腸粘膜,ESA,ISAをそれぞれ別々にきちんと縫合したい(直腸粘膜は3-0/4-0,肛門括約筋は3-0/2-0で…と,実際はかなり難しいと思いますが,肛門機能不全を防ぐ意味で重要です)ところです。
※Up to dateの本文に細かい縫合について述べられていますので興味ある方は参照してください。
 
3.会陰裂傷の予後
3度以上の裂傷の場合は25%に創離開,20%に創部感染が起こると言われています。
便失禁や子宮脱など骨盤底筋群以上も合併する可能性があり,詳細は定かになっていません。(※Pubmedで少し文献検索((Prognosis/Narrow[filter]) AND (Perineal laceration) )すると,フランス語記載のReviewがヒットしました。これによると,長期的には35-60%程度に便失禁が見られるようです。[2])
 
Up to dateでは経腟分娩時の直腸損傷はObstetric anal sphincter injury (OASIS)と別項目でもまとめられていますが,それによると経腟分娩の6.3%,初産婦の5.7%に起こるとされています[3]。分娩時に発覚するOASISはImmediate OASIS,数週間たってからのOASISはPostpartum OASISと呼称されます。機能予後については残念ながらこちらでは詳しく触れられていません。
 
その他,医中誌やgoogle scholarでケースレポートを見ると,産後に限らず言えば,性交渉や外傷に伴って受傷した会陰部の外傷では(便による創部の汚染を避ける意味で)人工肛門造設する症例もあるようです。
 
調べてみると,やはり現場ではケースバイケースで考えざるを得ないようです。
急性期の治療内容だけでなく,保存療法や肛門機能を回復するための手術なども機会があればまとめてみたいと思います。
 
それでは。
 
 
【参考文献】
1.Marc R Toglia, MD et al.Repair of perineal and other lacerations associated with childbirth. http://www.uptodate.com (Accessed on April 27, 2020.)
 
2.T Thubert et al.Definition, Epidemiology and Risk Factors of Obstetric Anal Sphincter Injuries: CNGOF Perineal Prevention and Protection in Obstetrics Guidelines.Gynécologie Obstétrique Fertilité & Sénologie. 2018 Dec;46(12):913-921.
 
3.Milena M Weinstein, MD et al.Obstetric anal sphincter injury (OASIS).http://www.uptodate.com (Accessed on April 27, 2020.)