憩室炎の話
こんにちは。最近、憩室炎の入院が立て続いておりましたのでまとめです。
憩室炎のイニシャルマネジメントはそれなりに救急医時代にも学んでいたのですが、保存加療後の外来マネジメントについてはあんまり学んだことがなかったので改めて、勉強しました。
基本的にはUp to dateを参照することが多いのですが、今回は「一般社団法人日本消化管学会.大腸憩室症(憩室出血・憩室炎)ガイドライン」がMindsで公開されていたので対比しつつまとめてみたいと思います。
以下
0.大腸憩室炎の疫学
1.大腸憩室炎の初期診療
2.大腸憩室炎の外来フォローで下部消化管内視鏡は必須か
3.大腸憩室炎を繰り返す場合はやっぱり手術なのか
という内容でまとめました。
0.大腸憩室炎の疫学
大腸憩室症ガイドライン(1)によれば,本邦において
・40-60歳では右側結腸に多く,高齢になると左側に多い
・左側結腸憩室炎の方が合併症を有する確率が高い
・危険因子に関しては明らかなものはないが,肥満や喫煙は関連があるかもしれない
・膿瘍などを伴っているものは全体の16%程度,その場合の死亡率は2.8%(合併症がない普通の大腸憩室炎では0.2%)
・大腸憩室炎と大腸癌の関係は不明である
と言った疫学的特徴があるようです。
大腸癌でもそうですが,右側と左側で発症年齢にばらつきがあることや,予後が変わるのは発生学的な影響もあるのでしょうか?ちょっと興味深いですね。
危険因子や大腸癌との関連もあまりはっきりしたものはなさそうですが,これについては後述します。
1.大腸憩室炎の初期診療
大腸憩室症ガイドライン(1)では,初期診療の要旨としては下記のような記載がありました。
①「膿瘍・穿孔を伴わない大腸憩室炎に抗菌薬は不要とする報告はあるが,日本人のデータはなく不明であり,現状では抗菌薬投与は許容される」(エビデンスC,合致率100%)
②「膿瘍がおおよそ3㎝以下の場合には,抗菌薬投与と腸管安静を推奨する。一方,膿瘍がおおよそ5㎝を超える場合には,超音波あるいはCTガイド下ドレナージと抗菌薬投与,腸管安静を実施することを推奨する。3-5㎝の境界サイズの膿瘍は,患者の病態,人的・施設的ドレナージ実施可能性など勘案して,個々に治療法を選択する」(エビデンスC,合致率100%)
③「汎発性腹膜炎を呈する大腸憩室炎は緊急手術を実施することを推奨する」(エビデンスA,合致率100%)
③については異論はないと思います。保存加療が失敗した場合も手術ですね。
①については自分の不勉強で知りませんでしたが,軽症の場合は抗菌薬使用しなくても予後に差が出なかったという報告が2013-2017年までで散見されるようです。(原著については今回未確認)
自分だったら,抗菌薬なしで経過診れるかと言うと…自信はないです。
ガイドラインでは,特に具体的な抗菌薬の選択について記載なかったため,up to dateも参照しました。
Up to dateの“Acute colonic diverticulitis: Medical management.”(2)では,
①外来患者では,7-10日間の経口抗菌薬を処方(腸内細菌叢,特に大腸菌とBacteroides fragilisをカバーするような,AMPC/CVAやCPFX+MTZ,ST合剤+MTZなどを使用),絶食よりはmodifiedな食事制限(飲水を2-3日して,徐々に食上げ)を推奨。
※routineの抗菌薬投与に関しては,別個に記載があり「明確なevidenceはない」として,明言はされていませんでした。各国のガイドラインで推奨が違うようです。
②入院治療をする場合は,
・「明らかな消化管穿孔,腸閉塞,多臓器への穿通」があれば手術
・「膿瘍形成」があればドレナージ(ドレナージできなければ抗菌薬)
※ドレナージが成功すれば24-48時間で改善が得られるはずなので,そうでない場合は再評価を行う,場合によっては手術
・抗生剤はGNRと嫌気性菌を十分カバーできるようなレジメンを選択。単剤であればカルバペネム系もしくはTAZ/PIPC,2剤以上であればセフェム系もしくはLVFXにMTZ併用。腸球菌想定される場合はABPCやVCM併用)
※本文中には記載されていませんが,本邦で経験的に使用されるABPC/SBTは大腸菌への,CMZやCLDMはBacteroidesへの耐性が懸念されるため上記のような選択になっていると思われます。実際には,軽症例の場合はABPC/SBTやCMZで十分治療できると思いますが…。アンチバイオグラムを確認しながらできるだけ狭域の抗菌薬を選択したいところです。
・抗生剤は症状改善まで使用(基本的には3-5日間で奏功),静注の後に内服抗生剤を10-14日間使用する
といった記載になっていました。
双方見比べても,「緊急手術」もしくは「保存加療(ドレナージするかどうかは状況次第)先行して,だめなら手術」というのが大まかな流れで一致してそうですね。
★術式の選択について
この辺りは外科医ならではの悩みと思われますが,どのような術式を選択するのかについてもUp to dateのAcute colonic diverticulitis: Surgical management(3)に記載がありました。Hinchey分類(下図参照)でマネジメントが分類されていますが,大雑把に言えば,
・Hinchey分類Ⅲ,Ⅳ → vitalが悪ければDCSもあり得るが,基本はHartmann手術
(状態が改善すればストマ閉鎖),切除後吻合する場合はカバーリングストマを併用。
・Hinchey分類Ⅰ,Ⅱ → 汚染が軽度で腸管の状態が良ければ,カバーリングストマ併用で切除後吻合。(患者や腸管の状態がよっぽどよければ,ストマを置かなくても良い)
で明確な推奨はやはり難しそうです。大規模な臨床試験が,Hartmann vs カバーリングストマで行われていて大きな差はなさそうですが,やはり再手術は避けたいもので安全な手術に流れていくのは仕方ないかなと思われます。
2.大腸憩室炎の外来フォローで下部消化管内視鏡は必須か
大腸憩室症ガイドライン(1)では,
「大腸憩室炎と大腸癌の関連性は不明である。ただし,原疾患として大腸憩室症以外の病変を否定するための大腸内視鏡を,一度は行うことを推奨する」(エビデンスC,合致率100%)と,臨床疫学的には根拠は少ないものの,エキスパートオピニオンとしては推奨されています。
Up to dateの“Acute colonic diverticulitis: Medical management.”(2)でも,「もしも1年以上下部内視鏡を行っていなければ,症状改善後,6-8週したところで下部消化管内視鏡を行う。」との推奨でした。
なので,「基本的にはやったほうが良いだろう」というのが結論になりそうです。
3.保存加療後の大腸憩室炎でどんな時に手術を考慮するのか
あくまでも、「保存加療後」の憩室炎の手術適応についての内容です。
大腸憩室症ガイドライン(1)によれば,
・膿瘍・穿孔を伴わない大腸憩室炎の再発率は報告によって異なりますが13-47%(ただし,再発そのものが重症化のリスクにはならず)
・膿瘍を合併した大腸憩室炎の再発率は30-60%程度
・膿瘍・穿孔を伴わない大腸憩室炎を繰り返すだけでは必ずしも手術適応とならない。(免疫不全患者など一部の症例では待機的手術を考慮する)(エビデンスC,合致率100%)
・大腸憩室治癒後の狭窄を来たした症例では手術を考慮する(エビデンスB,合致率100%)
ということのようです。
Up to dateの“Acute colonic diverticulitis: Medical management.”(2)では,どの患者に待機的手術をするかはケースバイケースとしながらも,免疫不全患者(化学療法施行後,移植患者,長期ステロイド使用,糖尿病,腎不全,膠原病患者)などは再発した場合に重篤化しやすいので,可能であれば手術を検討すると述べられています。
この辺りは本当に判断が難しいところのようですね…。
今回は実際に自分の行っている診療について裏をとるような内容になりました。
調べてみると,術式や抗生剤の適応,選択など先人たちも色んなことで迷っていたんだ
なぁとしみじみ感じます。
今後も細々ブログで自分の診療を振り返りつつまとめて行きたいと思います。
それでは。
【参考文献】
1.一般社団法人日本消化管学会.大腸憩室症(憩室出血・憩室炎)ガイドライン .2017.(https://minds.jcqhc.or.jp/n/med/4/med0348/G0001033)
↑日本語です。Mindsで無料公開されています。
2.John H Pemberton, MD.Acute colonic diverticulitis: Medical management. http://www.uptodate.com (Accessed on July 4, 2020.)
3.John H Pemberton, MD.Acute colonic diverticulitis: Surgical management. http://www.uptodate.com (Accessed on July 4, 2020.)
↑Up to dateは内科治療と外科治療を分けた記載でした。さすがに,外来マネジメントについては細かく記載されていたので都度確認したほうが良さそうです…。
John H Pembertonさんは,メイヨークリニックの大腸外科の先生です。