救急医 ざわさんのブログ

東京の病院で三次救急をやっています.自分の日常診療の知識のまとめをしたり、論文や本を読んで感想文書いています。日常診療の延長でブログを始めました.ブログの内容の実臨床への応用に関しては責任を負いかねますので,各自の判断でお願いします.内容や記載に誤りや御意見がございましたらコメント頂ければと思います.Twitterもやっています(https://twitter.com/ryo31527)

ヨード造影剤アレルギーの話

 ひさびさの更新です。実は2019年度から外科医になりました。

とは言っても,最終的にはまた救急に戻りたいと考えていますし救急専門医は維持するつもりなのでブログのタイトルはそのままです。

今後ともよろしくお願いいたします。(今回の経緯についてはなんとなくnoteにまとめてみました。進路選択の悩みが滲み出た内容なので書くのはちょっと恥ずかしかったです→https://note.mu/ryo31527/n/n4f6a517ac099

 

さて,今回はヨード造影剤アレルギーの話です。

外科になると造影CTを撮るか迷う場面が増えました。すべての検査がそうなのですが,「どれくらいのリスクがあって,検査をすると治療方針がどう変わり得るのか」ということを考えて造影するのかしないのか,選択したいものですが…。

 

今回は,

0.ヨード造影剤アレルギーという言葉の曖昧さについて

1.ヨード造影剤アレルギーのリスク

2.ヨード造影剤アレルギーのリスクがある場合,前投薬はどうするのか

3.もしもヨード造影剤アレルギーが起こったら

の4つについてまとめてみました。

ちなみに,この手の話題に関しては,院内マニュアルがある病院も多いと思うので,不要な混乱を避ける意味でも,まず「自分の病院ではどういう決まりになっているのか」を確認してみることをおすすめします。

今回は,Up to date,放射線医学会の提言,American College of RadiologyやEuropean Society of Urogenital Radiologyのガイドラインを中心に比較してみたいと思います。

 

0.ヨード造影剤アレルギーという言葉の曖昧さについて

ここは本題に入る前に確認です。正直あんまり大事ではないので読み飛ばしても良いと思います。

今回の記事で扱うのは「ヨード造影剤アレルギー」ですが,ヨード造影剤を投与した後に患者さんの体調が悪くなる現象は「ヨード造影剤投与後の急性副作用」です。

Up to dateのDiagnosis and treatment of an acute reaction to a radiologic contrast agentには,

Acute reactions to contrast usually occur within 20 minutes of exposure but are generally defined as those occurring within an hour. They are classified as allergic-like or physiologic based upon the clinical presentation.

と記載があり, allergic-like reactionと physiologic reactionは区別されています。

 

allergic-like reaction(日本語ではアナフィラキシー「様」反応と訳されますが)はIgEを介さないとされているため,狭義の意味ではアナフィラキシーと呼ばないとされていますが症状はアナフィラキシーと同じです。

実際には,臨床の現場で「造影剤アレルギー」と呼ばれているものは,正確にはヨード造影剤に対するアナフィラキシー反応なんですね。

まぁ,ここを正確に理解せずとも実際の臨床現場ではあまり困らないと思いますが。

 

1.ヨード造影剤アレルギーのリスク

 

さて,ヨード造影剤使用を躊躇うような場面はどんな場面でしょうか?

オイパロミン®(ヨード造影剤)の添付文書を確認してみましょう。

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これを見るとやはりヨード造影剤の過敏症の既往がある場合は,できる限り避けたほうが良さそうです。(ちなみに,この添付文書の記載に関しては早川先生方の書かれた「造影剤添付文書の「原則禁忌」について考える」という記事がとてもまとまっております

 

Up to dateを見てみると,

The rate of acute adverse reactions from nonionic low- or iso-osmolar iodinated contrast is approximately 0.15 to 0.7 percent with >98 percent being mild and self-limited [8-11]. Fatality from iodinated contrast has been estimated at 2 to 9 per one million administrations [3,12]. 

と,その発生率は非常に低いことが伺われます。

 

American College of RadiologyのContrast Manual,European Society of Urogenital Radiologyのガイドラインでも同様の記載で,やはり過去の造影剤アレルギーの既往や,気管支喘息,アレルギー体質などは注意すべきrisk factorとして記載されていましたが,実際にどれくらいのrisk上昇を認めるのかは記載がありませんでした。

 

2.ヨード造影剤アレルギー(ヨード造影剤投与後の急性副作用)のリスクがある場合,前投薬はどうするのか

ここが,今回一番興味深かった点です。

American College of Radiologyでは,Given the tradeoffs between what is known and not known with respect to the benefits and harms of premedication, premedication may be considered in the following settings and scenarios:

とした上で,こんな推奨をしています。

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基本的には,「過去に造影剤で副作用のあった患者を対象に」「できるだけ検査の前から」「治療方針の決定を優先して」行うと言うような推奨になっています。

 

それに対して,European Society of Urogenital Radiologyでは「Premedication is not recommended because there is not good evidence of its effectiveness」 

と前投薬の推奨は特にないようです。

(ちなみに,前述の日本放射線医学会の提言ではEuropean Society of Urogenital Radiologyも前投薬を推奨している記載になっているようですが,ver9.0時点での記載なので,すくなくともver10.0ではpremedicationは推奨されていないと言うことになります)

 

American College of Radiologyの前投薬のレジュメンは以下の通りです。

・経口の場合

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・静注の場合

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こうしてみると,たしかに使用するステロイドの量も多く,使用が躊躇われますね。

なんやかんや,リスクの層別化が難しいこともあって,結局は現場の判断ということのようです。

 

3.もしもヨード造影剤アレルギー(ヨード造影剤投与後の急性副作用)が起こったら

Up to dateでも,各ガイドラインでもアナフィラキシーに準じた対応が推奨されています。以前の記事(http://zawa99.hatenablog.com/entry/2017/11/23/144100)でも少し引用しましたが,日本アレルギー学会のアナフィラキシーガイドラインが日本語で記載されていて,良くまとまっています。

 

基本的には,

1.まずはABCの確認(意識障害があればACLSに準じた対応)

2.ルートキープ,酸素投与,モニター装着,応援を呼ぶ

3.アドレナリン注(成人は0.5㎎,小児は0.3㎎が最大量)

アナフィラキシーのキードラッグはアドレナリンの筋注なのであまり躊躇わずに使用したほうが良いと思いますが,一応適応は下記の通りです。

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調べてみると,色々はっきりしないことも多く,すっきりしない記事になってしまいました。ただ,「分からないことが分かる」ということが臨床の醍醐味と言うか大事なポイントだと思いますので,今後元リンクの文献も読みこんで学んでみようと思います。

 

それでは。

 

【参考文献】

1.Stella K Kang, MD, MS. Diagnosis and treatment of an acute reaction to a radiologic contrast agent. http://www.uptodate.com (Accessed on September 28, 2019.)

↑意外とUp to dateはあっさりした記載でした。

 

2.早川克己ら.造影剤添付文書の「原則禁忌」について考える.(https://radiology.bayer.jp/static/pdf/auth/cm_faq/cm_faq_3.pdf

↑少し古いですが読みやすいです。

 

3.日本放射線医学会. ヨード造影剤ならびにガドリニウム造影剤の急性副作用発症の危険性低減を目的としたステロイド前投薬に関する提言.(http://www.radiology.jp/member_info/safty/20170629.html

4.American College of Radiology. Contrast Manual.(https://www.acr.org/Clinical-Resources/Contrast-Manual

5.European Society of Urogenital Radiology. Guidelines on contrast Agents.( http://www.esur-cm.org/index.php/)

↑各学会のspecialistの意見が違うのが面白かったです。

 

6.Anaphylaxis対策特別委員会.アナフィラキシーガイドライン.2014.(https://anaphylaxis-guideline.jp/pdf/anaphylaxis_guideline.PDF

↑おすすめ。まとまっているし,日本語。アナフィラキシーの対応は全ての医療従事者が学んでおくべきと思いますので是非ご覧ください