救急医 ざわさんのブログ

東京の病院で三次救急をやっています.自分の日常診療の知識のまとめをしたり、論文や本を読んで感想文書いています。日常診療の延長でブログを始めました.ブログの内容の実臨床への応用に関しては責任を負いかねますので,各自の判断でお願いします.内容や記載に誤りや御意見がございましたらコメント頂ければと思います.Twitterもやっています(https://twitter.com/ryo31527)

VVECMOについて

少し更新が滞っていました。今回は,VVECMO症例の担当になりましたので,簡単にまとめました。

 

 

1.そもそもVVECMOとは

VVECMOはVeno-Venous Extracorporeal Membrane Oxygenationの略です。

静脈から脱血して静脈に送血するECMO(体外式膜型人工肺)のことを指します。

臨床現場では,呼吸ECMOなどとも呼ばれています。

ECMOは人工肺そのものを指す言葉で,ECMOを用いた生命維持処置のことをECLS: Extracorporeal Life Supportと言います。

慣習的に治療行為を含めて,ECMO,ECMOと現場では呼ばれることが多いです。

 

2.エビデンスと適応

2009年に発表されたCESAR trialは成人の重症呼吸不全に対する有用性を示したRCTです[1]。同年に流行したH1N1インフルエンザとそれに伴うARDSに対して,ECMOによる救命例が報告されECMOは脚光を浴びるようになったと言われています(自分は当時,薬理学のテストに苦しんでいました)。

 

また,ELSO(extracorporeal life support organization)がガイドラインをインターネット上で公開しています。(https://www.elso.org/Portals/0/ELSO%20Guidelines%20General%20All%20ECLS%20Version%201_4.pdf

 

ECMOの適応については,

 

①適切な呼吸管理を行なっているにも関わらず,死亡率が50%を超えるならECMOを“考慮” →FiO2>0.9でP/F ratio<150,Murray Lung Injury Score 2-3点

②適切な呼吸管理を行なっているにも関わらず,死亡率が80%を超えるならECMOを“導入” →FiO2>0.9でP/F ratio<100,Murray Lung Injury Score 3-4点が6時間以上持続

③適切な呼吸管理を行っているにも関わらず,pH<7.20

④肺移植待機中などbridge therapyとしてECMOが必要と考えられる場合

 

となっていますが,文献毎に微妙に違う部分があります。適応のポイントとしては,「可逆性のある肺障害で,なおかつ人工呼吸器管理の時間が短い(目安としては1週間以内である)こと」です。

可逆性のある病態である必要があるので,初期にウイルス感染,細菌感染,ARDS,Wegener肉芽腫症,肺胞蛋白症,重症喘息などを鑑別する必要があります。ECMOはあくまでも対症療法ですから,原因に対する根本治療がなければなりません。

 

人工呼吸器管理の時間に言及されているのは,人工呼吸器関連肺障害(VILI:ventilator inducedlung injury)が進行した状態では救命率が低くなると考えられているからです。

ただし,2018年に発表されたEOLIA trialでは重症ARDSにおいて早期ECMO導入群と,通常の人工呼吸器管理を行った群(ECMOへのクロスオーバーあり)で有意差がなかった[2]ことから,「いつECMOを行うか」ということはまた議論されそうです。(肺保護が大切であることと,ECMOそのものの価値を下げるものではないです)

 

※Murray Lung Injury Score

P/F ratio,胸部Xp所見,PEEP,全肺胸郭コンプライアンス(TV/(最大吸気圧-PEEP)で計算)

www.mdcalc.com

 

3.管理の実際

カニュレーション[3]

現在はリサーキュレーション(送血管からの血流を脱血してしまう現象)を防ぐ意味で,大腿静脈脱血-右房送血が多いです。脱血管には側孔がたくさん空いているので十分な血流を確保できます。

 

いずれも穿刺部位の血管をエコーで確認し,血管系の3分の2を超えないような太さを選択します。カニュレーション前に50-100単位/㎏のヘパリン(2500-3000単位)を静注し,

 

送血管は21-23Frで留置する位置は第7肋骨高位

脱血管は23-29Frで留置する位置は第11肋骨高位もしくは肝内下大静脈

 

の位置に留置します。血液流量は60-80㎖/㎏/minで開始します。

ちなみに海外では1本のカニューレで送脱血のできるカテーテルもあるようです[4]。(大腿静脈のカテーテルを省略できるので離床に良い。)

 

●呼吸器設定(lung restとLow SaO2の許容)

 lung restを目指した呼吸器設定を行います。一律の決まりはありませんが,

最大吸気圧20〜25 cmH2O,PEEP10〜15 cmH2O,呼吸回数10 /min以下,FIO2 30%を目標にする[5]のが一般的です。

ECMO導入後,いきなりlung rest設定にはせず6-12時間かけて徐々に低下させていきます。この時に経肺圧が高くなるような呼吸様式や体動がみられる場合には鎮静や筋弛緩薬を併用します。それでも呼吸器設定を下げられない場合は,ECMO流量不足の可能性が高いです。このlung rest設定に辿り着いた後は,原病の回復を待つのみです。呼吸器設定を変えずに,TVが上昇してくれば回復の指標の1つになります。

 

「肺を休ませる」ことを考えるならもっと圧を下げても良いように感じますが,合併症でECMOが停止するような事態になった場合の安全弁として,上記のような設定をrest lungと呼びます。

 

ECMO管理中の血液ガスの目標は

 

PaO2 45-60(SpO2 85) →ECMOの流量で調節

PaCO2 40 →スイープガスで調節

Hb →12-14g/㎗

 

となります[6]。

この管理のコンセプトがlow SaO2の許容です。

 

 まず,「送り込まれる血液の酸素飽和度」を考えてみましょう。

下大静脈脱血-右房送血の場合は,「ECMOにより脱血された下大静脈血流は酸素化され送血されますが,上大静脈に還ってくる血流はそのまま右房に流入します

上大静脈に還ってくる血流量を30%と見積もれば,

酸素化された70%の血液と酸素化されない30%の血液が混合します[6]。

つまり,末梢の酸素消費量が高い場合や自己心拍出量が低い場合などは,結果的にSaO2は下がりうるわけです。

SaO2が下がった場合,後述するような鑑別をしますが実際問題リサーキュレーションがある場合などはどうしたら良いかを考えます。

 

ショックについて勉強した酸素含有量の式を思い出してみます。

CaO2(ml/dl)=SaO2×1.36×Hb(g/dl)+PaO2×0.003(ml/mmHg・dL)(PaO2は数字が小さいので無視できるのでした)

 

1分間に運搬される酸素の量は,CO(心拍出量)に依存しますから

DO2=CO×SaO2×1.36×Hb(g/dl)

 

ですね。なのでECMOを使用しSaO2が下がっている場合は,Hbを上昇させることで対応することになります。

 

●鎮痛・鎮静

カニュレーション後12-24時間は鎮静を要することが多いですが,ECMOが安定してからは患者の容態に合わせて調整します。

基本的な考え方としては,メリットがデメリットを上回れば覚醒を目指します。(特に1週間を超えるようなECMO管理の場合は患者の容態によりますが,気管切開,Awake ECMOを試みることもあります。)

覚醒のメリットは,患者の意識レベルの評価が容易になること,リハビリができること,家族や医療スタッフのモチベーションの維持などがあります。

一方で,覚醒することによって暴れてしまう場合はデメリットが上回ると言えます。

他にもピンク状泡沫痰が吹き出したり,呼吸が努力様になってしまう,気胸や縦隔機種などが出来てしまった場合は鎮静や肺を休める意味での筋弛緩が必要となることもあります[7]。

 

ちなみに,シリコン製の膜型人工肺はフェンタニルミダゾラムを吸着すると言われており,鎮痛薬としてモルヒネを使用するケースもあります。

モルヒネの作用発現時間は5-10分で7時間以上持続すると言われていますので,ボーラス使用(5-10mg/回,4-6時間おき)で効果的と言われています。

 

●抗凝固

ECMO管理中はヘパリン投与を行い回路凝固を防ぐのが一般的です。

ACT160-180,PT-INR<1.5,血小板>7.5万/μLを保つように輸血を行います。

 

感染症

ECMO管理中は感染のhigh riskでありながら非常に判断が難しいです。1つの文献の中でも「監視培養を行って,フルコナゾールの予防投与を行うべきだ」「いや,監視培養は意味がない」[6]と意見が一定しません。

バイオマーカーや臨床経過をみながら判断するしかありませんが,ECMO管理が長期化するにつれて考慮すべき感染症が変わる可能性があります。

ECMO導入2週間程度まではいわゆるGNR/GPCが多いのですが,2週間を超えるとCandida,4週間を超えるとmaltophilia,2ヶ月以降はサイトメガロウイルスやアスペルギルスも考慮しなくてはなりません[7]。

 

トラブルシューティング

前述した感染・出血の合併以外に,ECMO使用中にもSaO2が低下する場合があります。多くはリサーキュレーションによるものですが,人工肺の消耗・カニューレ位置の変化と言ったマシントラブル以外に,自己肺機能の低下,心拍出量の低下,酸素消費量の増加を考える必要があります[7]。

 

●ECMOからの離脱

lung rest設定にいたり,原病の治療が奏功した場合離脱を考えます。

目の前の患者の「肺が良くなっている」ことを認識できなければ離脱を検討することができないので,胸部X線写真や人工呼吸器パラメータ,血液ガスを参考に徐々にECMOをweaningします。

最低流量になったところで,通常の肺保護換気の設定(30mmHg>Pplat,PEEP5〜10 cmH2O,FIO2 60%,TV6-8㎖/㎏など)に変更し,スイープガスをoffにして2時間経過観察し,呼吸が安定していればヘパリンを30-60分前にoffしてから,カニューレの抜去です。多くの施設で巾着縫合や圧迫止血でカニューレを抜去しています。[3,6]

 

4.おわりに

簡単にECMOの管理についてまとめました。

かなりvolumeの多い内容でしたので正確でない部分もあるかもしれません。

施設や文献ごとに管理が一定していないところもあるので,詳細な設定は是非ELSOが出版しているRed book(ブログ記載時は2017年が最新版)などを見てみてください。(※最新版は英語になります。)

 

またECMO管理の入門には下記リンクの小倉先生の本がとても分かりやすいのでお勧めです。

 

それでは。

やさしくわかるECMOの基本〜患者に優しい心臓ECMO、呼吸ECMO、E-CPRの考え方教えます!

やさしくわかるECMOの基本〜患者に優しい心臓ECMO、呼吸ECMO、E-CPRの考え方教えます!

 

 

 

<参考文献>

1.Peek GJ,Mugford M,Tiruvoipati R,et al. Efficacy and economic assessment of conventional ventilatory support versus extracorporeal membrane oxygenation for severe adult respiratory failure (CESAR): a multicentre randomised controlled trial. JAMA 2009 ;374 :1330.

 

2.Combes A, Hajage D, Capellier G,et al EOLIA Trial Group, REVA, and ECMONet. Extracorporeal Membrane Oxygenation for Severe Acute Respiratory Distress Syndrome. N Engl J Med 2018 ;378 :1965-1975.

 

3.梅井奈央.呼吸ECMOの導入と管理.人工臓器 2017;46:208-211.

 

4.Bermudez CA, Rocha RV, Sappington PL, et al. Initial experience with single cannulation for venovenous extracorporeal oxygenation in adults. Ann Thorac Surg 2010;90:991-5.

 

5.市場晋吾, 清水直樹,竹田晋浩.重症呼吸不全に対するextracorporeal membrane
oxygenation(ECMO). 日集中医誌 2014;21:313-321.

 

6.市場晋吾, 落合亮一,竹田晋浩. ECMO Extracorporaeal Cardiopulmonary Support in Critical Care 4th edition<日本語版>.東京都: ECMOプロジェクト; 2015. 252-260.

 

7.小倉崇以,青景聡之. やさしくわかるECMOの基本. 東京都: 羊土社; 2018.