救急医 ざわさんのブログ

東京の病院で三次救急をやっています.自分の日常診療の知識のまとめをしたり、論文や本を読んで感想文書いています。日常診療の延長でブログを始めました.ブログの内容の実臨床への応用に関しては責任を負いかねますので,各自の判断でお願いします.内容や記載に誤りや御意見がございましたらコメント頂ければと思います.Twitterもやっています(https://twitter.com/ryo31527)

骨粗鬆症のはなし

おひさしぶりです。現在,整形外科をローテーション中です。手術したり外来をやったりと普段はなかなか学べないことを多く学べていて大変勉強になっています。
 
整形外科の外来をやっていると、「高齢女性の骨折」や「骨折リスク因子を複数抱えている方の腰痛」など骨粗鬆症osteoporsisに関して考える機会が多くあります。
自分自身、あまり深く考えていませんでしたが,プライマリケアの観点からは重要だと思いましたので,勉強してまとめてみました。
 
骨粗鬆症は「症状がなく進行し,脆弱骨折を引き起こす」症候群であり,国内外のガイドラインや教科書でも骨粗鬆症の介入が不十分である」ことが指摘されています。
 
個人的に悩んだのは,「骨粗鬆症の検索をどんな患者にすべきか」ということと,「骨粗鬆症に治療介入することがどんな利益を生むのか曖昧(骨折は減らすという報告はあるようです)なまま,闇雲に治療介入するのは適切なのか」という2点でした。
 
前者に関してはある程度勉強すれば分かることで,後者に関しては「骨折の減少」というのは真のアウトカムとして捉えても良いのではないか(経済効果は不明ですが,患者のADLを著しく損なうという点では良いと考えました)と結論付けたうえで,今回は下記のような内容でお話しします。
 
 
0.骨粗鬆症の病態生理
1.どんな時に骨粗鬆症osteoporsisを疑うか
2.骨粗鬆症osteoporosisを考えた場合の検査の組み方
3.治療薬の選択
 
今回の内容はプライマリケアや外傷診療,女性診療に携わる場合は知っておいたほうが良い内容かもしれません。けっこう分量が多いので,時間がない方は赤線部だけでも見ていただけると良いと思います。(おかしな内容があれば教えていただけると嬉しいです)
 
 
0.骨粗鬆症の病態生理
病態生理は,以下の通りです。
 
・骨は普段から「破骨細胞による骨吸収」⇔「骨芽細胞による骨形成」を繰り返しています
・骨吸収量>骨形成量となると骨量は減ります(普段はこの量は互いに釣り合っている=カップリング)
・閉経後の骨粗鬆症の主病態はエストロゲン欠乏(エストロゲン破骨細胞アポトーシスを促している)で,エストロゲンが減ることでカップリングが崩れます(骨吸収量↑)
破骨細胞の活性を高めるものとしてRANKLがあり,こちらを抑えることで骨粗鬆症の治療をする薬剤があります(一般名:デノスマブ)
 
 
1.どんな時に骨粗鬆症を疑うか
骨粗鬆症は以下のような手順で診断がされます。

f:id:zawa99:20180715181550p:plain

骨粗鬆症ガイドライン2015.p28より引用)
 
ポイントとしては,
①続発性骨粗鬆症を鑑別すること

f:id:zawa99:20180715181608p:plain

脆弱性骨折(立った姿勢からの転倒もしくはそれ以下の外力での骨折)の有無を評価すること
③骨密度を測定すること
 
の3つです。
 
実際には,「目の前の人に骨粗鬆症がありそうだ」と考えなければ,検査が始まりません。(※ハリソン内科学(第5版,p.2551)によれば,「50歳以上の骨折は骨粗鬆症を発見する機会であると考えるべきである」と述べられています。再三述べられていますが過小評価されているであろう現状を問題視しているようです。)
 
National Osteoporosis Foundationによれば,「65歳以上の女性・70歳以上の男性・閉経移行期以降の女性・骨折リスク因子のある50-69歳男性・成人期の骨折既往がある50歳以上の成人・関節リウマチのような骨量の減少に関連のある病態もしくは薬物使用歴(PSL5㎎×3カ月以上)のある成人」に対しては,骨密度測定が推奨されています。また,椎体骨骨折の2/3は無症候性と言われているので,リスクが高いと思われる患者さんでは積極的に胸腰椎のレントゲンを確認したほうが良いと思われます。
 
骨折のリスク因子としては,骨折の既往,骨粗鬆症関連骨折の家族歴,低体重,喫煙,過度の飲酒が代表的です。
 
他にも性腺機能低下状態(神経性食思不振症,Turner症候群etc),内分泌疾患(副腎不全,Cushing症候群,甲状腺機能亢進症,副甲状腺機能亢進症etc),胃腸疾患(胃腸手術,炎症性腸疾患,吸収不良症候群etc),血液疾患(多発性骨髄腫,血友病,サラセミアetc),膠原病(強直性脊椎炎,SLE,関節リウマチetc),中枢性神経疾患(てんかん,Parkinson病,脳卒中,脊髄損傷etc),薬物(抗がん剤PPI,PSL5㎎×3か月以上,MTXetc
),アミロイドーシス,HIV,サルコイドーシス,COPD
 
など,無数にリスクとなりそうなものがあります。
要は「身体活動の低下・栄養状態不良・骨吸収の促進を起こし得る病態・疾患」をリスクとして認識すべきなのでしょう。
 
リスク評価のツールとして,FRAXというものもあります。FRAXで10年間の大腿骨近位部骨折のリスクが3%以上であれば治療費に見合った予防効果が得られるようです。
 
 
2.骨粗鬆症を考えた場合の検査の組み方
骨密度測定に加えて,血算,血清Ca,P,ALP,血清PTH,肝腎機能,血清25(OH)D,24時間尿中カルシウムの測定をします。(関節リウマチを疑うのならばRFと抗CCP抗体を追加しても良いかもしれません)
 
血清Ca↑ならば副甲状腺機能亢進症や悪性腫瘍も鑑別に挙がるので要注意です。
(PTHは副甲状腺機能亢進症であれば↑,悪性腫瘍では↓,原発骨粗鬆症ではCaは正常値となります。
 
尿中カルシウム排泄が低下(<50㎎/日)していれば,骨軟化症・栄養不良・吸収不良が考えられます。反対に増加(>300㎎/日)していれば,高カルシウム尿症が示唆されます。これは男性の骨粗鬆症に多いパターンですが,血液の悪性腫瘍・Paget病・副甲状腺機能亢進症甲状腺機能亢進症など骨代謝回転の亢進を伴う病態が考えられます。
 
血清25(OH)Dに関しては目標値は20-30ng/mlで,骨粗鬆症の治療を受けている患者さんの場合は最適化すべきと言われています。
(しかし,内科医の先生たちの中でもビタミンD補充の目標値をどこに設定するかは喧々諤々のようです。また25(OH)D測定は,現時点ではビタミンD欠乏性骨軟化症・くる病の診断・治療のみ保険適用になっているようです(400点)ので,オーダーする際には注意が必要です。)
 
そして,実際に骨粗鬆症に対して治療を開始する場合は,以下の骨代謝マーカーを測定します。
 
BAP,P1NP⇒骨形成マーカー
TRACP-5b,NTX,CTX,DPD⇒骨吸収マーカー
 
基本的には早朝空腹時の採血で,骨折発生24時間以内もしくは骨折急性期を過ぎてからが原則です。
 
 
3.患者指導と治療薬の選択
患者さんの生活指導としては,以下のことが重要です。
 
・禁煙を指導する
・夜間多尿があれば(夜中に起きてトイレに行くので転倒リスクが上がる)介入する
・神経疾患があれば介護などの介入をする
・カルシウムとビタミンDを確実に摂取させる
・腎結石症のリスクがわずかに上がるので,既往のある患者さんの場合はカルシウム剤を投与する前に24時間尿中カルシウム排泄量をチェックしておく
・運動は無理のない範囲で行う
 
そのうえで,薬物治療を開始する場合は下記のような目安があります。

f:id:zawa99:20180715181835p:plain

ここでも,「脆弱骨折の有無,骨密度,FRAXの評価」が重要です。
骨粗鬆症ガイドライン2015では,「骨粗鬆症の原因と重症度に応じて薬剤を選択すべきである」と述べられていますが,具体的には,
 
・閉経後早期,骨吸収促進型 ⇒ ラロキシフェン(エビスタ®),バセドキシフェン(ビビアント®)
・重症型の椎体骨骨折や海綿骨での骨密度低下がある ⇒ テリパラチド(テリボン®,フォルテオ®)
・大腿骨近位部骨折のリスクを下げ得るもの ⇒ アレンドロネート(ボナロン®,フォサマック®),リセドロネート(アクトネル®,ベネット®),デノスマブ(ランマーク®,プラリア®),ミノドロン酸(リカルボン®,ボノテオ®)
・骨吸収抑制薬の併用は効果が限定的(アレンドロネート+活性型VitDはアレンドロネート単独よりも椎体骨折のリスクを低下)
・腎障害がある場合は,活性型VitD製剤・ビスホスホネート・SERMの投与は慎重になるべき(腎機能低下に伴い,PTH↑,25(OH)D↓となるが,尿中へのカルシウムおよびリンの排泄は低下する)
 
などの記載があります。
それぞれの薬剤に関しての特徴をまとめると,
 
①カルシウム製剤
ごくわずかな骨密度の改善効果が示唆されています。副作用は胃腸症状。
大腿骨近位部骨折の抑制効果…×
椎体骨骨折や非椎体骨骨折の抑制効果…〇
 
骨粗鬆症ガイドライン2015では,食事からのカルシウム摂取量と併せて,1日1000㎎のカルシウムの投与が勧められています。(経口摂取で賄える場合は不要です。)
サプリメントでカルシウム製剤を投与する場合は高カルシウム血症心血管イベントが増えるとの報告もあるので,尿中カルシウム/クレアチニン比が0.3未満であること,1回の投与量は500㎎を超えないようにすることに注意が必要です。
 
 
②活性型VitD薬(ワンアルファ®,エディロール®,ロカルトール®)
エディロールの薬価は1日1錠(0.75μg)内服の場合は97.9円。
骨密度の改善効果が示唆されています。副作用は高カルシウム血症
大腿骨近位部骨折の抑制効果…×
椎体骨骨折や非椎体骨骨折の抑制効果…〇
 
腸管からのカルシウム吸収↑作用がメインです。作用としてはエルデカルシトール>アルファカルシトール(エディロール®>ワンアルファ®)です。
 
 
③ビスホスホネート製剤(ボナロン®,アクトネル®,ベネット®など多数)
ボナロン®1日1回(5㎎)の場合は82.4円。
骨密度の改善効果が示唆されています。副作用が多いので注意です。
大腿骨近位部骨折の抑制効果…〇
椎体骨骨折や非椎体骨骨折の抑制効果…〇
 
基本的には破骨細胞アポトーシスさせる薬剤です。現在第1~第3世代薬まで開発されている椎体骨折や非椎体骨折を抑制できる一方で,長期間の使用では非定型大腿骨骨折(atypical femoral fractures;AFFs)発症の可能性があります(これはBP製剤特有のものではなく,デノスマブなど他の骨吸収抑制薬でも起きていると言われる)
 

f:id:zawa99:20180715181948p:plain

ビスホスホネート製剤は消化管からの吸収率が低いので,水以外の飲食物は内服後30分経過してから行うことと,内服して30分は横にならないように勧告されています。食道狭窄やアカラシアがある場合は内服禁忌です。
また,カルシウムが多く含まれるようなミネラルウォーターで内服すると吸収が阻害されることがあるので注意が必要です。顎骨壊死の副作用があるため,開始前は歯科治療を行う予定がないかは確認しましょう。
(※この顎骨壊死は他の骨吸収抑制薬使用時にも起きることから近年では,antiresorptive agent-induced osteonecrosis of the jow;BRONJと呼ばれているようです)
 
 
④SERM(selective estrogen receptor modulator,エビスタ®)
エビスタ®60㎎の薬価は1日1錠(60㎎)内服の場合は98.7円。
骨密度の改善効果が示唆されています。副作用は深部静脈血栓症・視力障害。
大腿骨近位部骨折の抑制効果…×
椎体骨骨折や非椎体骨骨折の抑制効果…〇
 
骨に対してエストロゲンと同じ作用を持ちますが,子宮や乳房には拮抗する作用があります(故に,“選択的”)。閉経後の骨粗鬆症に有効と考えられ,乳がんの発生を減らす(ただし,血栓や子宮がんのリスクは上がる)作用があります。
 
 
⑤デノスマブ(抗RANKL抗体,ランマーク®,プラリア®)
6か月に1回ランマーク60mg皮下注射の場合,薬価は46685円/6か月
 
骨密度の改善効果が示唆されています。副作用は低カルシウム血症があります。(骨吸収を抑制するので)
大腿骨近位部骨折の抑制効果…◎(臨床試験としては確認されていない)
椎体骨骨折や非椎体骨骨折の抑制効果…◎
 
RANKLを阻害することで,破骨細胞の形成を抑制する薬剤です。もともとは多発性骨髄腫や悪性腫瘍の骨転移に対して使用されていましたが,最近は骨粗鬆症に対しても保険が通ったようです。
副作用の低カルシウム血症に対して,カルシウム,天然型ビタミンDマグネシウムの補充を,採血結果を見ながら行います。また,顎骨壊死の副作用もありますのでビスホスホネート製剤と同様の注意が必要です。
 
⑥テリパラチド(副甲状腺ホルモン製剤,テリボン®,フォルテオ®)
1日1回20μg皮下注射の場合,薬価は1444円/日(24カ月間のみしか投与できません)
 
骨密度の改善効果が示唆されています。副作用は高カルシウム血症,悪心・嘔吐,頭痛,倦怠感。
大腿骨近位部骨折の抑制効果…×(臨床試験としては確認されていない)
椎体骨骨折や非椎体骨骨折の抑制効果…◎
 
骨形成を促進する薬剤で,非常に薬価も高い薬です。基本的には第一選択薬ではなく,ビスホスホネート製剤やSERMを使用しても,骨折を生じた例や複数の椎体骨骨折を起こしていたり,骨密度の低下が著しい例で使用するように推奨されています。
 
骨肉腫や悪性腫瘍の骨転移,原因不明の高ALP,骨Paget病,副甲状腺機能亢進症には禁忌です。
 
色々薬剤はありますが,効果が上がるにつれて薬価が上がり,副作用も増えていくというジレンマがあります。
難しいですね。
 
薬剤の併用療法としては,
ビスホスホネート製剤のアレンドロネート(ボナロン®)+活性型VitD(ワンアルファ®)
テリパラチド(フォルテオ®)→骨吸収抑制薬
SERM(エビスタ®)+アレンドロネート®(ボナロン)
などが例として挙げられています。
 
ちなみに治療効果の判定ですが骨密度の変化ではなく,骨代謝マーカーで行うことが一般的です。これは健康保険上は4カ月に1回骨密度測定が可能なのですが,治療開始6か月以内に骨密度が優位に変化することがないためです。(逆に骨代謝マーカーは如実に変化するので,例えば開始後3~6カ月後に最小有意変化以上の変化があれば,有効と考えられます)
 
 
以上長くなりましたが,「知らないと介入できない(そして意外と多く隠れている)」骨粗鬆症についてまとめてみました。
 
それでは。
 
【参考文献】
1.骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン2015年版.骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン作成委員会委員会編.日本骨粗鬆症学会,2015年.
 

2.福井次矢編.ハリソン内科学第5版【電子版】.2018年4月9日.p.2550-.メディカルサイエンスインターナショナル.