救急医 ざわさんのブログ

東京の病院で三次救急をやっています.自分の日常診療の知識のまとめをしたり、論文や本を読んで感想文書いています。日常診療の延長でブログを始めました.ブログの内容の実臨床への応用に関しては責任を負いかねますので,各自の判断でお願いします.内容や記載に誤りや御意見がございましたらコメント頂ければと思います.Twitterもやっています(https://twitter.com/ryo31527)

頭蓋骨骨折と外傷性髄液漏について

あけましておめでとうございます。

今回は、外傷性頭蓋骨骨折の患者さんに髄液漏や気脳症があった場合に、考えることをまとめてみたいと思います。
なかなか定まった見解がなく、脳外科の先生に相談しながら決めることが多いですが実際どうなんだろうと思って調べてみました。

 

内容としては、

①頭蓋骨骨折の分類と外傷性髄液漏の疫学

②外傷性髄液漏における予防的抗菌薬投与の必要性

③外傷性髄液漏の治療・安静度

について述べたいと思います。日本と海外でだいぶ方針が違いそうです。

 

①頭蓋骨骨折の分類と外傷性髄液漏の疫学

まずは、外傷で頭蓋骨骨折があった場合の分類です。以下は、外傷専門診療ガイドライン(1)の表を改変したものです。

 

  軽症 中等症 重症
線状骨折(円蓋部) 骨折線が血管溝と交差しない
静脈洞部を超えない
骨折線が血管溝と交差する
静脈洞部を超える
のいずれかを満たす
 
陥没骨折(円蓋部) 1cm以下の陥没
非開放性
1cm以下の陥没
陥没部が外界と交通しているが髄液漏はない
1cm以上の陥没
開放性(髄液漏+)
静脈洞圧迫による静脈還流障害
のいずれかを満たす
頭蓋底骨折   頭蓋底骨折
※髄液漏の有無は問わない
頭蓋底骨折
大量の鼻出血・耳出血
※穿通外傷はすべて手術適応だが、挫滅の広い銃創は適応にならないこともある

 

ここでのポイントは、

・円蓋部の骨折と頭蓋底の骨折を分けて分類していること

・静脈洞を圧迫する可能性があるか、髄液の漏出が疑われるかで重症度が変わること(ただし、頭蓋底骨折の場合は髄液漏の有無は問わない)

の2点かと思います。

 

つまり、頭部外傷患者さんで骨折があった場合、髄液漏があるかどうかを確認する(耳や鼻から出血は持続していないか、ダブルリングサインは陽性ではないか、画像上、錐体骨骨折を含む側頭骨骨折や篩骨洞・前頭洞を含む前頭蓋底骨折、硬膜下の気脳症はないか…)ことが重要と言えます。

ちなみに、鼻出血や耳出血に関しては綿球をつめるよりはガーゼを当てて吸収させるほうが、逆行性感染を防ぐ意味で良いという文献もありました(3)。

 

ちなみに、今回は詳細は割愛しますが、頭蓋骨骨折単独での手術適応は、重症もしくは開放性の陥没骨折で、整復、硬膜閉鎖、汚染部分のデブリを24-48時間以内に行うことが目標となりそうです(2)

 

 

外傷性髄液漏はの疫学については下記の通りです。

・頭蓋底骨折の12-30%に合併する(2)

・外傷後数日以内に発症し鼻漏は1-3週間、耳漏は5-10日以内に自然停止することが多い(1)

・95%は外傷後3カ月以内に発生する(5)

・自然停止率は80-95%で多くが24-48時間で停止する(2)

・再発性・遅発性の場合は自然治癒は少ない

・髄液漏の7-30%に髄膜炎が発生する(家族にもあらかじめ説明したほうが良い

(1,2)

 

髄液漏の何が問題かというと、本来外界に漏れ出るはずのない髄液が、外界へ出てきてしまっている(=中枢神経感染症のリスク↑↑)ことが問題です。

なので外傷性髄液漏を診る場合には、髄膜炎の発生に注意しながらまずは保存的加療となりそうですね。

 

②外傷性髄液漏における予防的抗菌薬投与の必要性

文献にもよりますが「一定の見解はない」というのが一定の見解のようです。

そのうえで、

・「抗菌薬の予防投与の有効性について定まった見解はなく欧米では使用しない施設が多い」「抗菌薬の予防的投与については議論がある。(中略)さらに耐性菌の原因となり、慎重に行う必要がある」(1,2)のように、具体的な使用に言及しないもの

 

・文献1,2などの議論を踏まえた上で、「当施設では髄液漏の停止が確認されるまでの短期間に限って抗菌薬(髄液移行性を考慮して、セフォタキシムやセフトリアキソン)の投与を行っている」と、予防投与にも積極的であるもの(3)

 

と分かれています。Up to dateでは、頭蓋底骨折の髄液漏(cerebral spinal fluid leak)については脳外科医や感染症医にconsultationしたほうが良いとの記載でした。

 

勿論、この議論は「予防」の話であって、髄膜炎を発症した場合は当然抗菌薬による治療を行います。

そういう意味では、予防的抗菌薬投与を行うかどうかよりも、毎日患者さんを診察し、髄膜炎を発症したらすぐに治療介入できるようにしておくことのほうが重要でしょう。

 

③外傷性髄液漏の治療・安静度

 まずは保存的加療として、

・15-30度の頭部挙上、咳や怒責、鼻かみをさける

・持続的腰椎ドレナージ

を行いますが、1-3週間保存的加療をしても改善がない場合、間欠性、再発性、遅発性の症例、気脳症が進行性に増悪する症例、頭蓋底の変形が著しい症例などは手術が検討されます。(2)

 

色々、調べているとJETECのガイドラインもしくは重症頭部外傷治療・・管理のガイドラインが国内の文献としてはよく参照されているようです。

 

いずれにせよ、頭蓋骨骨折では髄液漏があるかどうか、ある場合は髄膜炎にならないかどうかに注意したほうがよさそうですね。

 

それでは。

 

 

【参考文献】

1.外傷専門診療ガイドライン.日本外傷学会専門診療ガイドライン編集委員会編.一般社団法人日本外傷学会,2014年,p.37-41.
 
2.重症頭部外傷治療・管理のガイドライン第3版.重症頭部外傷治療・管理のガイドライン作成委員会編.医学書院,2016年,p.109.
 
3.救急白熱セミナー頭部外傷実践マニュアル.並木淳著.中外医学社,2014年,p.78.
 
4.William G Heegaard, MD,MPH. Skull fractures in adult. Maria, ed. UpToDate. Waltham, MA: UpToDate Inc. http://www.uptodate.com (Accessed on February 04, 2018.)
 
5.脳神経外科周術期管理のすべて 第4版.松谷正雄ら編.メディカルビュー社,2014年,p.355.