けいれんした小児の初療について
先日、小児のけいれん重責症例で、初療に難渋した症例があったのでまとめてみました。結果的には、他院へ転送になった症例なので、それが「熱性けいれんの重責状態」であったのか「脳炎などによるけいれん重責」だったのか、分かりません。
小児の場合は、熱性けいれんの頻度が高いのですが、熱性けいれんであっても重責していたり、髄膜炎など他の疾患が原因で隠れていたりすることもあるので、注意が必要です。
小児のけいれん重責の初期対応とdispositionに関してガイドラインを中心にまとめてみました。まずは、熱性けいれんの定義と分類を確認し、具体的にけいれん重責状態の患者に対してどうアプローチをしていくか見ていきます。
【熱性けいれんの定義と分類】
・熱性けいれんの定義
主に生後6-60カ月までの乳幼児期に起きる。
通常は38度以上の発熱を伴う発作性疾患で、髄膜炎などの中枢感染症や代謝異常などほかの明らかな発作の原因がみられないもの(てんかんの既往のあるものは除外)
※ただし、発作が5分以上持続した場合は、けいれん重責として治療に踏み切ることが必要。(どんな原因があれ、けいれんが重責している場合はそれを停止させる必要がある)
※熱性けいれんのうち、「発作が15分以上持続」「24時間以内に複数回反復する発作」「部分発作がある」ものは複雑型熱性けいれんと呼ぶ。
※両親いずれかの熱性けいれんの家族歴がある場合、1歳未満の発症、発作時体温が39度以下、発熱から発作までの間隔が1時間以内の場合は再発率が高い。
※血液検査をルーチンに行う必要はないが、全身状態が不良で重症感染症を疑う場合、けいれん後の意識障害が遷延する場合、脱水を疑う所見がある場合は血液検査を行う
※髄液検査をルーチンに行う必要はないが、髄膜刺激症状、30分以上に意識障害、大泉門膨隆などがあれば髄液検査を積極的に行う
※頭部CT/MRI検査をルーチンで行う必要はないが、発達の遅れがある場合や、発作後のマヒがある場合、部分発作の場合、頭部CTやMRIを考慮する。尚、腰椎穿刺前の頭部CTは疑う疾患が細菌性髄膜炎であれば必ずしも必須ではないが、日本のCTの普及率や未知の占拠性病変を考慮すると施行できるなら施行する
(以上、熱性けいれん診療ガイドライン2015より抜粋)
⇒上記を踏まえると、例えば救命センターに運ばれてくるような「けいれんが全然止まらない」というようなお子さんはそもそも、けいれん重責と捉えて治療する必要があります。
また、ガイドラインから単純性熱性けいれんのilness scriptを表現するなら「比較的元気な、6か月~5歳までの発熱した乳幼児に起こる、5分にも満たない、繰り返すことのない全般性のけいれん発作」と捉えることができそうです。
【けいれん重責状態の定義と初期対応】
・けいれん重責の定義
前述しましたが、5分以上けいれんが続く場合はけいれん重責として対応します。
・けいれん重責の初期対応
①搬送時に、けいれん発作が続いている場合はABCDE(+血糖)を確認しながら、
ジアゼパム 0.3-0.5mg/㎏を緩徐に静脈内投与
or
ミダゾラム 0.15mg/㎏を1mg/分の投与速度で静脈内投与(総投与量は0.6㎎/㎏)
を行いますが、けいれんを止めることはもちろん大事なんですが、それ以上に気道が開通していること、換気が十分になされていることを確認しなくてはいけません。
当然、鎮静でも呼吸抑制が起きる可能性はあるので、バックバルブマスクや気道確保の準備はしておきましょう。
ルートが確保できない場合の次善の策としては、ミダゾラム0.2-0.5㎎/㎏の頬粘膜投与や筋肉注射も記載はあります。
②上記対応を行ってもけいれんが消失しない場合
フェノバルビタール 15-20㎎/㎏ 100㎎/分以下で10分以上かけて投与
(半減期は48-72時間)
ホスフェニトイン 22.5㎎/㎏
フェニトイン 15-20㎎/㎏
の投与を検討します。
③ICU入院を必要とする目安
急性脳炎や脳症などにより全身状態が不良の場合
人工呼吸器管理が必要な場合
第2選択薬でけいれんが止まらない場合、止まるまでに1時間以上を要した場合
はICU入院を検討します。ここまで状態が悪ければ、近隣の小児病院への転院搬送なども考慮する必要が出てくるでしょう。
※複数の抗けいれん薬を用いてもけいれんが止まらない場合は、難治性けいれん重責状態(refractory status epilepticus : RSE)、全身麻酔(RSEに対してミダゾラムやバルビツレートによる昏睡療法)を用いても24時間けいれんがコントロールできないけいれん重責を超難治性けいれん重責(super refractory status epilepticus :SRSE)と呼びます。
(以上、小児けいれん重責治療ガイドライン2017より抜粋)
普段成人の対応を中心にしていると、中々「子供のけいれんが止まらない!」という状況には遭遇しないとは思います。
ただ、最悪を想定するという意味では、必要な薬剤の投与量(ミダゾラム、フェノバルビタールなど)、挿管チューブの太さ、バックバルブマスクのサイズについては確認してから初療に望むようにすべきでしょう。
それでは。
【参考文献】