血糖管理の話 インスリン持続静注
お久しぶりです。本日は集中治療室における血糖管理についてです。
重症患者において、なぜ血糖コントロールを必死にやらなければならないのか、文献的背景を踏まえて解説したうえで、実際にどのように血糖コントロールを行うのかまとめてみたいと思います。
そもそも、高血糖が感染防御能の低下や創傷治癒を遅らせる可能性があることは1990年代から指摘されていました。
2001年のNew England Journal of medicine(以下NEJM)で発表されたLeuven Ⅰ trialでは、外科系ICU患者1548名において血糖を80~110㎎/dlに管理するIntensive Insulin Therapy(以下IIT)を行うと、血糖を180~200㎎/dlに管理する群に比較してICU死亡率を下げることが示されました。1)
しかし、その後はIITを行うことで死亡率を改善するエビデンスは示されることはなく、2009年のNEJMに発表されたNICE SUGAR trialで、IITはむしろICU患者では低血糖を増やし、90日死亡率を増加させることが示されています。2)
続く複数のメタアナリシスの結果3,4,5)もあり、血糖コントロールの重要性は認識されつつもIITは行われなくなりました。日本版敗血症診療ガイドラインなどにも記載がありますが、現在の血糖コントロールの目標は144~180㎎/dlとされています。
■血糖コントロールの実際
急性期は血糖の変動が激しい(全身状態が目まぐるしく変化する)ので、インスリンの定時打ちは思わぬ低血糖を招くこともあり慎重に行う必要があります。
まずは、「輸液のブドウ糖5g~10gあたりに即効型インスリンを1単位混注」を行い血糖コントロールができるかを試みます。それでも、高血糖が持続するようであればインスリンの持続静注を行います。
ただし、インスリンの持続静注を行う場合は、頻回に血糖を図る必要がりますのでICU相当の病室に入室するのが良いでしょう。
ヒューマリン®50単位+生理食塩水でトータル50㎖(1単位/㎖の希釈液を作成。)を作成し、下記のような指示を出します。
◆血糖は2時間おきに測定
◆2㎖/hrから投与開始
◆血糖値(mg/㎗)とインスリン投与量
69以下…インスリン中止、40%ブドウ糖を40ml 静注しDrcall
70-109…インスリン中止しDr call
110-139…0.5単位/時間減らす
140-199…そのまま
200-249…0.2単位/時間増やす
250-299…0.4単位/時間増やす
300-349…0.6単位/時間増やす
350-399…0.8単位/時間増やす
400以上…1.0単位/時間増やしDrcall
◆血糖値が109mg/dl以下及び350mg/dl以上の時は上記処置後1時間で血糖値を再検し、再度注入量を調節する。
あくまでも、投与例の一例です。血糖の下がり方には個人差が大きいので、インスリンの持続静注には経験が必要です。
また、インスリン持続静注を開始するとインスリンの作用によりカリウムが低下する場合があります。4-6時間おきにカリウム値はチェックし、低カリウム血症にならないように注意しましょう。
<参考文献>
1)Intensive insulin therapy in the medical ICU.NEJM.2001;345:1359-1367.
2)Intensive versus Conventional Glucose Control in Critically ill Patients.NEJM.2009; 360:1283-1297.
3) Benefits and risks of tight glucose control in critically ill adults.JAMA.2008;300:933-944 .
4) Intensive insulin therapy and mortality among critically ill patients:including NICE-SUGAR study data.CMAJ.2009;180:821-827.
5) Toward understanding tight glycemic control in the ICU : a systematic review and meta-analysis.Chest.2010;137:544-551.
6) 日本版敗血症診療ガイドライン2016(http://www.jaam.jp/html/info/2016/pdf/J-SSCG2016_ver2.pdf)
<推薦図書>
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