肝損傷に関して
今日は、肝損傷に関するまとめです。
以前脾損傷のまとめを作成しましたが、今回は鈍的腹部外傷の中で最も頻度の高い肝損傷についてです。
ポイントとしては、いつも通り肝損傷の分類、治療、合併症の順に整理していきたいと思います。
■肝損傷の分類
日本外傷学会の臓器損傷分類2008とAAST(The American Association for the Surgery of Trauma)の分類があります。脾損傷の時と同じですね。
(日本外傷学会分類2008より引用)
(Injury Scoring Scales - The American Association for the Surgery of Trauma
↑AASTのinjury scalingはこちらから確認できます。)
AASTの分類に関しては、AASTⅠ~ⅢのNOM非完遂率は3~7.5%、Ⅳで14%、Ⅴで23%とgradeⅣを境にNOMの非完遂率が下がりますので、裂傷の深さが肝葉の25%超えてくると重症度が上がる印象ですね。
■治療
損傷形態とvitalが必ずしも一致しないことは臨床でも頻繁に経験します。
治療方針の決定に関しても、JETECやIVR学会の推奨でも同様ですが、
『循環動態が不安定ならダメージコントロール手術、安定していればTAEもしくは保存』が原則となっています。
損傷形態がそれなりに高度でも、NOMの完遂率が高いのでTAEに行きがちではありますが、実際には循環動態がどれくらい安定しているかが重要です。
勿論,ほかの外傷の合併も重要です。
(※北里大学の樫見先生方の文献から図表をお借りしています(https://www.jstage.jst.go.jp/article/jaem/32/7/32_1163/_pdf))
■合併症
①胆管損傷
急性期は出血以外には胆管損傷に伴う胆汁漏の有無が治療上大きなポイントになります。胆汁漏があれば、腹膜炎・胆汁腫に進展する可能性もあります。ただし、あくまでも急性期のマネジメントの主役は出血の制御です。
止血が得られてから胆管損傷の治療に着手します。
胆管損傷の評価に関しては、 DICCTや胆管シンチを考慮します。(胆汁腫についてはエコーでも評価できると思われます)
②短絡路形成
動静脈瘻・動脈門脈瘻、Hemobilia(胆管と動脈の瘻孔)、Bilhemia(胆管と静脈の瘻孔形成)
③肝壊死・肝膿瘍
それぞれの治療に関しては詳細は割愛しますが、出血以外にも合併症の種類が脾損傷に比べると多いですね。
■安静度
遅発性出血はおよそ3%程度で、多くは72時間以内に出現します。
安静期間に関しても一定の見解はなさそうです。
今回は脾損傷と比較しながら、肝損傷についてまとめてみました。
それでは。
【参考文献】
1.日本外傷学会.外傷専門診療ガイドライン.2014年7月2日.p.80-.ヘルス出版.
他.