救急医 ざわさんのブログ

東京の病院で三次救急をやっています.自分の日常診療の知識のまとめをしたり、論文や本を読んで感想文書いています。日常診療の延長でブログを始めました.ブログの内容の実臨床への応用に関しては責任を負いかねますので,各自の判断でお願いします.内容や記載に誤りや御意見がございましたらコメント頂ければと思います.Twitterもやっています(https://twitter.com/ryo31527)

軽症頭部外傷の話

お久しぶりです。本日、救急外来でサッカーの試合中に味方と激突して一過性意識消失を起こした患者さんが受診されました。頭のCTを取るのか、競技への復帰はどうするのか等議論になりましたので、軽症の頭部外傷に関して今回はまとめてみました。

 

基本的には、

①CTを撮影するのか?

②帰宅させるのか?競技への復帰はどうするのか?

がポイントになるかと思います。

 

そもそも軽症の頭部外傷で頭部CTを撮影するのはどんな時か

 

軽症頭部外傷は概ねGCS13~15点の頭部外傷とされることが多いです。

名なclinical prediction ruleとしては the Canadian CT head rule とthe New Orleans criteriaがというものがありますが,Up To Dateにはこれらを統合して下記のようなフロチャートが記載されています。

 

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やはり、高齢であるとか抗凝固内服をしている場合には積極的に頭部CTを撮影しても許容されるようです。院内の転倒などでも気を付けたいですね。

 

■頭部CTがnegativeな場合には脳震盪を考える

脳震盪の定義は、「頭部CTで頭蓋内に異常所見を認めないが、一過性の脳機能障害(意識障害、健忘など)を認める状態」のことで、可逆性であることがポイントになります。脳震盪がある場合、短期間のうちに二度目の受傷をすると重篤化する病態(second impact syndrome)があるため、安易な競技への復帰は避けなくてはなりません。

脳震盪の診断にはSCAT5という診断ツール(http://bjsm.bmj.com/content/bjsports/early/2017/04/26/bjsports-2017-097506SCAT5.full.pdf)がありますが、かなり煩雑な印象です…。

 

脳震盪の病態生理、診断、適切な休養期間などは日進月歩の分野で、現時点で最新のものと思われる脳震盪に関するconsensus statementがBMJから出ているよう(Consensus statement on concussion in sport—the 5th international conference on concussion in sport held in Berlin, October 2016 | British Journal of Sports Medicine)ですが、下記が要点かと思います。(今後詳しく内容を確認して記事にしたいと思います)

 

・80-90%は7-10日で症状は消失する

・脳震盪の診断はSCAT3を用いて行う(日本語訳されたものをネット上で発見しました。http://www.fujiwaraqol.com/concussion/scat3_ja.pdf

・頭痛、一過性の意識消失、反応速度の低下、傾眠、性格変化など様々な症状を呈する

・受傷者を一人にしない。24-48時間の休息は有用(それ以上は不明)

 

 

基本的には、軽症頭部外傷の患者がERを受診し、脳震盪を疑う場合は、その日の競技復帰は控えて、後日チーム内で復帰の時期を確認というのが現実的かと思います。

 

軽症頭部外傷でも、注意するべき点があり、気を付けたいものですね。

それでは。

 

■参考文献

1.Randolph Evans.Concussion and mild traumatic brain injury.In: UpToDate, Post TW (Ed), UpToDate, Waltham, MA. (Accessed on Apr 29, 2015.)

2.McCrory P, Meeuwisse W, Dvorak J, et al. Consensus statement on concussion in sport-the 5th international conference on concussion in sport held in Berlin, October 2016.