虫垂炎の話
御無沙汰しております。本日,虫垂炎に関して研修医の先生と勉強しましたのでその内容を簡単にまとめてみたいと思います。
内容としては,
1.虫垂炎の自然経過
2.虫垂炎の診断とAlvarado scoreについて
3.虫垂炎の治療
の順に述べたいと思います。
1.虫垂炎の自然経過
虫垂炎は一般的に,「右下腹部が痛くなる疾患」のイメージが強いですが,実際には下記のように経時的に症状が変化して行きます。救急外来には「虫垂炎発症間もないタイミング」で受診することが多く,見落としや誤診につながりやすいわけです。
とは言え,虫垂炎は非常にcommonでかつcriticalになり得る疾患ですので,救急外来では確実に診断したいところです。
①心窩部痛・心窩部不快感(発症直後)
②嘔気・嘔吐(発症2-3時間)
③腹部の圧痛(発症12-24時間)
④発熱(発症12-24時間)
⑤白血球の上昇(発症12-24時間)
ほとんどがAbdominal pain→Emesisの順に起こります(APPEと覚えるという先生もいらっしゃいます。オシャレですね)
①②の時点では,炎症は虫垂に限局していて,これらの症状は腸管の自律神経のにより引起こされていると考えられています。
③以降は炎症が壁側腹膜に波及し,いわゆる「腹膜炎」を起こしている状態です。
そのまま症状が続けば,穿孔してしまう可能性もありますので,ともかく「圧痛があるか」「症状はどの順番で出現しているのか」が大切です。
このように発症してどの段階で救急を受診するかによって主訴が変わりますから,虫垂炎の主訴は「右下腹部痛」ばかりではなく「嘔気」だったり「発熱」だったりするわけです。(熱中症の触れ込みで運ばれた高齢者の方が,実は虫垂穿孔からの敗血症だったなんてことも去年の夏にありました…。)
2.虫垂炎の診断とAlvarado scoreについて
虫垂炎の診断は最終的には腹部超音波もしくはCT検査で行われます。
こんな感じで見えるようですが↓↓
実際は,なかなか難しくてCT検査で診断をつけることが日本の場合は多いと思われます。(勿論妊婦や小児の場合は超音波で診断をつける必要が出てくるので必要な技術だとは思います)
ちなみCT検査では,
・虫垂壁厚2mm以上
・糞石の存在
・虫垂周囲の脂肪式濃度の上昇,浸出液,膿瘍
・虫垂のtarget sign
などがあると虫垂炎が示唆されます。
救急外来では,「虫垂炎を疑ったときにCTをとるかどうか」がポイントになるわけです。身体所見としては,psoas sign,obturator signなど色々ありますが,今回はAlvarado scoreについて確認します。別名MANTRLES scoreとも言われ,原著は1986年に外科医のAlvaradoによって提唱され,その後何度か検証されています。
2011年のsystematic reviewでは5点以下で入院の必要な虫垂炎のrule out(感度99%)ができそうという結果でしたが,具体的なスコアを見てみると
心窩部から右下腹部の痛みの移動 1点
食思不振 1点
嘔吐 1点
右下腹部痛 2点
反跳痛 1点
37.3℃以上の発熱 1点
白血球数10000以上 2点
白血球の左方移動 1点
と言った内容で,虫垂炎を疑うようなシチュエーションだと役に立たないですし,虫垂炎の初期は見逃すことになるので,原因不明の腹痛や嘔気の患者さんを帰宅させる場合には,「救急外来では原因は分かりませんでした。痛みが移動したり熱がどんどん上がってくるようならまた受診してください。その時にはおなかのCTも撮りましょう」などと伝えて帰宅させるのが賢明ではないかなと思います。
3.虫垂炎の治療
以前は「虫垂炎はすぐ手術」と言った時期もありましたが,現在は「抗菌薬治療を先行させる」ケースもあります。いつ手術するのか,抗菌薬は何を使用するのかなどハッキリ決まっていない部分もあるので,虫垂炎の診断がついたら外科にコンサルトしましょう。
(抗菌薬投与のコンセンサスは必ずしもありませんが,「軽症ならCMZ,ABPC/SBT,CTRX+CLDM,TAZ/PIPCを術前に1回,壊死性虫垂炎や穿孔,腹膜炎があれば計3~5日間もしくは無熱が2~3日間続くまで投与」と言うのが,青木先生の「感染症診療レジデントマニュアル第3版」やUp to dateからは伺い知れます。
Up to dateの「Management of acute appendicitis in adults」によれば,虫垂炎の状態によって治療選択が変わります。具体的には,
■穿孔していない虫垂炎で手術を躊躇う状況になければ12-24時間以内に手術
■穿孔していない虫垂炎で手術をしない場合は,入院して静注の抗菌薬
■穿孔している虫垂炎の場合は,敗血症であったり自由壁破裂を伴う場合は直ちに手術をして術後3-5日の抗菌薬治療。穿孔していても容態が落ち着いている場合は,静注の抗菌薬治療を(±ドレナージ)を行って,容態が良くならなければ手術
など記載がありますが,要は穿孔の有無や患者本人の容態によってすぐに手術なのか,少し抗菌薬で治療して反応を見るのかが変わるわけですね。
直感的には,「穿孔したら早めに手術をしたほうが良さそう」ですけれど,実際には,癒着や炎症が強い時期に手術を増えると合併症や合併切除,術後の膿瘍などが増える可能性があるため,炎症が落ち着いてから手術介入をすることになります。
また近年,2015年のNEJMのReview(PMID:25970051)や2015年のJAMA(PMID:26080338)などでは,軽症の虫垂炎は手術せずに治療できる可能性も示唆されています。
NEJMのReviewでは,「単純性虫垂炎(妊娠のない若者,糞石や穿孔がない,免疫不全がない)であれば,抗菌薬による保存治療も可能である(※ただし,4.2-7カ月の間に再発,手術となる割合が10~37%)」
JAMAのRCTでは,「単純性虫垂炎(18~60歳,妊婦・授乳中は除く,腹膜炎や重症疾患がる場合は除く)に対して,抗菌薬による治療は非劣性を示せなかった。しかし、抗菌薬治療の患者群は72.7%がその後1年間手術を必要とせず,手術を受けた患者も重篤な合併症はなかった。(使用した抗菌薬は,エルタぺネムを3日間,経口のLVFX+メトロニダゾールを7日間)」
と言った結果が出ていますが,後者はそもそもprimary outcomeで有意差を示せなかった文献ですし,いずれも高齢者などに当てはめて良いか分からないので臨床への適用に関しては慎重に検討する必要があると思います。
少し長くなりましたが,虫垂炎の治療はまだまだ検討すべき事項が多そうです。
それでは。
【参考文献】
亜鉛欠乏の話
国家試験を終えて、研修医を迎える先生方へのメッセージ
こんにちは。今回は、文献や病気の話などではなく、これから初期研修医になる先生方へ向けてのメッセージです。
長々と記事を書きますが、何が一番大事かと言うと「自分の頭で考える」ということに尽きると思います。
①今から考えておいたほうが良いこと
②研修医の間に勉強したほうが良いこと(医学以外)
③研修医の間に勉強したほうが良いこと(医学)
の3つについて述べたいと思います。完全に個人の経験談になりますから、話半分でお願いします。
①今から考えておいたほうが良いこと
「自分の人生にとって何が大切か」を考えておいたほうが良いと思います。
一般的に、初期研修を2年やって、専門医のプログラムに3年のって、研究したり留学したり…ということを考えている方が多いかもしれません。
しかし、実際は皆さんの目の前にはもっと多くの選択肢が現れます。例えば、私自身の周りを見てみると、勿論医者をやっている人が多いですが、美容整形に行ってテレビに出てる人、整形外科医をやりながら会社経営をしている人、医者をやめてトレーダーになった人、精神科医から救命センターの医者になった人、何をやっているか分からないけれど年収1億円ある人、世界一周旅行に出ている人、初期研修医の頃から有名誌に論文を乗せた人、民間向けに色んなイベントを開催している人など、様々です。
勿論、各々が色々な批判や逆風にさらされながら、自分の夢や信念を求めて生きているわけですが、実はいわゆる「既定路線以外のパターン」もたくさん世の中にはあります。
今までは「医学部に合格する」とか、「国家試験に合格する」など、当座の分かりやすい目標(しかも周囲と共有しやすい目標)があったわけですが、これからは個々人の目指すところは全く違ってきます。
つまり、医学生を終える皆さんは、自分にとっての「成功」を自分で定義して、生きていく必要があります。
何も仕事のことだけではなく、どこに住んで、だれと生活を共にして、何を得て、何を捨てるのか自分の感情や価値観で決めなくてはいけないわけです。(正確に言うと、決めなくてはいけないというよりは決められるのでそうしたほうが良いという勧めになりますけど)
なので、漠然と「研修終わったら面白そうな(QOLがよさそうな、やりがいのありそうな)〇〇医になります」と決めてしまうより、もっと皆さんには色々な可能性があることを知ったうえで様々な選択をして欲しいと思います。
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②研修医の間に勉強したほうが良いこと(医学以外)
医学以外に学ぶことといえば、「社会の仕組み」と「他社の多様性」の2点が重要と思われます。もともと医学と言うのはかなりガラパゴス化した分野でありました。
昔の先生の話を聞けば、「病院に寝泊まりしていた」「正月に酒を飲んでいたら呼ばれて、緊急手術をした」「女を捨てて頑張った」「芸をして手技をやらせてもらった」なんて話はポンポン出てくると思います。
しかし、現在の世の中では労働基準法や、パワハラ・セクハラ、高齢化社会を迎えるうえでの医療の在り方、少子化の中での(医師に限らない)働き方やキャリアアップなど様々な議論が展開されています。
国の医療費は切迫し、国際社会情勢は緊迫しています。AIの登場で医療システムそのものは必ず変革されるでしょう。
そんな中で、「医者は仕事をしていれば食いっぱぐれない」と言うのは少し見通しが甘いと思います。
「今世の中はどんなことが問題になっていて、それが自分にどう関わりそうか」、関心を持つことは大切です。医者に限らず、今までの世界での当たり前は、どんどん崩壊していくと私は思っています。変化していく社会の中で医学や医療者は何を求められるのか、見極めたいものです。
「他者の多様性」に関しては、「他人は自分と違う」という、当たり前のことを知っておけば、日々の生活の中で自然と理解できると思います。医学部から病院と言う場へ生活が移れば、パラメディカルの方意外にも、病院に出入りする業者さん、患者さんなどなど様々な背景の人と触れ合いながら生活していくことになります。けっこう医者同士でも背景や価値観が違って、びっくりするかもしれません。
人間と言うのは常に合理的ではなくて、直せる病気の手術を拒んで亡くなる人や、COPDになっても煙草を吸い続けたい人様々です。(これは①で紹介した色んな生き方を選択する人がいるということと同じですね)
そんな異質な人たちと、社会に出た後は議論や折衝をしながら生きていかなくてはならないわけです。
③研修医の間に勉強したほうが良いこと(医学)
さて、いよいよ医学の話ですね(笑)この話題に関してはインターネットでも多く情報があると思うので、具体的には書きませんが、ポイントは「臨床上の疑問を必ず信頼できるソースで確認する」ことだと思います。
Up to dateでもDynamedでも、ガイドラインでもハリソンでも構いませんので、担当患者さんの病状や治療については逐一調べるようにしましょう。
そのうえで、指導医と議論が出来ればよいと思います。(とは言え、最初の最初は何も分からないと思いますので、指導医に「〇〇さんの治療の件で参照すべき文献などありますか」と質問したら良いと思います。)
疾患に対する知識は数年単位でどんどんアップデートされるので、「たくさんの知識を持っている」ことよりも、「分からないことを分からないと認識して、的確な情報源を検索できる」事の方が重要です。
ここでも自分の頭で考えることが重要で、「指導医が言ってたから」「〇〇科目の先生が言っていたから」ということだけで、済ませては実力は身につかないと思います。
項目としては、何科に行くにしても、輸液・感染症・コモンディジーズの対応などは2年間で勉強しておいたほうが良いとは思います。
長々、書きましたが、新しく研修医になる先生方の人生が良きものになればと思います。春休み楽しんでください。
それでは。
頭蓋骨骨折と外傷性髄液漏について
あけましておめでとうございます。
今回は、外傷性頭蓋骨骨折の患者さんに髄液漏や気脳症があった場合に、考えることをまとめてみたいと思います。
なかなか定まった見解がなく、脳外科の先生に相談しながら決めることが多いですが実際どうなんだろうと思って調べてみました。
内容としては、
①頭蓋骨骨折の分類と外傷性髄液漏の疫学
②外傷性髄液漏における予防的抗菌薬投与の必要性
③外傷性髄液漏の治療・安静度
について述べたいと思います。日本と海外でだいぶ方針が違いそうです。
①頭蓋骨骨折の分類と外傷性髄液漏の疫学
まずは、外傷で頭蓋骨骨折があった場合の分類です。以下は、外傷専門診療ガイドライン(1)の表を改変したものです。
軽症 | 中等症 | 重症 | |
線状骨折(円蓋部) | 骨折線が血管溝と交差しない 静脈洞部を超えない |
骨折線が血管溝と交差する 静脈洞部を超える のいずれかを満たす |
|
陥没骨折(円蓋部) | 1cm以下の陥没 非開放性 |
1cm以下の陥没 陥没部が外界と交通しているが髄液漏はない |
1cm以上の陥没 開放性(髄液漏+) 静脈洞圧迫による静脈還流障害 のいずれかを満たす |
頭蓋底骨折 | 頭蓋底骨折 ※髄液漏の有無は問わない |
頭蓋底骨折 大量の鼻出血・耳出血 |
|
※穿通外傷はすべて手術適応だが、挫滅の広い銃創は適応にならないこともある |
ここでのポイントは、
・円蓋部の骨折と頭蓋底の骨折を分けて分類していること
・静脈洞を圧迫する可能性があるか、髄液の漏出が疑われるかで重症度が変わること(ただし、頭蓋底骨折の場合は髄液漏の有無は問わない)
の2点かと思います。
つまり、頭部外傷患者さんで骨折があった場合、髄液漏があるかどうかを確認する(耳や鼻から出血は持続していないか、ダブルリングサインは陽性ではないか、画像上、錐体骨骨折を含む側頭骨骨折や篩骨洞・前頭洞を含む前頭蓋底骨折、硬膜下の気脳症はないか…)ことが重要と言えます。
ちなみに、鼻出血や耳出血に関しては綿球をつめるよりはガーゼを当てて吸収させるほうが、逆行性感染を防ぐ意味で良いという文献もありました(3)。
ちなみに、今回は詳細は割愛しますが、頭蓋骨骨折単独での手術適応は、重症もしくは開放性の陥没骨折で、整復、硬膜閉鎖、汚染部分のデブリを24-48時間以内に行うことが目標となりそうです(2)
外傷性髄液漏はの疫学については下記の通りです。
・頭蓋底骨折の12-30%に合併する(2)
・外傷後数日以内に発症し鼻漏は1-3週間、耳漏は5-10日以内に自然停止することが多い(1)
・95%は外傷後3カ月以内に発生する(5)
・自然停止率は80-95%で多くが24-48時間で停止する(2)
・再発性・遅発性の場合は自然治癒は少ない
・髄液漏の7-30%に髄膜炎が発生する(家族にもあらかじめ説明したほうが良い)
(1,2)
髄液漏の何が問題かというと、本来外界に漏れ出るはずのない髄液が、外界へ出てきてしまっている(=中枢神経感染症のリスク↑↑)ことが問題です。
なので外傷性髄液漏を診る場合には、髄膜炎の発生に注意しながらまずは保存的加療となりそうですね。
②外傷性髄液漏における予防的抗菌薬投与の必要性
文献にもよりますが「一定の見解はない」というのが一定の見解のようです。
そのうえで、
・「抗菌薬の予防投与の有効性について定まった見解はなく欧米では使用しない施設が多い」「抗菌薬の予防的投与については議論がある。(中略)さらに耐性菌の原因となり、慎重に行う必要がある」(1,2)のように、具体的な使用に言及しないもの
・文献1,2などの議論を踏まえた上で、「当施設では髄液漏の停止が確認されるまでの短期間に限って抗菌薬(髄液移行性を考慮して、セフォタキシムやセフトリアキソン)の投与を行っている」と、予防投与にも積極的であるもの(3)
と分かれています。Up to dateでは、頭蓋底骨折の髄液漏(cerebral spinal fluid leak)については脳外科医や感染症医にconsultationしたほうが良いとの記載でした。
勿論、この議論は「予防」の話であって、髄膜炎を発症した場合は当然抗菌薬による治療を行います。
そういう意味では、予防的抗菌薬投与を行うかどうかよりも、毎日患者さんを診察し、髄膜炎を発症したらすぐに治療介入できるようにしておくことのほうが重要でしょう。
③外傷性髄液漏の治療・安静度
まずは保存的加療として、
・15-30度の頭部挙上、咳や怒責、鼻かみをさける
・持続的腰椎ドレナージ
を行いますが、1-3週間保存的加療をしても改善がない場合、間欠性、再発性、遅発性の症例、気脳症が進行性に増悪する症例、頭蓋底の変形が著しい症例などは手術が検討されます。(2)
色々、調べているとJETECのガイドラインもしくは重症頭部外傷治療・・管理のガイドラインが国内の文献としてはよく参照されているようです。
いずれにせよ、頭蓋骨骨折では髄液漏があるかどうか、ある場合は髄膜炎にならないかどうかに注意したほうがよさそうですね。
それでは。
【参考文献】
【勉強会メモ】第2回JSEPTIC-CTG 「Journal clubをやってみよう!RCT編」に参加してきました
こんにちは。今回から、参加した勉強会の内容について自分の復習がてらまとめていきたいと思います。
2017年12月9日、JSEPTIC-CTG主催の勉強会に行ってきました。
内容としてはタイトルの通りで、「RCTの批判的吟味」を、あらかじめ出されたお題(今回は2017年JAMA誌に掲載された、低血圧を伴う敗血症患者の蘇生プロトコールに対する研究)について読んだ状態で、当日講義とグループワークを繰り返すというものでした。
集中治療医の先生が中心でしたが、総合内科系の先生もいらっしゃいました。
老若男女、若手ベテラン入り混じってのグループワークで楽しかったです。
JSEPTIC-CTGそのものが、集中治療域における臨床研究を推進しようとするグループと言うこともあって、実際の講義や配布資料ではかなり細かくRCTの読み方について述べられていました。(自分自身、最近感じることですが、臨床研究をするということは先行研究を分析する作業が必要ですので、当然論文読解も緻密に行わなければいけません)
今回は、
1.全体を通してのポイント
2.RCTの読み方のポイント(講義から抜粋)
3.講義を踏まえての感想
の順に記載したいと思います。
1.全体を通してのポイント
・臨床研究は交絡とバイアスとの闘い
・Methodsを細かく読むことでどれくらい交絡とバイアスが取り除けているか吟味する
・Journal Clubは「論文を批判的に吟味して日々の臨床に適用する」ことを目的としている。
・RCTの場合はCONSORT2010に基づいて作成される
・RCTは対象者が限定されすぎている場合、患者にとっての有用性が低い場合、研究デザインに不備がある場合(とくに脱落が多い場合)は結果が弱まる
2.RCTの読み方のポイント(講義から抜粋)
①Introductionを読む
・なぜこの研究をやったか?を読み取る。
→今まで分かっていること、分かっていないことの2点を踏まえた上で(この2つの差をKnowledge gapと呼ぶ)、この研究の目的と仮説を述べている部分を読み取る。
・この研究は誰にとっての研究かを読み取る。
→患者?医療者?行政?経営者?政府?(=Relevant?)
②Methodsを読む(ここがキモ!)
・論文のPICOを確認する
P→RCTは母集団からサンプルを抽出して解析するので、実際に研究した人々がもともとの仮説の母集団を反映しているのかが大事(例えば、そもそもアフリカの低血圧を伴う敗血症患者を対象としたつもりが、ザンビアの単施設の数百人というのが良いPatientかというのは注意が必要)。
I/C→適切な比較になっているか、客観的な比較か、介入は現実的か、それ以外の治療介入はどうなっているか(appendixなど参照しないと分からない)
O→Outcomeにもたくさん種類がある。今回の場合はPrimary outcomeが死亡率というhard outcome(客観的なoutcome、対義語はsoft outcome)かつsingle outcomeなので評価しやすい。
※論文の結果を仮説に応用できるかどうかを「外的妥当性」、論文がバイアスや交絡を十分にとりのぞけているかを「内的妥当性」と言う。
・デザインを確認する
→RCTは交絡の調整はできる(つまり内的妥当性は高い)が、PICOが厳密に決まるので外的妥当性が低い場合があるので注意する。
→ランダム化、コンシールメント(割付の過程が伏せられているかどうか)、マスキングがされているかどうかを確認する。マスキングは患者、介入者、データ観察者、アウトカム解析者、データ解析者の誰にされているかまで確認する。
・統計解析を確認する
→色々あるけど最大のポイントは「サンプルサイズの計算が妥当かどうか」。
αエラーとβエラーをどの程度に想定し(それぞれ5%、10-20%程度が妥当)、あらかじめイベント発生率をどのように見積もっているのか、そして実際の非介入群での結果はどのようになっているのかを確認する。(例えば今回はサンプルサイズを決める段階で、先行研究を参考にし、60%の死亡率を予想していたが、実際には非介入群では30%だった。解析した結果有意差がなければ、「本当に有意差がないのか」それとも「サンプルサイズの決定が間違っていたのか」分からない)
※αエラーは「実際には差がないものを差があると言ってしまうこと」、βエラーは「実際には差があるものを差がないと言ってしまうこと」
→解析はITT解析が最も理想的ではあるが、おおくはmITT解析となっていることが多い(mITTの定義は曖昧なので、実際どんな解析になっているかは注意)
※ITT解析はIntention to treat解析のことで、ランダマイズされたデータすべてを解析対象にすること。すべてを解析対象として、しかも割り付けられた群として解析することで、RCTの最大の強みである内的妥当性を担保しようという意味がある。
③Resultsを読む
・結果の信用性を確認する
→RCTの場合、脱落が多いものには注意が必要。プロトコールの離脱率やアドヒアランスを確認する(脱落の目安としては20%未満が理想)
・どんな患者に適用できるのかを確認する
・効果だけではなく治療のAdverse Eventについても確認する
・結果のRR、RRR、RD、ARR、NNTを計算する
※http://www.igaku-shoin.co.jp/nwsppr/n1997dir/n2248dir/n2248_11.htmなど参照。
④Discussionを読む
・①~③ができていれば流し読みでも良い。
→基本的には筆者の意見のまとめ、妥当性に対する主張、結果と既存研究との比較、だれにとって有用であると筆者が考えているか(implication)、研究のlimitationについて述べられている。
3.講義を踏まえての感想
参加された皆さん、講師陣ともにレベルが高くて勉強になりました。自施設以外の先生と触れ合うと毎度「世の中広いな」と痛感します。
RCTの読み方もブラッシュアップされたと思いますし、EBMやJournal clubというものと、日常の診療に関してより具体的に考えるきっかけになりました。
どういうことかと言うと、「論文を批判的に吟味すること」「知識のブラッシュアップをすること」「日常臨床の意思決定に文献を用いること」の3つのバランスは常に考えなきゃいけないなということです。
「論文を批判的に吟味すること」は臨床研究を行ったり、日々のプラクティスを大きく変える際には必要になりますが、時間がかかります。可能な限り行うべきだと思いますが、時間がいくらあっても足りないので、ある程度対象となる文研の取捨選択はひつようになるでしょう。(そういう意味でも、批判的吟味の能力そのものは高く持っていたほうが良さそうです)
「知識のブラッシュアップをする」場合には、いわゆるReviewや、成書、ガイドラインなどの二次文献を活用したほうが効率が良さそうです。自分の研鑽のためにこういった文献にあたる習慣をどのように身に着けていくかは自分自身にとっても課題です。
「日常臨床の意思決定に文献を用いること」については、Up to dateのような効率の良い二次資料を用いることが必要になりますが、おそらくこれだけだと、知識の自転車操業と言うかその日ぐらしになってしまうので、前述した「論文の批判的吟味」や「知識のブラッシュアップ」も欠かせません。
医師に(そして仕事だけに)限りませんが、「今現在自分が何のために時間を使っていて、それが効率の良いことなのか」と言うのは常々意識しないといけませんね。
長くなりましたが、以上です。
それでは。
アドレナリンとβblocker、抗精神病薬など(グルカゴン、アドレナリン作用の反転)
大動脈弁狭窄症の話
お久しぶりです。現在、外病院に出向中です。たまたまその病院で径カテーテル大動脈弁留置術(Transcatheter aortic valve implantation; 以下TAVI)を見学しました。
集中治療管理において大動脈弁狭窄症(Aortic stenosis; 以下AS)があると苦戦しますが、その症例ではsevere ASが30分程度でmild ASになっていました。技術の進歩ってすごいですね。
今日は、良く出会う大動脈弁狭窄症に関するまとめです。
1.大動脈弁狭窄症の概論
2.大動脈弁狭窄症の重症度
3.大動脈弁狭窄症の治療
の順にお話ししたいと思います。
1.大動脈弁狭窄症の概論
(以上、ハリソン内科学第4版、p.1686から一部引用)
2.大動脈弁狭窄症の重症度
大動脈弁狭窄症の重症度は経胸壁心臓超音波で評価します。
まずは、左室肥大および大動脈径の拡大がないかをチェックします。そのうえで、ASの原因が先天性か、リウマチ性か動脈硬化性を判断します。
重症度評価に関しては以下のように複数の指標で評価を行います。
(日本循環器学会.弁膜疾患の非薬物治療に関するガイドライン(2012年改訂版).p19から引用)
※心尖部左室長軸像で、CWを用いて大動脈弁圧格差測定を行うと、最高血流速度と収縮期平均圧格差を測定することができます。AVA(弁口面積)はトレース法とLVOT径、LVOT-VTIを用いて計算する方法があります。
3.大動脈弁狭窄症の治療方針
基本的には、無症状のASはその程度に関わらず予後は健常群と変わらないため、軽度であれば内科的に1-2年毎に経過観察となります。ただし、severe ASの場合は2年以内の心事故率が高いため3-6カ月おきに外来で心臓超音波を含めて経過観察する必要があります。
この症状がよく問診しないと聞き漏らすことがあるので注意が必要です。
TAVIの適応については、http://tavi-web.com/professionals/indication/index.html#を参照してください。ポイントとしては、透析患者や感染性心内膜炎の患者は適応がないことと、あくまでもAVRのリスクが高い患者が対象になっている点であると考えます。
(BAVに関してはかなり状態が悪い場合でも適応あるんだな…というのが正直な感想です)
とても簡単ですが、日常よく見る大動脈弁狭窄症に関してまとめました。
心臓超音波や聴診で「ASがありそう」と思ったら、循環器内科に相談もしくは自分でmean PGくらいは測定しても良いかもしれません(そのうえで重症度が高ければ循環器内科にフォローをお願いする…と)
いずれにせよ、偶発的に見つかったASなのか、症状があって見つかってのASなのかでだいぶ違いますので外来をやる場合には要注意ですね。
それでは。