アドレナリンとβblocker、抗精神病薬など(グルカゴン、アドレナリン作用の反転)
大動脈弁狭窄症の話
お久しぶりです。現在、外病院に出向中です。たまたまその病院で径カテーテル大動脈弁留置術(Transcatheter aortic valve implantation; 以下TAVI)を見学しました。
集中治療管理において大動脈弁狭窄症(Aortic stenosis; 以下AS)があると苦戦しますが、その症例ではsevere ASが30分程度でmild ASになっていました。技術の進歩ってすごいですね。
今日は、良く出会う大動脈弁狭窄症に関するまとめです。
1.大動脈弁狭窄症の概論
2.大動脈弁狭窄症の重症度
3.大動脈弁狭窄症の治療
の順にお話ししたいと思います。
1.大動脈弁狭窄症の概論
(以上、ハリソン内科学第4版、p.1686から一部引用)
2.大動脈弁狭窄症の重症度
大動脈弁狭窄症の重症度は経胸壁心臓超音波で評価します。
まずは、左室肥大および大動脈径の拡大がないかをチェックします。そのうえで、ASの原因が先天性か、リウマチ性か動脈硬化性を判断します。
重症度評価に関しては以下のように複数の指標で評価を行います。
(日本循環器学会.弁膜疾患の非薬物治療に関するガイドライン(2012年改訂版).p19から引用)
※心尖部左室長軸像で、CWを用いて大動脈弁圧格差測定を行うと、最高血流速度と収縮期平均圧格差を測定することができます。AVA(弁口面積)はトレース法とLVOT径、LVOT-VTIを用いて計算する方法があります。
3.大動脈弁狭窄症の治療方針
基本的には、無症状のASはその程度に関わらず予後は健常群と変わらないため、軽度であれば内科的に1-2年毎に経過観察となります。ただし、severe ASの場合は2年以内の心事故率が高いため3-6カ月おきに外来で心臓超音波を含めて経過観察する必要があります。
この症状がよく問診しないと聞き漏らすことがあるので注意が必要です。
TAVIの適応については、http://tavi-web.com/professionals/indication/index.html#を参照してください。ポイントとしては、透析患者や感染性心内膜炎の患者は適応がないことと、あくまでもAVRのリスクが高い患者が対象になっている点であると考えます。
(BAVに関してはかなり状態が悪い場合でも適応あるんだな…というのが正直な感想です)
とても簡単ですが、日常よく見る大動脈弁狭窄症に関してまとめました。
心臓超音波や聴診で「ASがありそう」と思ったら、循環器内科に相談もしくは自分でmean PGくらいは測定しても良いかもしれません(そのうえで重症度が高ければ循環器内科にフォローをお願いする…と)
いずれにせよ、偶発的に見つかったASなのか、症状があって見つかってのASなのかでだいぶ違いますので外来をやる場合には要注意ですね。
それでは。
けいれんした小児の初療について
先日、小児のけいれん重責症例で、初療に難渋した症例があったのでまとめてみました。結果的には、他院へ転送になった症例なので、それが「熱性けいれんの重責状態」であったのか「脳炎などによるけいれん重責」だったのか、分かりません。
小児の場合は、熱性けいれんの頻度が高いのですが、熱性けいれんであっても重責していたり、髄膜炎など他の疾患が原因で隠れていたりすることもあるので、注意が必要です。
小児のけいれん重責の初期対応とdispositionに関してガイドラインを中心にまとめてみました。まずは、熱性けいれんの定義と分類を確認し、具体的にけいれん重責状態の患者に対してどうアプローチをしていくか見ていきます。
【熱性けいれんの定義と分類】
・熱性けいれんの定義
主に生後6-60カ月までの乳幼児期に起きる。
通常は38度以上の発熱を伴う発作性疾患で、髄膜炎などの中枢感染症や代謝異常などほかの明らかな発作の原因がみられないもの(てんかんの既往のあるものは除外)
※ただし、発作が5分以上持続した場合は、けいれん重責として治療に踏み切ることが必要。(どんな原因があれ、けいれんが重責している場合はそれを停止させる必要がある)
※熱性けいれんのうち、「発作が15分以上持続」「24時間以内に複数回反復する発作」「部分発作がある」ものは複雑型熱性けいれんと呼ぶ。
※両親いずれかの熱性けいれんの家族歴がある場合、1歳未満の発症、発作時体温が39度以下、発熱から発作までの間隔が1時間以内の場合は再発率が高い。
※血液検査をルーチンに行う必要はないが、全身状態が不良で重症感染症を疑う場合、けいれん後の意識障害が遷延する場合、脱水を疑う所見がある場合は血液検査を行う
※髄液検査をルーチンに行う必要はないが、髄膜刺激症状、30分以上に意識障害、大泉門膨隆などがあれば髄液検査を積極的に行う
※頭部CT/MRI検査をルーチンで行う必要はないが、発達の遅れがある場合や、発作後のマヒがある場合、部分発作の場合、頭部CTやMRIを考慮する。尚、腰椎穿刺前の頭部CTは疑う疾患が細菌性髄膜炎であれば必ずしも必須ではないが、日本のCTの普及率や未知の占拠性病変を考慮すると施行できるなら施行する
(以上、熱性けいれん診療ガイドライン2015より抜粋)
⇒上記を踏まえると、例えば救命センターに運ばれてくるような「けいれんが全然止まらない」というようなお子さんはそもそも、けいれん重責と捉えて治療する必要があります。
また、ガイドラインから単純性熱性けいれんのilness scriptを表現するなら「比較的元気な、6か月~5歳までの発熱した乳幼児に起こる、5分にも満たない、繰り返すことのない全般性のけいれん発作」と捉えることができそうです。
【けいれん重責状態の定義と初期対応】
・けいれん重責の定義
前述しましたが、5分以上けいれんが続く場合はけいれん重責として対応します。
・けいれん重責の初期対応
①搬送時に、けいれん発作が続いている場合はABCDE(+血糖)を確認しながら、
ジアゼパム 0.3-0.5mg/㎏を緩徐に静脈内投与
or
ミダゾラム 0.15mg/㎏を1mg/分の投与速度で静脈内投与(総投与量は0.6㎎/㎏)
を行いますが、けいれんを止めることはもちろん大事なんですが、それ以上に気道が開通していること、換気が十分になされていることを確認しなくてはいけません。
当然、鎮静でも呼吸抑制が起きる可能性はあるので、バックバルブマスクや気道確保の準備はしておきましょう。
ルートが確保できない場合の次善の策としては、ミダゾラム0.2-0.5㎎/㎏の頬粘膜投与や筋肉注射も記載はあります。
②上記対応を行ってもけいれんが消失しない場合
フェノバルビタール 15-20㎎/㎏ 100㎎/分以下で10分以上かけて投与
(半減期は48-72時間)
ホスフェニトイン 22.5㎎/㎏
フェニトイン 15-20㎎/㎏
の投与を検討します。
③ICU入院を必要とする目安
急性脳炎や脳症などにより全身状態が不良の場合
人工呼吸器管理が必要な場合
第2選択薬でけいれんが止まらない場合、止まるまでに1時間以上を要した場合
はICU入院を検討します。ここまで状態が悪ければ、近隣の小児病院への転院搬送なども考慮する必要が出てくるでしょう。
※複数の抗けいれん薬を用いてもけいれんが止まらない場合は、難治性けいれん重責状態(refractory status epilepticus : RSE)、全身麻酔(RSEに対してミダゾラムやバルビツレートによる昏睡療法)を用いても24時間けいれんがコントロールできないけいれん重責を超難治性けいれん重責(super refractory status epilepticus :SRSE)と呼びます。
(以上、小児けいれん重責治療ガイドライン2017より抜粋)
普段成人の対応を中心にしていると、中々「子供のけいれんが止まらない!」という状況には遭遇しないとは思います。
ただ、最悪を想定するという意味では、必要な薬剤の投与量(ミダゾラム、フェノバルビタールなど)、挿管チューブの太さ、バックバルブマスクのサイズについては確認してから初療に望むようにすべきでしょう。
それでは。
【参考文献】
血糖管理の話 インスリン持続静注
お久しぶりです。本日は集中治療室における血糖管理についてです。
重症患者において、なぜ血糖コントロールを必死にやらなければならないのか、文献的背景を踏まえて解説したうえで、実際にどのように血糖コントロールを行うのかまとめてみたいと思います。
そもそも、高血糖が感染防御能の低下や創傷治癒を遅らせる可能性があることは1990年代から指摘されていました。
2001年のNew England Journal of medicine(以下NEJM)で発表されたLeuven Ⅰ trialでは、外科系ICU患者1548名において血糖を80~110㎎/dlに管理するIntensive Insulin Therapy(以下IIT)を行うと、血糖を180~200㎎/dlに管理する群に比較してICU死亡率を下げることが示されました。1)
しかし、その後はIITを行うことで死亡率を改善するエビデンスは示されることはなく、2009年のNEJMに発表されたNICE SUGAR trialで、IITはむしろICU患者では低血糖を増やし、90日死亡率を増加させることが示されています。2)
続く複数のメタアナリシスの結果3,4,5)もあり、血糖コントロールの重要性は認識されつつもIITは行われなくなりました。日本版敗血症診療ガイドラインなどにも記載がありますが、現在の血糖コントロールの目標は144~180㎎/dlとされています。
■血糖コントロールの実際
急性期は血糖の変動が激しい(全身状態が目まぐるしく変化する)ので、インスリンの定時打ちは思わぬ低血糖を招くこともあり慎重に行う必要があります。
まずは、「輸液のブドウ糖5g~10gあたりに即効型インスリンを1単位混注」を行い血糖コントロールができるかを試みます。それでも、高血糖が持続するようであればインスリンの持続静注を行います。
ただし、インスリンの持続静注を行う場合は、頻回に血糖を図る必要がりますのでICU相当の病室に入室するのが良いでしょう。
ヒューマリン®50単位+生理食塩水でトータル50㎖(1単位/㎖の希釈液を作成。)を作成し、下記のような指示を出します。
◆血糖は2時間おきに測定
◆2㎖/hrから投与開始
◆血糖値(mg/㎗)とインスリン投与量
69以下…インスリン中止、40%ブドウ糖を40ml 静注しDrcall
70-109…インスリン中止しDr call
110-139…0.5単位/時間減らす
140-199…そのまま
200-249…0.2単位/時間増やす
250-299…0.4単位/時間増やす
300-349…0.6単位/時間増やす
350-399…0.8単位/時間増やす
400以上…1.0単位/時間増やしDrcall
◆血糖値が109mg/dl以下及び350mg/dl以上の時は上記処置後1時間で血糖値を再検し、再度注入量を調節する。
あくまでも、投与例の一例です。血糖の下がり方には個人差が大きいので、インスリンの持続静注には経験が必要です。
また、インスリン持続静注を開始するとインスリンの作用によりカリウムが低下する場合があります。4-6時間おきにカリウム値はチェックし、低カリウム血症にならないように注意しましょう。
<参考文献>
1)Intensive insulin therapy in the medical ICU.NEJM.2001;345:1359-1367.
2)Intensive versus Conventional Glucose Control in Critically ill Patients.NEJM.2009; 360:1283-1297.
3) Benefits and risks of tight glucose control in critically ill adults.JAMA.2008;300:933-944 .
4) Intensive insulin therapy and mortality among critically ill patients:including NICE-SUGAR study data.CMAJ.2009;180:821-827.
5) Toward understanding tight glycemic control in the ICU : a systematic review and meta-analysis.Chest.2010;137:544-551.
6) 日本版敗血症診療ガイドライン2016(http://www.jaam.jp/html/info/2016/pdf/J-SSCG2016_ver2.pdf)
<推薦図書>
集中治療に関する疑問をエビデンスに基づいて解説。記事も筆者の先生方の語り調で楽しく読めます。
レジデントノート 2013年7月号 Vol.15 No.6 入院患者の血糖コントロール〜周術期やICU,ステロイド使用,感染症などさまざまなケースに応じた管理のコツ
- 作者: 田中祐司
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- 発売日: 2013/06/11
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血糖コントロール全般に関して分かりやすくまとまっています。
代謝性アルカローシスの話
本日は病棟ではよく見るけれど、なかなか理解の進まない「代謝性アルカローシス」の話です。
代謝性アルカローシスの理解をするうえで、
1、腎臓における重炭酸イオン調節の(簡単な)生理学
2、代表的な代謝性アルカローシスの原因とその病態生理
3、実際にどのように診断と治療に取り組めばよいのか?(尿中クロールを利用する)
の順番に考えてみると理解がしやすいと思います。
ある程度、勉強されている方だと、尿中Clで分類するというのはご存知かと思いますが、病態生理としてオーバーラップする部分も多く、尿中Clだけだとなかなか判断ができない場合もあるので、尿中Clはあくまでも治療方針の決定の際に参考にして頂ければと思います。
【腎臓におけるHCO3-調節の生理学】
重炭酸の再吸収は90%が近位尿細管で残りの10%が集合管で行われています。
集合管は普段、HCO3-を再吸収する際はHとHCO3-を交換してHCO3-を再吸収していますが、。血中の重炭酸イオンが多い状態になるとペンドリンと言う塩素重炭酸交換タンパクがCl-と交換して尿中にHCO3-を排出するようになります。
⇒Cl-とHCO3-(どっちも陰イオン)を交換してHCO3-を排泄しているのがポイントです。尿中にCl-があってなおかつペンドリンがきちんと働くことでHCO3-が排泄されるというのがポイントです。
【代表的な代謝性アルカローシスの原因とその病態生理】
当たり前だけど、重炭酸イオンをただ負荷するだけでは、一過性にアルカローシスにはなりますが、その状態が維持されることはありません。持続する場合、それなりの理由があるわけですね。
①塩素欠乏
これが最も多い、というか代謝性アルカローシスに対して強烈に作用する原因です。
塩素が足りなくなれば、当然遠位尿細管にたどり着くClは少なくなる。そうすると…
・尿細管へのCl-とH+の排泄が増える。H+の排泄が増えることでHCO3-の再吸収が増える
・Clが欠乏するとペンドリンの活性が落ちるので、HCO3-は排泄されなくなる
といったことが起きて、いつまで経っても代謝性アルカローシスが改善しなくなります。
②K欠乏(Mg欠乏)
K+とH+は互いを補い合うような挙動を示すのは皆さんご存知かと思います。
なので、K+が減る ⇒ その分細胞内からKがシフト、その代わり細胞内にH+が取り込まれる⇒H+が相対的に減るため代謝性アルカローシスになります。
Mgは、日本の場合、イオン化Mgが測定できないので採血でMgが正常値でも欠乏している場合があります。
③ミネラルコルチコイド過剰
代表的なミネラルコルチコイドはアルドステロンですね。
アルドステロンが、遠位ネフロンでのHCO3-再吸収を促進することで起こります。
※アルドステロンは、Naの再吸収とKの排泄を行い、血圧上昇および低K血症を引き起こす。ちなみに、脱水になることで腎血流が減るとRAAが賦活化されるので、結果的にアルドステロン分泌が亢進するため代謝性アルカローシスとなります。
④胃酸の喪失
胃酸はHとCl、少々のKが含まれているので、これが失われると、塩素欠乏・低K血症・H+の喪失を起こすため代謝性アルカローシスとなります。①と②の合わせ技ですね。
⑤利尿薬
ループ利尿薬は尿中にNa,K,Clを排泄するので代謝性アルカローシスの原因になります。
利尿薬投与による代謝性アルカローシスの難しいところは、「Cl-欠乏を伴っているかもしれない(そうではないかもしれない。そして尿中Clだけでは判断できない)」ので、利尿薬投与が代謝性アルカローシスの原因となっている場合、K+だけでなく、Cl-補充が必要になる場合があります。
⑥大量輸血や重炭酸ナトリウムの投与
もちろん一過性の代謝性アルカローシスの原因になりますが、腎臓からの排泄が保たれていれば徐々に改善します。
【実際にどのように診断と治療に取り組めばよいのか?】
患者の置かれている状況からある程度、原因を推測したうえで尿中Clを測定します。
全ての検査においてそうですが、検査前確率をある程度見積もってから尿中Clを提出しなければ、正しい診断が難しくなります。
尿中Clが20未満に低下していれば、Cl反応性の代謝性アルカローシス(つまり塩素欠乏がある)なので、生理食塩水の投与や、塩化カリウム・マグネシウムの補充を行います。尿中Clが20を超えていれば、Cl抵抗性の代謝性アルカローシスなので、
アルドステロン症、Barter症候群、(利尿薬)、Cushing(ステロイド使用)、MgやKの欠乏を鑑別に挙げ、アセタゾラミドの投与も考慮します。
本日は以上です。
【参考文献】
ちなみに、参考図書などに関する質問も結構受けるのでお勧めのものを紹介しておきます。
↑研修医の先生やJNPさん向けです。ビジュアル的に見やすくて、なおかつ程よくマニアックな部分は省いてありますので苦手意識がある人向け、もしくは最低限以上のことは勉強したくない人向けです。
↑少し古い本ですが、かなり詳しく書いてあります。研修医の頃から繰り返し読んでますがなかなかすべてを理解できません。上級者向けだと思います。いつになっても新しい発見がある本です。
【1人抄読会】分娩後の大量出血にトラネキサム酸が有効
今回は、少し前にLancetで発表された
“Effect of early tranexamic acid administration on mortality, hysterectomy, and other morbidities in women with post-partum haemorrhage (WOMAN): an international, randomised, double-blind, placebo-controlled trial”
を取り上げます。
論文の要旨としては、
『分娩後の大量出血にトラネキサム酸1g(30分後に出血が持続していたり、24時間以内に再出血した場合にはもう1g追加投与)をすると死亡率が減る(NNT=250)』
と言ったものです。通称WOMAN trialですね。
まず、論文そのものを読む前に、簡単に分娩後大量出血について整理します。
産科危機的出血への対応ガイドラインを参照してみると、
文献によってまちまちですが、一般的には経膣分娩では出血量は500-800㎖程度が平均的な量のようです。
分娩後大量出血の対応としては下記のようなフローチャートが作成されています。
ショックインデックスが採用されています。
分娩前にリスク評価し、リスクが高い場合は高次施設での分娩が推奨されています。
独自のDICスコアが導入されているのも特徴ですね。
トラネキサム酸については特に言及されていません。
実際に、WOMAN trialについて見てみると…
【Summury】
分娩後出血は周産期死亡の大きな原因である。
外傷ではトラネキサム酸投与が死亡率を改善することがすでに示されている(CRASH2 trial)が、分娩後出血に有効であるかどうかを確かめたい。
二重盲検RCTでトラネキサム酸vsプラセボの試験。
経膣および帝王切開で出産され、分娩後の出血が問題になった女性を対象にしている
(193病院、21ヵ国、2010年3月-2016年4月までで20060人の女性が参加している)
1gのトラネキサム酸かプラセボを投与した後に、30分後も出血が続いている場合、もしくは24時間以内に再出血した場合に1gを投与する。
トラネキサム酸群とプラセボを比較したときに死亡率は有意差(1.5%vs1.9% P=0.045 RR0.81)があったが、子宮摘出術の頻度に差はなく、有害事象もとくになかった。3時間以内に投与された群で成績が良かった。
【Introduction】
CRASH2trial(外傷に対する早期トラネキサム酸投与が死亡率軽減に有効であるということを示したRCT)を参考にしている。今までにこのテーマでRCTが行われたことはない。WHOのガイドラインのトラネキサム酸投与を支持する結果となった。
出産後500㎖以上の出血を分娩後出血と定義した。
年間10万人の妊産婦が産後出血で死亡しており、その99%が貧困国でのもの。
【Methods】
・倫理的には特に問題なし
・RCT 二重盲検
・プラセボは生理食塩水
・臨床的に経膣で500㎖、帝王切開で1000㎖の出血があれば産後出血と判断
・1gのトラネキサム酸を(100㎎/㎖製剤)を1㎖/minで投与(およそ10分)
30分後も続いてたり、24時間後の再出血したら1g追加
・Primary Endpointはランダム化されてから42日間のあらゆる死亡
・Secondary outcomeは死因別死亡率、塞栓イベント、外科的介入、臓器障害の合併、その他有害事象
・統計的には当初は15000人で90%の検出力を確保する予定だったが、実際には子宮摘出は産後すぐに判断される(ランダム化と同時に行われる)ことが多かったので20000人まで参加者を増やした
・患者背景ごとにも解析(産後からランダム化までの時間、経膣か帝王切開か、出血の原因は何か)
・ITT解析
【Results】
・出血による死亡が72%
・出血による死亡が最も如実に有意差がついた
・塞栓や臓器障害、敗血症などによる死亡は変わらず
・3時間を超えてトラネキサム酸が投与された群では死亡率の低下はなかった
・子宮摘出術はランダム化されてから24時間以内に全体の86%に対し行われていた
・トラネキサム酸は子宮摘出の頻度は減らさなかった
・1080名の死亡があったが、そのうち371(34%)は子宮摘出を行わずに死亡し、112名(10%)は子宮摘出後に死亡し、597名(55%)は子宮摘出後に生存していた。
【Discussion】
①追跡率も良いのでbiasはかかりづらいだろう
②サンプルサイズの変化があった
③出血以外の死亡率も減らすのかさらなる試験も必要になる
④止血のための開腹術は主に、再開腹で行われていて、これはトラネキサム酸が奏功して頻度が減ったんだろう
⑤CRASHでも明らかだったが、3時間以上たつとトラネキサム酸の効果は失われる
⑥本試験では経静脈的なトラネキサム酸投与が用いられたが貧困国では家とか点滴のないとこでの出産による死亡が問題になっている
【私見】
かなり大きなStudyで、有意差はつきましたがNNTは250(計算あってるでしょうか?)と、ちょっと大きめのようです。CRASH2は119。
日本の妊産婦死亡率は2015年のデータでは10万人当たり3.8人(厚生労働省ホームページ参照http://www.mhlw.go.jp/toukei/youran/indexyk_2_1.html)と低い数値を保っていますので、トラネキサム酸が生死を分かつ場面は稀かもしれません。
ですが、有害事象がないということで体勢に影響を与える可能性はないものの、使用はしても良いかもしれませんね。
【参考文献】
1.Shakur, H., Roberts, I., Fawole, B., Chaudhri, R., El-Sheikh(2017).
Effect of early tranexamic acid administration on mortality, hysterectomy,
and other morbidities in women with post-partum haemorrhage (WOMAN):
an international, randomised, double-blind, placebo-controlled trial. The
Lancet, 389(10084), 2105–2116.
2.参加危機的出血への対応ガイドライン
(https://www.jspnm.com/topics/data/topics100414.pdf)
3.厚生労働省ホームページ
【1人抄読会】急性冠症候群患者においてTroponinT測定できるときはCK-MBは測定不要?
今回から趣向を変えて、気になった論文にも考察を加えていこうと思います。
本日読んだ文献は2017年8月にJAMAのSpecial communicationに掲載されたEliminating Creatine Kinase–Myocardial Band Testing in Suspected ACS | Acute Coronary Syndromes | JAMA Internal Medicine | The JAMA Networkdです。(無料アカウントを作成すると全文読めます。)
文献全体の要旨を一言でいうと、
「トロポニンTが測定できるシチュエーションであれば、CK-MBは測定しないほうが良い(コストもかかるし、診断を惑わせるだけ)」
ということです。
自分の勤務している病院では、なんとなくですが、
・CKがピークアウトするまでは逸脱酵素はフォロー
・ERでTroponinTとCK-MBは同時測定
といったことを行っています。
ちなみに、NSTEMIにおける心筋バイオマーカーの日本での推奨は下記の通りで、日本語の解釈としては同時に測定も許されそうです。生化学的マーカーの再検査は推奨されていますが頻度については記載なし。
STEMIに関しては、少なくともこのガイドラインが作成された時点では、TroponinTによる梗塞サイズの推定は積極的には推奨はされていないんですね。
72時間値の測定でも良さそうですけど、ただピーク値って何回も取らないと上手く測定できないような…。
ちなみにTroponinTは120点、CK-MBは90点で、いずれも月1回の算定が基本のようです。
以上を踏まえると、確かにTroponiTとCK-MBを同時に測定する意義はなさそうです。
ただし、自分は救急科の医師なので、コンサルトする循環器の先生方に「お金も無駄になるから、トロポニン取るならCK-MB要らないよ」と言われない限りは、オーダーはし続けるような気もします…。
日本版ガイドラインが改訂されるの待ちでしょうか。
うーん、難しい。
【参考文献】
1. Alvin, M. D., Jaffe, A. S., Ziegelstein, R. C., Trost, J. C., BJ, W., & MJ, T.
Eliminating Creatine Kinase–Myocardial Band Testing in Suspected Acute Coronary
Syndrome. JAMA Internal Medicine, 4(1), 38.