救急医 ざわさんのブログ

東京の病院で三次救急をやっています.自分の日常診療の知識のまとめをしたり、論文や本を読んで感想文書いています。日常診療の延長でブログを始めました.ブログの内容の実臨床への応用に関しては責任を負いかねますので,各自の判断でお願いします.内容や記載に誤りや御意見がございましたらコメント頂ければと思います.Twitterもやっています(https://twitter.com/ryo31527)

骨粗鬆症のはなし

おひさしぶりです。現在,整形外科をローテーション中です。手術したり外来をやったりと普段はなかなか学べないことを多く学べていて大変勉強になっています。
 
整形外科の外来をやっていると、「高齢女性の骨折」や「骨折リスク因子を複数抱えている方の腰痛」など骨粗鬆症osteoporsisに関して考える機会が多くあります。
自分自身、あまり深く考えていませんでしたが,プライマリケアの観点からは重要だと思いましたので,勉強してまとめてみました。
 
骨粗鬆症は「症状がなく進行し,脆弱骨折を引き起こす」症候群であり,国内外のガイドラインや教科書でも骨粗鬆症の介入が不十分である」ことが指摘されています。
 
個人的に悩んだのは,「骨粗鬆症の検索をどんな患者にすべきか」ということと,「骨粗鬆症に治療介入することがどんな利益を生むのか曖昧(骨折は減らすという報告はあるようです)なまま,闇雲に治療介入するのは適切なのか」という2点でした。
 
前者に関してはある程度勉強すれば分かることで,後者に関しては「骨折の減少」というのは真のアウトカムとして捉えても良いのではないか(経済効果は不明ですが,患者のADLを著しく損なうという点では良いと考えました)と結論付けたうえで,今回は下記のような内容でお話しします。
 
 
0.骨粗鬆症の病態生理
1.どんな時に骨粗鬆症osteoporsisを疑うか
2.骨粗鬆症osteoporosisを考えた場合の検査の組み方
3.治療薬の選択
 
今回の内容はプライマリケアや外傷診療,女性診療に携わる場合は知っておいたほうが良い内容かもしれません。けっこう分量が多いので,時間がない方は赤線部だけでも見ていただけると良いと思います。(おかしな内容があれば教えていただけると嬉しいです)
 
 
0.骨粗鬆症の病態生理
病態生理は,以下の通りです。
 
・骨は普段から「破骨細胞による骨吸収」⇔「骨芽細胞による骨形成」を繰り返しています
・骨吸収量>骨形成量となると骨量は減ります(普段はこの量は互いに釣り合っている=カップリング)
・閉経後の骨粗鬆症の主病態はエストロゲン欠乏(エストロゲン破骨細胞アポトーシスを促している)で,エストロゲンが減ることでカップリングが崩れます(骨吸収量↑)
破骨細胞の活性を高めるものとしてRANKLがあり,こちらを抑えることで骨粗鬆症の治療をする薬剤があります(一般名:デノスマブ)
 
 
1.どんな時に骨粗鬆症を疑うか
骨粗鬆症は以下のような手順で診断がされます。

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骨粗鬆症ガイドライン2015.p28より引用)
 
ポイントとしては,
①続発性骨粗鬆症を鑑別すること

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脆弱性骨折(立った姿勢からの転倒もしくはそれ以下の外力での骨折)の有無を評価すること
③骨密度を測定すること
 
の3つです。
 
実際には,「目の前の人に骨粗鬆症がありそうだ」と考えなければ,検査が始まりません。(※ハリソン内科学(第5版,p.2551)によれば,「50歳以上の骨折は骨粗鬆症を発見する機会であると考えるべきである」と述べられています。再三述べられていますが過小評価されているであろう現状を問題視しているようです。)
 
National Osteoporosis Foundationによれば,「65歳以上の女性・70歳以上の男性・閉経移行期以降の女性・骨折リスク因子のある50-69歳男性・成人期の骨折既往がある50歳以上の成人・関節リウマチのような骨量の減少に関連のある病態もしくは薬物使用歴(PSL5㎎×3カ月以上)のある成人」に対しては,骨密度測定が推奨されています。また,椎体骨骨折の2/3は無症候性と言われているので,リスクが高いと思われる患者さんでは積極的に胸腰椎のレントゲンを確認したほうが良いと思われます。
 
骨折のリスク因子としては,骨折の既往,骨粗鬆症関連骨折の家族歴,低体重,喫煙,過度の飲酒が代表的です。
 
他にも性腺機能低下状態(神経性食思不振症,Turner症候群etc),内分泌疾患(副腎不全,Cushing症候群,甲状腺機能亢進症,副甲状腺機能亢進症etc),胃腸疾患(胃腸手術,炎症性腸疾患,吸収不良症候群etc),血液疾患(多発性骨髄腫,血友病,サラセミアetc),膠原病(強直性脊椎炎,SLE,関節リウマチetc),中枢性神経疾患(てんかん,Parkinson病,脳卒中,脊髄損傷etc),薬物(抗がん剤PPI,PSL5㎎×3か月以上,MTXetc
),アミロイドーシス,HIV,サルコイドーシス,COPD
 
など,無数にリスクとなりそうなものがあります。
要は「身体活動の低下・栄養状態不良・骨吸収の促進を起こし得る病態・疾患」をリスクとして認識すべきなのでしょう。
 
リスク評価のツールとして,FRAXというものもあります。FRAXで10年間の大腿骨近位部骨折のリスクが3%以上であれば治療費に見合った予防効果が得られるようです。
 
 
2.骨粗鬆症を考えた場合の検査の組み方
骨密度測定に加えて,血算,血清Ca,P,ALP,血清PTH,肝腎機能,血清25(OH)D,24時間尿中カルシウムの測定をします。(関節リウマチを疑うのならばRFと抗CCP抗体を追加しても良いかもしれません)
 
血清Ca↑ならば副甲状腺機能亢進症や悪性腫瘍も鑑別に挙がるので要注意です。
(PTHは副甲状腺機能亢進症であれば↑,悪性腫瘍では↓,原発骨粗鬆症ではCaは正常値となります。
 
尿中カルシウム排泄が低下(<50㎎/日)していれば,骨軟化症・栄養不良・吸収不良が考えられます。反対に増加(>300㎎/日)していれば,高カルシウム尿症が示唆されます。これは男性の骨粗鬆症に多いパターンですが,血液の悪性腫瘍・Paget病・副甲状腺機能亢進症甲状腺機能亢進症など骨代謝回転の亢進を伴う病態が考えられます。
 
血清25(OH)Dに関しては目標値は20-30ng/mlで,骨粗鬆症の治療を受けている患者さんの場合は最適化すべきと言われています。
(しかし,内科医の先生たちの中でもビタミンD補充の目標値をどこに設定するかは喧々諤々のようです。また25(OH)D測定は,現時点ではビタミンD欠乏性骨軟化症・くる病の診断・治療のみ保険適用になっているようです(400点)ので,オーダーする際には注意が必要です。)
 
そして,実際に骨粗鬆症に対して治療を開始する場合は,以下の骨代謝マーカーを測定します。
 
BAP,P1NP⇒骨形成マーカー
TRACP-5b,NTX,CTX,DPD⇒骨吸収マーカー
 
基本的には早朝空腹時の採血で,骨折発生24時間以内もしくは骨折急性期を過ぎてからが原則です。
 
 
3.患者指導と治療薬の選択
患者さんの生活指導としては,以下のことが重要です。
 
・禁煙を指導する
・夜間多尿があれば(夜中に起きてトイレに行くので転倒リスクが上がる)介入する
・神経疾患があれば介護などの介入をする
・カルシウムとビタミンDを確実に摂取させる
・腎結石症のリスクがわずかに上がるので,既往のある患者さんの場合はカルシウム剤を投与する前に24時間尿中カルシウム排泄量をチェックしておく
・運動は無理のない範囲で行う
 
そのうえで,薬物治療を開始する場合は下記のような目安があります。

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ここでも,「脆弱骨折の有無,骨密度,FRAXの評価」が重要です。
骨粗鬆症ガイドライン2015では,「骨粗鬆症の原因と重症度に応じて薬剤を選択すべきである」と述べられていますが,具体的には,
 
・閉経後早期,骨吸収促進型 ⇒ ラロキシフェン(エビスタ®),バセドキシフェン(ビビアント®)
・重症型の椎体骨骨折や海綿骨での骨密度低下がある ⇒ テリパラチド(テリボン®,フォルテオ®)
・大腿骨近位部骨折のリスクを下げ得るもの ⇒ アレンドロネート(ボナロン®,フォサマック®),リセドロネート(アクトネル®,ベネット®),デノスマブ(ランマーク®,プラリア®),ミノドロン酸(リカルボン®,ボノテオ®)
・骨吸収抑制薬の併用は効果が限定的(アレンドロネート+活性型VitDはアレンドロネート単独よりも椎体骨折のリスクを低下)
・腎障害がある場合は,活性型VitD製剤・ビスホスホネート・SERMの投与は慎重になるべき(腎機能低下に伴い,PTH↑,25(OH)D↓となるが,尿中へのカルシウムおよびリンの排泄は低下する)
 
などの記載があります。
それぞれの薬剤に関しての特徴をまとめると,
 
①カルシウム製剤
ごくわずかな骨密度の改善効果が示唆されています。副作用は胃腸症状。
大腿骨近位部骨折の抑制効果…×
椎体骨骨折や非椎体骨骨折の抑制効果…〇
 
骨粗鬆症ガイドライン2015では,食事からのカルシウム摂取量と併せて,1日1000㎎のカルシウムの投与が勧められています。(経口摂取で賄える場合は不要です。)
サプリメントでカルシウム製剤を投与する場合は高カルシウム血症心血管イベントが増えるとの報告もあるので,尿中カルシウム/クレアチニン比が0.3未満であること,1回の投与量は500㎎を超えないようにすることに注意が必要です。
 
 
②活性型VitD薬(ワンアルファ®,エディロール®,ロカルトール®)
エディロールの薬価は1日1錠(0.75μg)内服の場合は97.9円。
骨密度の改善効果が示唆されています。副作用は高カルシウム血症
大腿骨近位部骨折の抑制効果…×
椎体骨骨折や非椎体骨骨折の抑制効果…〇
 
腸管からのカルシウム吸収↑作用がメインです。作用としてはエルデカルシトール>アルファカルシトール(エディロール®>ワンアルファ®)です。
 
 
③ビスホスホネート製剤(ボナロン®,アクトネル®,ベネット®など多数)
ボナロン®1日1回(5㎎)の場合は82.4円。
骨密度の改善効果が示唆されています。副作用が多いので注意です。
大腿骨近位部骨折の抑制効果…〇
椎体骨骨折や非椎体骨骨折の抑制効果…〇
 
基本的には破骨細胞アポトーシスさせる薬剤です。現在第1~第3世代薬まで開発されている椎体骨折や非椎体骨折を抑制できる一方で,長期間の使用では非定型大腿骨骨折(atypical femoral fractures;AFFs)発症の可能性があります(これはBP製剤特有のものではなく,デノスマブなど他の骨吸収抑制薬でも起きていると言われる)
 

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ビスホスホネート製剤は消化管からの吸収率が低いので,水以外の飲食物は内服後30分経過してから行うことと,内服して30分は横にならないように勧告されています。食道狭窄やアカラシアがある場合は内服禁忌です。
また,カルシウムが多く含まれるようなミネラルウォーターで内服すると吸収が阻害されることがあるので注意が必要です。顎骨壊死の副作用があるため,開始前は歯科治療を行う予定がないかは確認しましょう。
(※この顎骨壊死は他の骨吸収抑制薬使用時にも起きることから近年では,antiresorptive agent-induced osteonecrosis of the jow;BRONJと呼ばれているようです)
 
 
④SERM(selective estrogen receptor modulator,エビスタ®)
エビスタ®60㎎の薬価は1日1錠(60㎎)内服の場合は98.7円。
骨密度の改善効果が示唆されています。副作用は深部静脈血栓症・視力障害。
大腿骨近位部骨折の抑制効果…×
椎体骨骨折や非椎体骨骨折の抑制効果…〇
 
骨に対してエストロゲンと同じ作用を持ちますが,子宮や乳房には拮抗する作用があります(故に,“選択的”)。閉経後の骨粗鬆症に有効と考えられ,乳がんの発生を減らす(ただし,血栓や子宮がんのリスクは上がる)作用があります。
 
 
⑤デノスマブ(抗RANKL抗体,ランマーク®,プラリア®)
6か月に1回ランマーク60mg皮下注射の場合,薬価は46685円/6か月
 
骨密度の改善効果が示唆されています。副作用は低カルシウム血症があります。(骨吸収を抑制するので)
大腿骨近位部骨折の抑制効果…◎(臨床試験としては確認されていない)
椎体骨骨折や非椎体骨骨折の抑制効果…◎
 
RANKLを阻害することで,破骨細胞の形成を抑制する薬剤です。もともとは多発性骨髄腫や悪性腫瘍の骨転移に対して使用されていましたが,最近は骨粗鬆症に対しても保険が通ったようです。
副作用の低カルシウム血症に対して,カルシウム,天然型ビタミンDマグネシウムの補充を,採血結果を見ながら行います。また,顎骨壊死の副作用もありますのでビスホスホネート製剤と同様の注意が必要です。
 
⑥テリパラチド(副甲状腺ホルモン製剤,テリボン®,フォルテオ®)
1日1回20μg皮下注射の場合,薬価は1444円/日(24カ月間のみしか投与できません)
 
骨密度の改善効果が示唆されています。副作用は高カルシウム血症,悪心・嘔吐,頭痛,倦怠感。
大腿骨近位部骨折の抑制効果…×(臨床試験としては確認されていない)
椎体骨骨折や非椎体骨骨折の抑制効果…◎
 
骨形成を促進する薬剤で,非常に薬価も高い薬です。基本的には第一選択薬ではなく,ビスホスホネート製剤やSERMを使用しても,骨折を生じた例や複数の椎体骨骨折を起こしていたり,骨密度の低下が著しい例で使用するように推奨されています。
 
骨肉腫や悪性腫瘍の骨転移,原因不明の高ALP,骨Paget病,副甲状腺機能亢進症には禁忌です。
 
色々薬剤はありますが,効果が上がるにつれて薬価が上がり,副作用も増えていくというジレンマがあります。
難しいですね。
 
薬剤の併用療法としては,
ビスホスホネート製剤のアレンドロネート(ボナロン®)+活性型VitD(ワンアルファ®)
テリパラチド(フォルテオ®)→骨吸収抑制薬
SERM(エビスタ®)+アレンドロネート®(ボナロン)
などが例として挙げられています。
 
ちなみに治療効果の判定ですが骨密度の変化ではなく,骨代謝マーカーで行うことが一般的です。これは健康保険上は4カ月に1回骨密度測定が可能なのですが,治療開始6か月以内に骨密度が優位に変化することがないためです。(逆に骨代謝マーカーは如実に変化するので,例えば開始後3~6カ月後に最小有意変化以上の変化があれば,有効と考えられます)
 
 
以上長くなりましたが,「知らないと介入できない(そして意外と多く隠れている)」骨粗鬆症についてまとめてみました。
 
それでは。
 
【参考文献】
1.骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン2015年版.骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン作成委員会委員会編.日本骨粗鬆症学会,2015年.
 

2.福井次矢編.ハリソン内科学第5版【電子版】.2018年4月9日.p.2550-.メディカルサイエンスインターナショナル.

虫垂炎の話

御無沙汰しております。本日,虫垂炎に関して研修医の先生と勉強しましたのでその内容を簡単にまとめてみたいと思います。

内容としては,

 

1.虫垂炎の自然経過

2.虫垂炎の診断とAlvarado scoreについて

3.虫垂炎の治療

の順に述べたいと思います。

 

1.虫垂炎の自然経過

虫垂炎は一般的に,「右下腹部が痛くなる疾患」のイメージが強いですが,実際には下記のように経時的に症状が変化して行きます。救急外来には「虫垂炎発症間もないタイミング」で受診することが多く,見落としや誤診につながりやすいわけです。

とは言え,虫垂炎は非常にcommonでかつcriticalになり得る疾患ですので,救急外来では確実に診断したいところです。

 

①心窩部痛・心窩部不快感(発症直後)

②嘔気・嘔吐(発症2-3時間)

③腹部の圧痛(発症12-24時間)

④発熱(発症12-24時間)

⑤白血球の上昇(発症12-24時間)

 

ほとんどがAbdominal pain→Emesisの順に起こります(APPEと覚えるという先生もいらっしゃいます。オシャレですね)

 

①②の時点では,炎症は虫垂に限局していて,これらの症状は腸管の自律神経のにより引起こされていると考えられています。

③以降は炎症が壁側腹膜に波及し,いわゆる「腹膜炎」を起こしている状態です。

そのまま症状が続けば,穿孔してしまう可能性もありますので,ともかく「圧痛があるか」「症状はどの順番で出現しているのか」が大切です。

 

このように発症してどの段階で救急を受診するかによって主訴が変わりますから,虫垂炎の主訴は「右下腹部痛」ばかりではなく「嘔気」だったり「発熱」だったりするわけです。(熱中症の触れ込みで運ばれた高齢者の方が,実は虫垂穿孔からの敗血症だったなんてことも去年の夏にありました…。)

 

2.虫垂炎の診断とAlvarado scoreについて

虫垂炎の診断は最終的には腹部超音波もしくはCT検査で行われます。

こんな感じで見えるようですが↓↓

www.youtube.com

実際は,なかなか難しくてCT検査で診断をつけることが日本の場合は多いと思われます。(勿論妊婦や小児の場合は超音波で診断をつける必要が出てくるので必要な技術だとは思います)

 

ちなみCT検査では,

・虫垂壁厚2mm以上

・糞石の存在

・虫垂周囲の脂肪式濃度の上昇,浸出液,膿瘍

・虫垂のtarget sign

などがあると虫垂炎が示唆されます。

 

救急外来では,「虫垂炎を疑ったときにCTをとるかどうか」がポイントになるわけです。身体所見としては,psoas sign,obturator signなど色々ありますが,今回はAlvarado scoreについて確認します。別名MANTRLES scoreとも言われ,原著は1986年に外科医のAlvaradoによって提唱され,その後何度か検証されています。

2011年のsystematic reviewでは5点以下で入院の必要な虫垂炎のrule out(感度99%)ができそうという結果でしたが,具体的なスコアを見てみると

 

心窩部から右下腹部の痛みの移動 1点

食思不振 1点

嘔吐 1点

右下腹部痛 2点

反跳痛 1点

37.3℃以上の発熱 1点

白血球数10000以上 2点

白血球の左方移動 1点

 

と言った内容で,虫垂炎を疑うようなシチュエーションだと役に立たないですし,虫垂炎の初期は見逃すことになるので,原因不明の腹痛や嘔気の患者さんを帰宅させる場合には,「救急外来では原因は分かりませんでした。痛みが移動したり熱がどんどん上がってくるようならまた受診してください。その時にはおなかのCTも撮りましょう」などと伝えて帰宅させるのが賢明ではないかなと思います。

 

3.虫垂炎の治療

以前は「虫垂炎はすぐ手術」と言った時期もありましたが,現在は「抗菌薬治療を先行させる」ケースもあります。いつ手術するのか,抗菌薬は何を使用するのかなどハッキリ決まっていない部分もあるので,虫垂炎の診断がついたら外科にコンサルトしましょう。

(抗菌薬投与のコンセンサスは必ずしもありませんが,「軽症ならCMZ,ABPC/SBT,CTRX+CLDM,TAZ/PIPCを術前に1回,壊死性虫垂炎や穿孔,腹膜炎があれば計3~5日間もしくは無熱が2~3日間続くまで投与」と言うのが,青木先生の「感染症診療レジデントマニュアル第3版」やUp to dateからは伺い知れます。

Up to dateの「Management of acute appendicitis in adults」によれば,虫垂炎の状態によって治療選択が変わります。具体的には,

 

■穿孔していない虫垂炎で手術を躊躇う状況になければ12-24時間以内に手術

■穿孔していない虫垂炎で手術をしない場合は,入院して静注の抗菌薬

■穿孔している虫垂炎の場合は,敗血症であったり自由壁破裂を伴う場合は直ちに手術をして術後3-5日の抗菌薬治療。穿孔していても容態が落ち着いている場合は,静注の抗菌薬治療を(±ドレナージ)を行って,容態が良くならなければ手術

 

など記載がありますが,要は穿孔の有無や患者本人の容態によってすぐに手術なのか,少し抗菌薬で治療して反応を見るのかが変わるわけですね。


直感的には,「穿孔したら早めに手術をしたほうが良さそう」ですけれど,実際には,癒着や炎症が強い時期に手術を増えると合併症や合併切除,術後の膿瘍などが増える可能性があるため,炎症が落ち着いてから手術介入をすることになります。

 

また近年,2015年のNEJMのReview(PMID:25970051)や2015年のJAMA(PMID:26080338)などでは,軽症の虫垂炎は手術せずに治療できる可能性も示唆されています。

NEJMのReviewでは,「単純性虫垂炎(妊娠のない若者,糞石や穿孔がない,免疫不全がない)であれば,抗菌薬による保存治療も可能である(※ただし,4.2-7カ月の間に再発,手術となる割合が10~37%)」

JAMAのRCTでは,「単純性虫垂炎(18~60歳,妊婦・授乳中は除く,腹膜炎や重症疾患がる場合は除く)に対して,抗菌薬による治療は非劣性を示せなかった。しかし、抗菌薬治療の患者群は72.7%がその後1年間手術を必要とせず,手術を受けた患者も重篤な合併症はなかった。(使用した抗菌薬は,エルタぺネムを3日間,経口のLVFX+メトロニダゾールを7日間)」


と言った結果が出ていますが,後者はそもそもprimary outcomeで有意差を示せなかった文献ですし,いずれも高齢者などに当てはめて良いか分からないので臨床への適用に関しては慎重に検討する必要があると思います。

 

 

少し長くなりましたが,虫垂炎の治療はまだまだ検討すべき事項が多そうです。

それでは。

 

【参考文献】

1.レジデントのための感染症診療マニュアル 第3版.青木眞著.医学書院,2015年,p.757-761.
 
2.Douglas Smink, MD, MPH. Management of acute appendicitis in adults: UpToDate Inc. http://www.uptodate.com (Accessed on February 04, 2018.)
 
3.Ohle, Robert, et al. “The Alvarado score for predicting acute appendicitis: a systematic review.” BMC medicine 9 2011.
 

亜鉛欠乏の話

今回は、最近カンファレンスで話題になった亜鉛欠乏に関して、です。正確には亜鉛欠乏による皮膚症状や貧血が話題になったのですが、良い機会なのでまとめてみました。
 
今回の話の内容は
1.どんな時に亜鉛欠乏を考えるのか
2.どのように診断・治療するのか
3.補充後の注意点
の3つです。
 
ちなみに、微量元素は、「体内の含有量が鉄と同等以下の元素」と定義されています。(1)
中心静脈栄養用の微量元素製剤は、Mn含有かどうかで大きく分かれますが、基本的に「鉄・マンガン亜鉛・銅・ヨウ素」を含んでいます。セレンやクロム、モリブデンなども微量元素ですがルーチンで入っていないことも多そうですね。
 
さて、前置きはこれくらいにして本題へ入りましょう。
 
 
1.どんな時に亜鉛欠乏を考えるのか
臨床的には、ここが一番大事かなと思います。どんな時に亜鉛を測定すれば良いのかということです。
 
リスクが高い患者群と、亜鉛欠乏を疑う症状について調べてみると
 
①リスクが高い患者

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亜鉛欠乏を疑う症状

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(いずれも2より引用)
 
簡単にまとめると、「肝障害や、腎障害があったり慢性の消耗性疾患のある患者や、糖尿病のある患者」(かなり該当する患者さんが多そうですが)で、「口内炎や皮膚のびらん、貧血やALPの低値がある人」では測定を考えても良さそうです(ALPが亜鉛をもとに作られる酵素なので亜鉛欠乏を反映するそうです)。
妊婦さんでも気をつけないといけませんね。
 
ちなみに亜鉛欠乏による貧血は、赤芽球の分化に亜鉛が必要なためで、亜鉛欠乏による貧血は正球性もしくは小球性の貧血で、TIBCは低下してます。
 
2.どのように診断・治療するのか

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診断そのものは亜鉛を測定すれば良いので、そこまで難しくはなさそうです。他のビタミンや微量元素の欠乏症と同じで症状があれば基準範囲でも亜鉛欠乏症として治療を行います。
 
補充の方法は、成人の場合は50-150㎎/日を補充します。期間は症状に併せて、となりますが例えば亜鉛欠乏による貧血では25-50㎎の亜鉛投与で、数か月改善にかかるようです。
 
3.補充後の注意点
亜鉛補充による副作用としては、消化器症状、膵酵素の上昇などがあります。亜鉛投与に伴って、鉄や銅の低下を引き起こすことがあるので、長期内服する場合は、亜鉛に併せて鉄や銅に関しても測定するようにしましょう。
 
今回の記事に関しては、up to dateも参照しましたが、参考文献にある「亜鉛欠乏の診療指針2016」が非常にまとまっていて勉強になりました。実際に亜鉛欠乏症の診療をする際には一読することをおすすめします。
 
それでは。
 
【参考資料】
1.重症患者の治療の本質は栄養管理にあった.真弓俊彦編.羊土社.2014年.p.82-84.
 
2.日本臨床栄養学会編.亜鉛欠乏症の診療指針2016(http://www.jscn.gr.jp/pdf/aen20170613.pdf

国家試験を終えて、研修医を迎える先生方へのメッセージ

こんにちは。今回は、文献や病気の話などではなく、これから初期研修医になる先生方へ向けてのメッセージです。

長々と記事を書きますが、何が一番大事かと言うと「自分の頭で考える」ということに尽きると思います。

 

①今から考えておいたほうが良いこと

②研修医の間に勉強したほうが良いこと(医学以外)

③研修医の間に勉強したほうが良いこと(医学)

 

の3つについて述べたいと思います。完全に個人の経験談になりますから、話半分でお願いします。

 

①今から考えておいたほうが良いこと

「自分の人生にとって何が大切か」を考えておいたほうが良いと思います。

一般的に、初期研修を2年やって、専門医のプログラムに3年のって、研究したり留学したり…ということを考えている方が多いかもしれません。

 

しかし、実際は皆さんの目の前にはもっと多くの選択肢が現れます。例えば、私自身の周りを見てみると、勿論医者をやっている人が多いですが、美容整形に行ってテレビに出てる人、整形外科医をやりながら会社経営をしている人、医者をやめてトレーダーになった人、精神科医から救命センターの医者になった人、何をやっているか分からないけれど年収1億円ある人、世界一周旅行に出ている人、初期研修医の頃から有名誌に論文を乗せた人、民間向けに色んなイベントを開催している人など、様々です。

 

勿論、各々が色々な批判や逆風にさらされながら、自分の夢や信念を求めて生きているわけですが、実はいわゆる「既定路線以外のパターン」もたくさん世の中にはあります。

今までは「医学部に合格する」とか、「国家試験に合格する」など、当座の分かりやすい目標(しかも周囲と共有しやすい目標)があったわけですが、これからは個々人の目指すところは全く違ってきます。

 

つまり、医学生を終える皆さんは、自分にとっての「成功」を自分で定義して、生きていく必要があります。

何も仕事のことだけではなく、どこに住んで、だれと生活を共にして、何を得て、何を捨てるのか自分の感情や価値観で決めなくてはいけないわけです。(正確に言うと、決めなくてはいけないというよりは決められるのでそうしたほうが良いという勧めになりますけど)

 

なので、漠然と「研修終わったら面白そうな(QOLがよさそうな、やりがいのありそうな)〇〇医になります」と決めてしまうより、もっと皆さんには色々な可能性があることを知ったうえで様々な選択をして欲しいと思います。

 

 

 

 

若手医師のためのキャリアパス論?あなたの医師人生を10倍輝かせる方法

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②研修医の間に勉強したほうが良いこと(医学以外)

医学以外に学ぶことといえば、「社会の仕組み」と「他社の多様性」の2点が重要と思われます。もともと医学と言うのはかなりガラパゴス化した分野でありました。

昔の先生の話を聞けば、「病院に寝泊まりしていた」「正月に酒を飲んでいたら呼ばれて、緊急手術をした」「女を捨てて頑張った」「芸をして手技をやらせてもらった」なんて話はポンポン出てくると思います。

しかし、現在の世の中では労働基準法や、パワハラ・セクハラ、高齢化社会を迎えるうえでの医療の在り方、少子化の中での(医師に限らない)働き方やキャリアアップなど様々な議論が展開されています。

国の医療費は切迫し、国際社会情勢は緊迫しています。AIの登場で医療システムそのものは必ず変革されるでしょう。

 

そんな中で、「医者は仕事をしていれば食いっぱぐれない」と言うのは少し見通しが甘いと思います。

「今世の中はどんなことが問題になっていて、それが自分にどう関わりそうか」、関心を持つことは大切です。医者に限らず、今までの世界での当たり前は、どんどん崩壊していくと私は思っています。変化していく社会の中で医学や医療者は何を求められるのか、見極めたいものです。

 

「他者の多様性」に関しては、「他人は自分と違う」という、当たり前のことを知っておけば、日々の生活の中で自然と理解できると思います。医学部から病院と言う場へ生活が移れば、パラメディカルの方意外にも、病院に出入りする業者さん、患者さんなどなど様々な背景の人と触れ合いながら生活していくことになります。けっこう医者同士でも背景や価値観が違って、びっくりするかもしれません。

 

人間と言うのは常に合理的ではなくて、直せる病気の手術を拒んで亡くなる人や、COPDになっても煙草を吸い続けたい人様々です。(これは①で紹介した色んな生き方を選択する人がいるということと同じですね)

 

そんな異質な人たちと、社会に出た後は議論や折衝をしながら生きていかなくてはならないわけです。

 

日本再興戦略 (NewsPicks Book)

日本再興戦略 (NewsPicks Book)

 

 

③研修医の間に勉強したほうが良いこと(医学)

さて、いよいよ医学の話ですね(笑)この話題に関してはインターネットでも多く情報があると思うので、具体的には書きませんが、ポイントは「臨床上の疑問を必ず信頼できるソースで確認する」ことだと思います。

Up to dateでもDynamedでも、ガイドラインでもハリソンでも構いませんので、担当患者さんの病状や治療については逐一調べるようにしましょう。

そのうえで、指導医と議論が出来ればよいと思います。(とは言え、最初の最初は何も分からないと思いますので、指導医に「〇〇さんの治療の件で参照すべき文献などありますか」と質問したら良いと思います。)

 

疾患に対する知識は数年単位でどんどんアップデートされるので、「たくさんの知識を持っている」ことよりも、「分からないことを分からないと認識して、的確な情報源を検索できる」事の方が重要です。

ここでも自分の頭で考えることが重要で、「指導医が言ってたから」「〇〇科目の先生が言っていたから」ということだけで、済ませては実力は身につかないと思います。

 

項目としては、何科に行くにしても、輸液・感染症・コモンディジーズの対応などは2年間で勉強しておいたほうが良いとは思います。

 

内科レジデントの鉄則 第2版

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救急外来 診療の原則集―あたりまえのことをあたりまえに

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感染症プラチナマニュアル 2017

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ジェネラリストのための内科外来マニュアル 第2版

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卒後10年目総合内科医の診断術

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長々、書きましたが、新しく研修医になる先生方の人生が良きものになればと思います。春休み楽しんでください。

 

それでは。

 

 

頭蓋骨骨折と外傷性髄液漏について

あけましておめでとうございます。

今回は、外傷性頭蓋骨骨折の患者さんに髄液漏や気脳症があった場合に、考えることをまとめてみたいと思います。
なかなか定まった見解がなく、脳外科の先生に相談しながら決めることが多いですが実際どうなんだろうと思って調べてみました。

 

内容としては、

①頭蓋骨骨折の分類と外傷性髄液漏の疫学

②外傷性髄液漏における予防的抗菌薬投与の必要性

③外傷性髄液漏の治療・安静度

について述べたいと思います。日本と海外でだいぶ方針が違いそうです。

 

①頭蓋骨骨折の分類と外傷性髄液漏の疫学

まずは、外傷で頭蓋骨骨折があった場合の分類です。以下は、外傷専門診療ガイドライン(1)の表を改変したものです。

 

  軽症 中等症 重症
線状骨折(円蓋部) 骨折線が血管溝と交差しない
静脈洞部を超えない
骨折線が血管溝と交差する
静脈洞部を超える
のいずれかを満たす
 
陥没骨折(円蓋部) 1cm以下の陥没
非開放性
1cm以下の陥没
陥没部が外界と交通しているが髄液漏はない
1cm以上の陥没
開放性(髄液漏+)
静脈洞圧迫による静脈還流障害
のいずれかを満たす
頭蓋底骨折   頭蓋底骨折
※髄液漏の有無は問わない
頭蓋底骨折
大量の鼻出血・耳出血
※穿通外傷はすべて手術適応だが、挫滅の広い銃創は適応にならないこともある

 

ここでのポイントは、

・円蓋部の骨折と頭蓋底の骨折を分けて分類していること

・静脈洞を圧迫する可能性があるか、髄液の漏出が疑われるかで重症度が変わること(ただし、頭蓋底骨折の場合は髄液漏の有無は問わない)

の2点かと思います。

 

つまり、頭部外傷患者さんで骨折があった場合、髄液漏があるかどうかを確認する(耳や鼻から出血は持続していないか、ダブルリングサインは陽性ではないか、画像上、錐体骨骨折を含む側頭骨骨折や篩骨洞・前頭洞を含む前頭蓋底骨折、硬膜下の気脳症はないか…)ことが重要と言えます。

ちなみに、鼻出血や耳出血に関しては綿球をつめるよりはガーゼを当てて吸収させるほうが、逆行性感染を防ぐ意味で良いという文献もありました(3)。

 

ちなみに、今回は詳細は割愛しますが、頭蓋骨骨折単独での手術適応は、重症もしくは開放性の陥没骨折で、整復、硬膜閉鎖、汚染部分のデブリを24-48時間以内に行うことが目標となりそうです(2)

 

 

外傷性髄液漏はの疫学については下記の通りです。

・頭蓋底骨折の12-30%に合併する(2)

・外傷後数日以内に発症し鼻漏は1-3週間、耳漏は5-10日以内に自然停止することが多い(1)

・95%は外傷後3カ月以内に発生する(5)

・自然停止率は80-95%で多くが24-48時間で停止する(2)

・再発性・遅発性の場合は自然治癒は少ない

・髄液漏の7-30%に髄膜炎が発生する(家族にもあらかじめ説明したほうが良い

(1,2)

 

髄液漏の何が問題かというと、本来外界に漏れ出るはずのない髄液が、外界へ出てきてしまっている(=中枢神経感染症のリスク↑↑)ことが問題です。

なので外傷性髄液漏を診る場合には、髄膜炎の発生に注意しながらまずは保存的加療となりそうですね。

 

②外傷性髄液漏における予防的抗菌薬投与の必要性

文献にもよりますが「一定の見解はない」というのが一定の見解のようです。

そのうえで、

・「抗菌薬の予防投与の有効性について定まった見解はなく欧米では使用しない施設が多い」「抗菌薬の予防的投与については議論がある。(中略)さらに耐性菌の原因となり、慎重に行う必要がある」(1,2)のように、具体的な使用に言及しないもの

 

・文献1,2などの議論を踏まえた上で、「当施設では髄液漏の停止が確認されるまでの短期間に限って抗菌薬(髄液移行性を考慮して、セフォタキシムやセフトリアキソン)の投与を行っている」と、予防投与にも積極的であるもの(3)

 

と分かれています。Up to dateでは、頭蓋底骨折の髄液漏(cerebral spinal fluid leak)については脳外科医や感染症医にconsultationしたほうが良いとの記載でした。

 

勿論、この議論は「予防」の話であって、髄膜炎を発症した場合は当然抗菌薬による治療を行います。

そういう意味では、予防的抗菌薬投与を行うかどうかよりも、毎日患者さんを診察し、髄膜炎を発症したらすぐに治療介入できるようにしておくことのほうが重要でしょう。

 

③外傷性髄液漏の治療・安静度

 まずは保存的加療として、

・15-30度の頭部挙上、咳や怒責、鼻かみをさける

・持続的腰椎ドレナージ

を行いますが、1-3週間保存的加療をしても改善がない場合、間欠性、再発性、遅発性の症例、気脳症が進行性に増悪する症例、頭蓋底の変形が著しい症例などは手術が検討されます。(2)

 

色々、調べているとJETECのガイドラインもしくは重症頭部外傷治療・・管理のガイドラインが国内の文献としてはよく参照されているようです。

 

いずれにせよ、頭蓋骨骨折では髄液漏があるかどうか、ある場合は髄膜炎にならないかどうかに注意したほうがよさそうですね。

 

それでは。

 

 

【参考文献】

1.外傷専門診療ガイドライン.日本外傷学会専門診療ガイドライン編集委員会編.一般社団法人日本外傷学会,2014年,p.37-41.
 
2.重症頭部外傷治療・管理のガイドライン第3版.重症頭部外傷治療・管理のガイドライン作成委員会編.医学書院,2016年,p.109.
 
3.救急白熱セミナー頭部外傷実践マニュアル.並木淳著.中外医学社,2014年,p.78.
 
4.William G Heegaard, MD,MPH. Skull fractures in adult. Maria, ed. UpToDate. Waltham, MA: UpToDate Inc. http://www.uptodate.com (Accessed on February 04, 2018.)
 
5.脳神経外科周術期管理のすべて 第4版.松谷正雄ら編.メディカルビュー社,2014年,p.355.

【勉強会メモ】第2回JSEPTIC-CTG 「Journal clubをやってみよう!RCT編」に参加してきました

こんにちは。今回から、参加した勉強会の内容について自分の復習がてらまとめていきたいと思います。

 

2017年12月9日、JSEPTIC-CTG主催の勉強会に行ってきました。

内容としてはタイトルの通りで、「RCTの批判的吟味」を、あらかじめ出されたお題(今回は2017年JAMA誌に掲載された、低血圧を伴う敗血症患者の蘇生プロトコールに対する研究)について読んだ状態で、当日講義とグループワークを繰り返すというものでした。

 

集中治療医の先生が中心でしたが、総合内科系の先生もいらっしゃいました。

老若男女、若手ベテラン入り混じってのグループワークで楽しかったです。

 

JSEPTIC-CTGそのものが、集中治療域における臨床研究を推進しようとするグループと言うこともあって、実際の講義や配布資料ではかなり細かくRCTの読み方について述べられていました。(自分自身、最近感じることですが、臨床研究をするということは先行研究を分析する作業が必要ですので、当然論文読解も緻密に行わなければいけません)

今回は、
1.全体を通してのポイント

2.RCTの読み方のポイント(講義から抜粋)

3.講義を踏まえての感想

の順に記載したいと思います。

 

1.全体を通してのポイント

・臨床研究は交絡とバイアスとの闘い

・Methodsを細かく読むことでどれくらい交絡とバイアスが取り除けているか吟味する

・Journal Clubは「論文を批判的に吟味して日々の臨床に適用する」ことを目的としている。

・RCTの場合はCONSORT2010に基づいて作成される

・RCTは対象者が限定されすぎている場合、患者にとっての有用性が低い場合、研究デザインに不備がある場合(とくに脱落が多い場合)は結果が弱まる

 

2.RCTの読み方のポイント(講義から抜粋)

①Introductionを読む

なぜこの研究をやったか?を読み取る。

→今まで分かっていること、分かっていないことの2点を踏まえた上で(この2つの差をKnowledge gapと呼ぶ)、この研究の目的と仮説を述べている部分を読み取る。

・この研究は誰にとっての研究かを読み取る。

→患者?医療者?行政?経営者?政府?(=Relevant?)

 

②Methodsを読む(ここがキモ!)

・論文のPICOを確認する

P→RCTは母集団からサンプルを抽出して解析するので、実際に研究した人々がもともとの仮説の母集団を反映しているのかが大事(例えば、そもそもアフリカの低血圧を伴う敗血症患者を対象としたつもりが、ザンビアの単施設の数百人というのが良いPatientかというのは注意が必要)。

I/C→適切な比較になっているか、客観的な比較か、介入は現実的か、それ以外の治療介入はどうなっているか(appendixなど参照しないと分からない)

O→Outcomeにもたくさん種類がある。今回の場合はPrimary outcomeが死亡率というhard outcome(客観的なoutcome、対義語はsoft outcome)かつsingle outcomeなので評価しやすい。

※論文の結果を仮説に応用できるかどうかを「外的妥当性」、論文がバイアスや交絡を十分にとりのぞけているかを「内的妥当性」と言う。

 

・デザインを確認する

→RCTは交絡の調整はできる(つまり内的妥当性は高い)が、PICOが厳密に決まるので外的妥当性が低い場合があるので注意する。

 

→ランダム化、コンシールメント(割付の過程が伏せられているかどうか)、マスキングがされているかどうかを確認する。マスキングは患者、介入者、データ観察者、アウトカム解析者、データ解析者の誰にされているかまで確認する。

 

・統計解析を確認する

→色々あるけど最大のポイントは「サンプルサイズの計算が妥当かどうか」。

αエラーとβエラーをどの程度に想定し(それぞれ5%、10-20%程度が妥当)、あらかじめイベント発生率をどのように見積もっているのか、そして実際の非介入群での結果はどのようになっているのかを確認する。(例えば今回はサンプルサイズを決める段階で、先行研究を参考にし、60%の死亡率を予想していたが、実際には非介入群では30%だった。解析した結果有意差がなければ、「本当に有意差がないのか」それとも「サンプルサイズの決定が間違っていたのか」分からない)

 

※αエラーは「実際には差がないものを差があると言ってしまうこと」、βエラーは「実際には差があるものを差がないと言ってしまうこと」

 

→解析はITT解析が最も理想的ではあるが、おおくはmITT解析となっていることが多い(mITTの定義は曖昧なので、実際どんな解析になっているかは注意)

※ITT解析はIntention to treat解析のことで、ランダマイズされたデータすべてを解析対象にすること。すべてを解析対象として、しかも割り付けられた群として解析することで、RCTの最大の強みである内的妥当性を担保しようという意味がある。

 

③Resultsを読む

・結果の信用性を確認する

→RCTの場合、脱落が多いものには注意が必要。プロトコールの離脱率やアドヒアランスを確認する(脱落の目安としては20%未満が理想)

 

・どんな患者に適用できるのかを確認する

・効果だけではなく治療のAdverse Eventについても確認する

 

・結果のRR、RRR、RD、ARR、NNTを計算する

http://www.igaku-shoin.co.jp/nwsppr/n1997dir/n2248dir/n2248_11.htmなど参照。

 

④Discussionを読む

・①~③ができていれば流し読みでも良い。

→基本的には筆者の意見のまとめ、妥当性に対する主張、結果と既存研究との比較、だれにとって有用であると筆者が考えているか(implication)、研究のlimitationについて述べられている。

 

3.講義を踏まえての感想

参加された皆さん、講師陣ともにレベルが高くて勉強になりました。自施設以外の先生と触れ合うと毎度「世の中広いな」と痛感します。

RCTの読み方もブラッシュアップされたと思いますし、EBMやJournal clubというものと、日常の診療に関してより具体的に考えるきっかけになりました。

 

どういうことかと言うと、「論文を批判的に吟味すること」「知識のブラッシュアップをすること」「日常臨床の意思決定に文献を用いること」の3つのバランスは常に考えなきゃいけないなということです。

 

「論文を批判的に吟味すること」は臨床研究を行ったり、日々のプラクティスを大きく変える際には必要になりますが、時間がかかります。可能な限り行うべきだと思いますが、時間がいくらあっても足りないので、ある程度対象となる文研の取捨選択はひつようになるでしょう。(そういう意味でも、批判的吟味の能力そのものは高く持っていたほうが良さそうです)

 

「知識のブラッシュアップをする」場合には、いわゆるReviewや、成書、ガイドラインなどの二次文献を活用したほうが効率が良さそうです。自分の研鑽のためにこういった文献にあたる習慣をどのように身に着けていくかは自分自身にとっても課題です。

 

「日常臨床の意思決定に文献を用いること」については、Up to dateのような効率の良い二次資料を用いることが必要になりますが、おそらくこれだけだと、知識の自転車操業と言うかその日ぐらしになってしまうので、前述した「論文の批判的吟味」や「知識のブラッシュアップ」も欠かせません。

 

医師に(そして仕事だけに)限りませんが、「今現在自分が何のために時間を使っていて、それが効率の良いことなのか」と言うのは常々意識しないといけませんね。

 

長くなりましたが、以上です。

それでは。

 

 

 

 

 

 

アドレナリンとβblocker、抗精神病薬など(グルカゴン、アドレナリン作用の反転)

こんにちは。
先日β blocker内服中の患者さんがアナフィラキシーショックになり血圧が上がらず苦戦した例があったので簡単にまとめます。
 
実はこれ、救急あるあるなのですが、『β blocker内服中はアドレナリン作用が減弱する』『α blocker内服中はアドレナリンを使用すると血圧が下がる』と言ったことは知っておく必要があります。
 
今回は
 
1.そもそものアドレナリンの作用機序
2.アドレナリンの禁忌
3.併用禁忌(注意)薬を内服してる患者がアナフィラキシーショックになったら
 
という章立てでお話ししたいと思います。
 
1.そもそものアドレナリンの作用機序
 
アドレナリンは昇圧薬もしくは気管支拡張薬として心停止、アナフィラキシーショック気管支喘息に用いられます。
 
これはアドレナリンの持つα作用、β1作用、β2作用が下記のようにな効果を持つためです。
 
α1作用…血管収縮、散瞳 → 昇圧!
β1作用…強心作用 → 昇圧!
β2作用…血管・気管支平滑筋弛緩
 
後々ポイントになりますが、β2作用には血管弛緩作用があるので血圧は下がる方向に働きます。
ただし、アドレナリンの場合は、α1作用がβ2作用を大きく上回るので結果的には昇圧されるわけですね。
 
2.アドレナリンの禁忌
 
アドレナリンの禁忌及び投与注意は下記のとおりです。(1.より引用・一部追記)
 
●禁忌
・ハロタン などの吸入麻酔薬→ カテコラミン感受性が高まるので心室細動など惹起
・ブチラフェノン系抗精神病薬、フェノチアジン系抗精神病薬アドレナリンの昇圧作用の反転
・カテコラミン使用中
 
●原則禁忌
・アドレナリンに対する過敏症
・頻脈を伴う不整脈
脳出血の既往
甲状腺機能亢進症
・コカイン中毒
 
●投与注意
・血流障害の疾患がある症例
・妊婦
・β blocker投与中
 
ここで言う「アドレナリンの昇圧作用の反転」と言うのは、抗精神病薬で実際に確かめられていることではありません。ただし、添付文書には記載があり、注意が必要なわけです。
 
α blocker作用のある薬剤を内服している最中に、アドレナリンを投与するとβ作用が前面に出ることになります。この場合「気管支拡張作用は保たれるが、血圧はむしろ下がる」ことが想定されます(前述したように、β2作用が前面に出るため)ので、注意が必要です。
 
3.併用禁忌(注意)薬を内服してる患者がアナフィラキシーショックになったら
 
アナフィラキシーショックにも程度がありますが、今回は喉頭浮腫+血圧低下の両方が起きていると考えます。この場合は、β2作用と昇圧作用(β1+α作用)の両方が必要なわけです。
 
①β blocker内服中の患者さんがアナフィラキシーショックになったら
この場合は、アドレナリン投与をしてもβ作用が出づらいです。喉頭浮腫も改善しづらいし、昇圧もいまいちといった状況が考えられます。この場合は、「アドレナリン投与に加えてグルカゴンの投与(1-2㎎ 筋注 20分毎)」を検討します。
 
なぜグルカゴンが有効かと言うと、β受容体を介さずにcAMPの生成を促して、気管支拡張や強心作用を発揮するからです。(ちょっとβ blocker内服中の心源性ショックの時にミルリノンを使用する理屈に似ています)
 
抗精神病薬内服中の患者さんがアナフィラキシーショックになったら
この場合は、アドレナリンの昇圧作用の反転、が問題になりますね。ただし、アナフィラキシーは致死的病態で、ガイドライン上も「アドレナリン投与がアナフィラキシーショックの治療の主軸である」(2.より引用)ことが記載されていますので、アドレナリンは使用します。
その際に、「血圧が下がるかもしれない」と認識しておくこと、カルテに診療の妥当性を記載しておくことが重要であると考えられます。
 
もしも血圧が下がった場合には、バソプレシンなどで昇圧するしかないのでしょうか(実際に経験がなく分かりませんが)
 
 
【参考文献】
1.粒来崇博.”アナフィラキシー”.内科救急診療指針2016.一般社団法人日本内科学会認定医制度審議会救急委員会編.一般社団法人日本内科学会,2016年,p.259.
 
2.Anaphylaxis対策特別委員会.アナフィラキシーガイドライン.2014年,p.19-20.